「この役だけは、ふたり一緒に録らせていただけますか」セーラーウラヌス役・緒方恵美が共演者に抱いてしまった“特別な感情”

「この役だけは、ふたり一緒に録らせていただけますか」セーラーウラヌス役・緒方恵美が共演者に抱いてしまった“特別な感情”

DVD『美少女戦士セーラームーンS』VOL.2/東映ビデオ/3409円(税込)

「窓という窓に女の子の顔がペターっと!」『幽☆遊☆白書』蔵馬役の緒方恵美を驚かせた、ファンの“熱狂的すぎる反応” から続く

『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジをはじめ、『幽☆遊☆白書』の蔵馬や『カードキャプターさくら』月城雪兎など、数々の人気キャラクターを演じてきた声優・緒方恵美さん。2021年12月公開の『劇場版 呪術廻戦0』でも、主人公の乙骨優太役を演じて話題になりました。

 ここでは、緒方さん初の自伝本『 再生(仮) 』より一部を抜粋。『美少女戦士セーラームーン』でセーラーウラヌスを演じた緒方さんが、セーラーネプチューン役・勝生真沙子さんとの共演について書いたエピソードを紹介します。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

■鯉の滝登り!?

 94年、『美少女戦士セーラームーンS』でセーラー戦士・ウラヌスを演じることになりました。

『セーラームーン』には、『R』のときから妖魔や小学生役で参加していましたが、シリーズ後半には敵キャラクター「あやかしの四姉妹」の長女ペッツ役を、そのあとに劇場版『セーラームーンR』で、タキシード仮面(地場衛)の少年時代役を。その年またぎの頃、テレビ朝日の太田賢司プロデューサーから「次のテレビシリーズで加わるセーラー戦士に君を推したい。一緒にやろう」と声がかかり、指名でウラヌス役をいただいたんです。

 その時に、相方のネプチューン(海王みちる)役には、私よりも先輩で落ち着いて芝居ができる人として勝生真沙子さんのお名前が挙がっていました。

 なんと幸せなことでしょう! 少しずつ少しずつ、仲間として認めてくださった。ひとつの作品の中で、鯉の滝登りのように……役者冥利につきすぎる、言葉で表せないほどの喜びを、噛みしめていました。

■「ええと……いわゆるビアンではなく、夫婦ですか?」

 私が演じるセーラーウラヌスこと天王はるかは、女性だけどどこか中性的で、男装の麗人的な役柄です。一見、クールに見えるけど実はとてもまっすぐで情熱的な性格。

 ジャケットを着て格好良く車を走らせたり男っぽいふるまいをしていても、どこか色っぽさを感じさせるのは、監督の幾原邦彦さんや脚本の榎戸洋司さんが官能的なニュアンスを入れてくださったから。『S』の世界全体に色気や毒気がいい感じで漂っていて、はるかの隣には、艶っぽく凛と微笑んでいる勝生さんのみちるがいる。幸せでした。

 初アフレコのとき、「はるかとみちるは、夫婦のつもりで演じてください」とディレクションを受けました。「ええと……いわゆるビアンではなく、夫婦ですか?」「そう、夫婦です」「女性同士で?」「はい」。

 どういうことなんだろう、と考えつつの発進。女性同士でもあり方は夫婦のようで、はるかは旦那側。はるかを演じる時は、旦那としてみちるをリードしなきゃと一生懸命でした。

 でもあとで考えると、掌の上で転がされてるのは完全にはるかのほう。それは勝生さん演じるみちるのおかげで、私はみちるに乗せられて、格好良くいさせていただいているんだと気づいた。すべては引き立ててくださる女性のおかげ。男性心理と居方を、沁みて学んだ時期でした……(笑)。

 はるかとみちるの掛け合いで流れる独特の空気感は、勝生さんがいたからこそ生まれました。とても繊細な空気を作り、キャッチボールできる稀有な声優のお一人。私は、自分が思った表現をそのまま出すことしかできなかったのに、勝生さんがそれをうまく掬い取り、絶妙に返してくださる。

 どの役でもそうですが、こうした空気感まできちんと含んだやりとりができることは、声優をしていても滅多にありません。もし、みちるが勝生さんでなければ全く違ったものになっていた。

■勝生さんが演じるみちるのことが…

 彼女がみちるとしてかけてくれる想いに、愛に、胸を打たれる日々。

 私は勝生さんが演じるみちるを、本当に好きになってしまっていました。

 凜としていて美しくて、優しくて強い。それでいて時折見せる儚さ、脆さ。はるかの前では一歩引いているけど、全力で支えてくれる。そんな人この世に他にいると思いますか、いや、いない(笑)。そんな風にヤバイ奴だったので、普段の勝生さんをみちると思わないように努力するので当時は精一杯でした。

 たまに勝生さんと一緒にご飯に行っても妙な緊張感が高まってしまい、逆にうまく話せない。スタジオでみんなでいる時は平気なのに。ね? 初々しいでしょ?(笑) 目の前に“推し”がいると、人はこうなるのだなと心から思いました。セーラームーンシリーズが終わるとき、感想を聞かれて「作品が終わるのはもちろん悲しいですけど、みちるに会えないのが最高につらいです」と真顔で答えたくらい(笑)。

 そんな時代を経て、なんと近年、ウラヌスとネプチューンのリップロッドが発売になり、「90年代当時のキャストで演じてほしい」というオファーがありました。スタッフの前では平静を装っていましたが気分はダダ上がり! 「初恋の人に久々に会える」と知った男性のように!(笑)

 でもこうした収録は通常ひとりで行うもの。急に心配になってきました。できるのか? あの空気を、ひとりで……? なので、「この役だけは、勝生さんと一緒じゃないとうまく雰囲気が出ないので、ふたり一緒に録らせていただけますか」とお願いしてみました。

■ずるいじゃないか、みちる。置いていくなよ……僕を。

 結果ふたりで収録できることに! しかも録音スタジオは、当時『セーラームーン』のアフレコをしていた北新宿のスタジオタバック!(正確にはタバックの後継スタジオ。ビルの老朽化で取り壊しが決定していたのですが、まだ当時の設備は残ったままでした)

 そして音声録音は『セーラームーン』の各話演出のお一人だった佐々木憲世さんが担当してくださったんです。当時のスタジオとスタッフで、映像も当時のスクリーンに投映して、ふたりで掛け合いしながら収録する……夢のような光景でした。

 その出来事がのちに、私のアルバム『アニメグ。25th』で、勝生さんに「Moon Revenge」をデュエットしていただくことに繋がっていきます。勝生さんの声と私の声が、みちるとはるかとして、オクターブ上下で重なりあう。感動と感激で咽び泣きました……(笑)。いえ、本当に。幸せでした。

 何度でも巡り会ってしまう。はるかとみちるは永遠に。

 そうですよね? きっと。

(緒方 恵美)

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