21年連続ヒット記録達成 ヤクルト・石川雅規『プロ第1号のイメージ』はすでにできている

21年連続ヒット記録達成 ヤクルト・石川雅規『プロ第1号のイメージ』はすでにできている

打撃練習をする石川雅規

 4月7日、神宮球場で行われた対中日ドラゴンズ3回戦。3回裏に打席に立った石川雅規は三塁内野安打を放った。プロ通算130本目のヒットは、同時に入団以来21年連続安打となる記念の一本でもあった。

 517試合989打席827打数130安打、0本塁打、35打点、打率.157

 これが、22年4月13日時点での石川の「全打撃成績」である。通算打率は.157で、139犠打も含めて、「石川はバッティングがいい」と言われる所以となっている。確かに、左打席に入った石川の姿には決して威圧感はないものの、巧みなバットコントロールで必死に食らいつきながら、ボールに逆らわない素直なバッティングでヒット性の当たりを放つ印象がある。

 そんな石川に「打席に入るときの気持ち」を尋ねたことがある。白い歯をこぼしながら、彼は言った。

「もちろん、“ここでヒットを打ちたいな”という思いで打席に入りますよ。やっぱり、ヒットを打つのは気持ちがいいし、僕が打てば相手ピッチャーにもダメージを与えることができるので、当然ヒットを狙ってバッターボックスに入っています」

 「元々、打撃は好きなんですか?」と尋ねたときには、「もちろんです」と、やはり笑顔で答えている。2018年シーズン、青木宣親がヤクルトに復帰した際には、こんなことも言っていた。

■「せっかく、青木といういいお手本が身近にいるのだから、何かを教わらないと損」

「せっかく、青木といういいお手本が身近にいるのだから、何かを教わらないと損だと思います。彼のバッティングフォーム、打席で意識していること、練習方法など、自分の参考になりそうなことは積極的に取り入れています」

 かつて、石川は青木に「変化球の打ち方」を尋ねたことがある。その際に「ポイントを前において、一、二塁間に引っ張ればいい」とアドバイスを受け、それを意識しながら打席に入っていたという。

 石川について、「常に向上心を持って貪欲に新しい知識、技術を取り入れようとしている」とは、彼を知る誰もが口にする言葉である。この言葉はピッチングのみならず、バッティングにおいても同様なのだということが、彼の発言からは強く感じられるのである。

■「ホームランを打つことが目標」と石川は言った

 11年に発売された石川の著書『頭で投げる。』(ベースボール・マガジン社)において、石川は自らの打撃論を詳細に展開している。例えば、こんな一節がある。

 “打撃フォームとしては、右足は少ししか上げません。「タイミングのずらし合い」という勝負のなかで、極力タイミングをずらされないようにする。そして、ストレートのタイミングで待ちながら変化球に対応していくというのが僕のバッティングです。”

 あるいは、「もしも石川雅規と対戦するとしたら?」という仮定の問いに対しては、こんなことを述べている。

 “もし、バッターとして「石川雅規」と対戦することになったら……左バッターにはシュートが多いので、シュートを狙って打ちたい。石川のスライダーはいつでもバットに当たりそうな気がします。バットを内側から出して、シュートを詰まりながらでもセンター前に落としたい。うん、なんだか打てそうな気がします!”

 ご覧になっていただければわかるように、野手と同様の「打撃論」を、自らの著書において展開しているのである。

 そして、この本の中で「ホームランを打つことが目標」と、石川は明言している。先に挙げた、ここまでの通算成績を振り返るまでもなく、石川はいまだホームランを放ってはいない。かつてのチームメイトで、「左の石川、右の館山」と称された館山昌平は、現役時代に通算2本のホームランを放っている。

 10年8月6日、館山のプロ初ホームランについて、石川は「先を越されてしまった、悔しい」と率直な心境を口にしている(笑)。

■「プロ第1号のイメージ」はすでにできている

 さて、昨シーズンから石川雅規に定期的に話を聞き続けている。そして今年もキャンプから開幕、そして現在に至るまで密着取材は継続中である。ある日のインタビューにおいて、ふとしたきっかけで「打撃論」についての話題となった。

 プロ21年目、42歳を迎えた今、改めて「もちろん今でもホームランを狙っていますよね?」と尋ねると、石川は「もちろんです!」とキッパリと言い切った。続けて、「どんなホームランを思い描いているんですか?」と尋ねてみる。

「ホームランのイメージはもうできています。やっぱり、打つならば神宮球場でしょうね。具体的には右ピッチャーのスライダーが真ん中低めに入ってくる。そこをちょっと泳ぎながら、上手にすくい上げる。打った瞬間は、“あっ、しまった”という感じなんだけど、打球は意外と伸びてギリギリでスタンドに入る。もちろん、風はフォローです。そうじゃなければ入りません(笑)」

 石川の脳内では、かなり具体的なイメージが描かれているのである。調子に乗って、「バンテリンドームのような広い球場で、相手外野手の前進守備の間を抜けてボールが転々としている間にランニングホームランなどもあるのでは?」と水を向ける。

■「ホームインの瞬間にバック転したいですね」

「いや、それはないですね。ランニングホームランは下半身のコンディション不良につながる恐れがあるので、打球が抜けてもツーベースでやめておきます(笑)」

 雑談ならではの気楽さで、話はさらに飛躍することになった。石川が言う。

「スタンドインした中を悠々とホームベースに向かいたいですね。相当、気持ちいいでしょうね。気持ちとしてはホームインの瞬間にバック転したいですね。まぁ、それは無理なのでバック転は秋山(幸二)さんに任せるとして、本当は嬉しいのに冷静なふりをしてホームインしたいですね。内心ではめちゃくちゃはしゃぎながら(笑)」

 この言葉を聞いて以来、マウンド上のピッチングだけではなく、今までよりもさらに石川の打席が楽しみになった。打者有利で、投手には不利な典型的な「ヒッターズパーク」である神宮球場。ここで石川が投げる際には常にバックスクリーンにはためく球団旗を気にすることが習慣となっていた。しかし、今季は石川が打席に入る際にも風向きを気にするようになった。

「パンチ力はないけど、タイミングが合って風に乗ればスタンドインは可能です」

 こう言い切った彼のバッティングにもぜひ注目して、今季の石川雅規の雄姿に声援を送りたい。「もしも、石川がホームランを打ったら……」、そう考えるだけで無性にワクワクしてくるではないか。これまで、多くの不可能を可能に変えてきた男の「密かな野望」。その実現をしっかりと見届けたい。そんな思いで、今日も球場に向かうのだ。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/53227 でHITボタンを押してください。

(長谷川 晶一)

関連記事(外部サイト)