「むしろ余が本当に頑張ったのはそこからだな」女児を救出したグレート-O-カーンが挑んだ5時間の事情聴取と、“正直気持ちよかった”出来事

「むしろ余が本当に頑張ったのはそこからだな」女児を救出したグレート-O-カーンが挑んだ5時間の事情聴取と、“正直気持ちよかった”出来事

女児救出レスラーが反響語る

「むしろ余が本当に頑張ったのはそこからだな」女児を救出したグレート-O-カーンが挑んだ5時間の事情聴取と、“正直気持ちよかった”出来事

新日本プロレスのグレート-O-カーン選手 ©松本輝一

 武蔵小杉駅で酔った男に絡まれていた10歳の少女を救出して、一躍ヒーローになった新日本プロレスのグレート-O-カーン選手。

 辮髪に長いひげの異様な風貌で2018年にイギリスのプロレス界に登場し、2020年に新日本プロレスを"支配"するべく来日した「偉大なる王」。リング上での極悪非道のヒールっぷりとは裏腹に、好きなものはアニメとスイーツ。4月9日にはIWGPタッグ選手権試合で勝利し、新日本プロレスのリングで初めてのベルトも獲得している。

 今もっとも注目されるレスラーは、一体何者なのだろうか。

◆◆◆

――事件の反響はそろそろ落ち着いてきましたか?

オーカーン 余は別に大したことはしておらんのだが、騒がれすぎてしまったな。もう過去の話だ。

■「美味しいもの食べたんですか? てかどこ住みですか?」

――女の子を助けた顛末がニュースで簡単に紹介されていますが、ぜひもう少し詳しく聞かせてもらえませんか。

オーカーン ふむ、よかろう。あの日は夕食を終えて武蔵小杉駅でトイレに行こうとしていたのだが、後ろから違和感のある声が聞こえてきてな。なんじゃ? と思って振り返ると、男が「いいから、いいから」と怒気を含んだ声を放ちながら、幼子の肩を引っ張っておった。一瞬は親子喧嘩かと思ったが、その女の子が泣きながら「やめてください! やめて、やめて」と言っている。そして余の目を見て「助けてください」と言うのを聞いた瞬間、体が勝手に動いた。条件反射というやつじゃな。

――男を取り押さえたのですね。

オーカーン 気づいたら幼子と男の間に割って入って、男の左脇を差してホールドしていた。余は並はずれた反射神経を持っているからな。しかし男を見て刺激しない方がいいとピンと来たゆえ、「何してるんですか?」と敬語で話しかけた。答えないので幼子に「この人はお父さん?」と聞くと「違います。お母さんがトイレに入っていて、待ってる」と。それで、ああ狙われたのだなとわかった。

――男を取り押さえながら、女の子への配慮も忘れなかった。

オーカーン そうじゃな。左手にパイを持っておったから、右手しか使えなかったが、1人取り押さえるくらい片手で十分。なんなら右手でホールドしたままパイ食ってやったわ。男は酔っぱらっている様子だったから「美味しいもの食べたんですか? 近くに美味しいお店あるんですか? てかどこ住みですか?」ってナンパみたいなことをしてたぞ。

――(笑)。どんな反応でしたか?

オーカーン その時はまだ男も意識があってな。「なんだお前、関係ねーだろ! どけどけ」と懲りずに幼子に近づこうとしていた。動けるようになった幼子が女子トイレに逃げ込んで助けられたのはよかったが、俺とおっさんはずっとハグ状態だ。むさい男と酔っ払いのおっさんが抱き合ってるんだから、通りかかった奴から見れば訳わからない状態だっただろうよ。

――しかし離すわけにもいかないですよね。

オーカーン まあ今だから冗談にもできるが、男もその時のことを酔っぱらって覚えてないと言うし、実際のところ幼子をどうするつもりだったのかはわからん。余が見たのは肩を引っ張られている瞬間だけだが、幼子は殴られたとも言っていた。後で駆け付けた警察は、そこから重大な事件に発展してもおかしくなかったと言っておったから、まあよかったんだろう。

――本当によかったです。

オーカーン 少しタイミングが違えば余も通り過ぎていたかもしれないし、トラブルか親子喧嘩か一目ではわからんもんだな。近くには他の奴らも多くいたが、責める気にはなれん。それに余はプロレスラーで鍛えていて、男を取り押さえるなんて造作もないからな。

――オーカーンさんは女の子が助けを求めた勇気を褒めていましたね。

オーカーン いざあのような状況になると、人は案外パニックになって助けを求められないものだ。幼子も相手を突き放すことができず、萎縮して小さくなっていた。痴漢に遭った時に声を出せなくなるとか言うだろう、それと同じだよ。だから声を出して助けを求めたあの幼子は勇気がある。だが、ちょっと余は腹が立っていることがあるぞ。

■「『この人顔怖っ』て思うわけねーだろ」

――何に怒っているのでしょう。

オーカーン 余のような見た目の人間に助けを求めるなんて勇気がある、と言っている奴らがいるだろう。そうじゃないだろうよ……。襲われている幼子が余を見て「この人の顔怖っ、でも強そうだから助けてもらおう」って思うわけねーだろ。隣にたまたまいた余に助けを求めただけで、それが誰だったかは関係ない。そもそも余はジャニーズ顔だ。

――(笑)。警察も駆けつけて身柄を引き渡した後に、女の子に持っていたパンケーキをあげたんですよね。

オーカーン 駅員と警察に男を引き渡したのだが、まだ幼子は泣いていてな。「怖かったよな? もう捕まえたから大丈夫だよ。パンケーキあるけど食うか?」と、それだけのことだ。泣いている女が笑顔になるなら、パンケーキくらいいくらでもやるよ。

――オーカーンさんからパンケーキもらうのも勇気がありますよね。

オーカーン 「美味しいか?」って聞いたら「美味しいです」と言っておって本当にいい子じゃ。隣にいた母親は「食べちゃったの?!」と驚いておったが(笑)。とにかく余は幼子にこの事件をトラウマにしてほしくなかったからな。怖いことがあっても、最後に美味しいものが出てきたらその思い出はちょっとはマシになるだろう。

――パンケーキをもらった日、として記憶してもらいたいものです。

オーカーン 幼子の父親がニュースに「娘は今も明るくしており、心のキズもなさそうです」とコメントしていてな。それを見た時はさすがに安心したわ。もし幼子がずっと重い気持ちのままでいたら、こっちも引き摺っちまう。とはいえ男を取り押さえるのもパンケーキをプレゼントするのも、余にとってはたいしたことではなかったがな。

――警察の方にはグレート-O-カーンと名乗られたのですか?

オーカーン 最初は「名乗るほどの者じゃない」と言ったんだがな。人生で一度は言ってみたい言葉をようやく使う機会に恵まれたわ(笑)。実際、名乗るほどのことをしたとも思ってないのじゃ。それに余はプロレスラーだから、リングの外で起きたことで名前が広まっても違うと思ったのは事実だ。だが、事情聴取を担当してくれた警察官がどうしてもと言うのでな。

■「むしろ余が本当に頑張ったのはそこからだな」

――夜遅い事件でしたが、警察の事情聴取も当日にあったのですか。

オーカーン むしろ余が本当に頑張ったのはそこからだな。警察の事情聴取に最初から最後まで、めちゃくちゃ協力したのだ。事件は夜の9時頃だったが、事情聴取はそこから5時間近く続いたのだ。間違いがあっては困るから丁寧に聞くということで、警察官も眠い顔ひとつ見せずに働いていたからな。余もとことん付き合ってやろうと思ったのだ。

――夜の9時から5時間だと、深夜2時まで……。途中で疲れてしまいそうです。

オーカーン 余は「ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜」というアニメで警察官の仕事がいかに大変かを知っていたからな。もし職質されたら警察には必ず協力しようと決めていた。その機会がこんな風にやってくるとはな。

――これまで職質されたことはなかったんですね。

オーカーン 「こんな怪しい面なのに」とでも言いたげだな、愚民が。余の優しさは、目を見ればわかる人にはわかるのだ。余は何か事件の容疑者や加害者をむやみにバッシングするのは嫌いだが、今回は余こそが当事者だったわけだから、できるだけ正確に事実のみを話す責任があると思ったのだ。忙しい余がやってるんだから、他の奴らも調子こかずに警察に協力しろよ!

――警察からは感謝状が贈られて、同業者であるレスラーたちもオーカーンさんを絶賛していましたね。

オーカーン そういえばこの前、大張高己(新日本プロレスリング株式会社代表取締役社長)という奴が「駅のホームで落ちた女の子を助けた」というツイートをしておってな、余は「偉い! 褒めて遣わす」と返信したんだが、その後に個人的に連絡が来た。「オーカーン様 あのような行動ができたのはオーカーン様の件を知って、私もそういう人間にならないといけないと本当に思ったからです」と。ま、新日本プロレスの支配者として背中を見せられてよかったな。人の心まで変えてしまうなんて、これが余の支配力というものよ。

■「正直あれは気持ち良かったな……」

――事件以降、リング上に変化はありましたか?

オーカーン 余はこれまでいろんなバッシングを受けてきた。喋り方やコスチュームや、果てはアニメが好きなことさえ"イロモノ"と言われてきた。脳筋が多いレスラーの中でSNSを使いこなしておったのも反感を買ったようだ。いつかリングの上で跪かせてやろうと思っていたが、今回のことで手のひらを返して褒めてくる奴は多いな。リング外のことがきっかけだったのは少し残念だがな。

――それでも、事件後の入場時は拍手が凄まじかったです。

オーカーン まあ、正直あれは気持ち良かったな……。数千人の人間が割れんばかりの拍手で迎えてくれるのはやはりいい気分だ。

――手には警察から授与された感謝状も持っていました。

オーカーン 事件の後に余のことをイケメンだ、本当はいい奴だ、と訳のわからん奴らが大勢いたからな。あれは「正義の名のもとに貴様らを処刑する」という宣言だ。余はもともとイケメンだし、以前から余の真価に気づいていた愛すべき帝国民たちも大勢いる。今回のことで余を見る目が変わったとすれば、そいつの見る目がなかったというわけだ。

――そして4月9日には新日本プロレスのタッグ王座最高峰、IWGPタッグのベルトを手にしています。

オーカーン だせえベルトだが、リングの中でひとつ形にできたことは悪いことじゃねえだろう。それに新日本プロレスを支配するという余の使命はまだ終わってない。今の歓声をさらに大きくして見せるから、任せておくといい。

「“陰の者”だったが『パリピ孔明』のおかげで…」グレート-O-カーンがアニメで学んだ“かっこいい”生き方と理想のヒール像 へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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