「いつ主人公を裏切るのか…」憧れの上司からドS男まで 向井理40歳の“変人路線”が開花したきっかけ

「いつ主人公を裏切るのか…」憧れの上司からドS男まで 向井理40歳の“変人路線”が開花したきっかけ

向井理 ©時事通信社

 現在、金曜日深夜の「ドラマ25」枠で放送中の向井理主演ドラマ『先生のおとりよせ』がとても面白い。話も面白いが、向井理そのものが吹っ切れた感があり面白い。

 近年彼が演じたキャラクターを抜粋し挙げてみても、九尾の妖狐に身体を乗っ取られた陰陽師、父と対立する大金持ちの長男、土方歳三、いきなり姿を消す取締役社長、婚活に失敗しまくる探偵、結婚式に乱入する謎の男――。大暴れである。

■「ヒロインの人生を変える上司」というハマり役

 舞台に映画、ドラマ、いずれかを見ればどこかに向井理の姿在り。そして今クールも『先生のおとりよせ』と『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』の2作に出演中だ。向井理って、こんな柔軟な俳優さんだったのか!と今更ながら感動しつつ観ている。

 演じる役はバラエティに富んでいるが、「知的」というパブリックイメージは揺るぎない。出世作『のだめカンタービレ』(2006年)で演じたチェリスト菊池役からずっと滲み出続けているエリートオーラ。ちなみにこの「のだめ」では、彼とオーボエの黒木役、福士誠治はまだ無名だったが、原作マンガのファンも納得のハマリ具合。一気に注目度を上げた。

 30代を過ぎると、アイドル的に騒がれた俳優ほど高い壁にぶつかるというが、向井理はここもすんなりクリアしている。和装もスーツも似合うスタイル、知的な佇まい、甘いルックス。加えて数段高いところから世の中を見るような上から目線を感じる個性は、主人公の人生を左右する上司・年上ポジションでガッツリ存在感が際立っている。

 その一つが「憧れ路線」。現在放送中の『悪女(わる)』では、主人公が憧れるT・O(田村収)役を演じているが、これはまさに彼の王道といえるだろう。「そりゃひと目惚れもするさ」と思えるシュッとしたビジネスマンぶりはお見事である。

■冷ややかな魅力を活かした“ドS路線”

 もう一つが、隙の無いムードを逆利用した「ドS路線」。過去、彼の冷ややかな魅力が最高に生かされたのが『きみが心に棲みついた』(2018年)の星名役である。吉岡里帆演じるヒロイン今日子を精神的に操り、薄笑いを浮かべる演技は本当に恐ろしかった。

 あの役の印象が強烈で、しばらくは彼が上司役で登場すると、「ドラマ後半で闇落ちする」と疑ってしまった。『わたし、定時で帰ります。』(2019年)の種田、『着飾る恋には理由があって』(2021年)の葉山、どちらもいつ主人公を裏切るのかと構えながら見守ったものである。

 ところが、そんな向井のオレ様イメージを一転させるサプライズが2022年の冬に届いた。BSテレ東のドラマ『婚活探偵』の探偵・黒崎役である。

 石原裕次郎ばりのサングラスをかけ、口ひげをたくわえ、髪はオールバック。煙草を吸い、革ジャンを羽織り、渋い声で「結婚したいなあ……」と呟く。そして結婚相談所に登録し、片っ端からフラれまくるのである。

 たまらなくカッコいい。が、たまらなくダサい……! そんなアンビバレントな魅力でドラマ全体の空間を良い意味で歪ませ、私は一気に彼に親近感が湧いた。

 あのハードボイルドン臭い黒崎が忘れられない。ロスに陥って間もなく、今度は向井理がドSの官能小説家役を演じる『先生のおとりよせ』放送のニュースが飛び込んできたのである。見ないわけにはいかない。またしてもテレビ東京、感謝しかない!

■「才能はあるけど人として最低」

 いざ観てみると、向井が演じる榎村遥華は想像以上に表情豊かで愛しかった。ドSだが好みの女性にはドM。理屈っぽい。挙動不審。デリカシーゼロ。自分勝手。「才能はあるけど人として最低」という性格である。なのにまったく憎めない。ヘンな向井理最高!

 相棒・中田みるくを演じる北村有起哉も「母性溢れるフェミ男」というクセが強いキャラクター。こちらも素晴らしく、二人のやり取りは、まるで理屈屋の息子と大人げない母のようで、不思議と癒される。

 また、編集長役の橋本マナミの静かな女王様ぶりも出色。向井と橋本とのドラマでの相性は滅法良く、彼女と共演すると一気にハードボイルド小説感が滲み出るのも面白い。

 ただ、放送時間が深夜なので、まさに飯テロ。お腹が空いて空いてたまらない。Amazonプライムビデオでも配信されているので、こちらで食事前に観るのもオススメだ。

■「変人路線」は朝ドラから始まっていた

 思い返してみれば、彼の「変人路線」は、2010年の朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の村井茂役、2016年の朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の鉄郎役ですでに開花の兆しがあった。

 特に『とと姉ちゃん』は高畑充希演じる常子の叔父役なのだが、借金大魔王でなにかと厄介事も運んでくるダメキャラ。時々すごく頼りになるところは見せる。でも結局またやらかす……という繰り返し。

 面倒臭い現代版寅さんという感じで「向井理がこんないいかげんな役をこんなに魅力的に演じるとは」と驚いたものだった。

 彼から感じる上から目線な個性は、見方を変えると「何にもマウントされない自由人の目線」。風来坊・変人コースもおおいに活用可能なのである。そこからさらに『婚活探偵』の黒崎のような、隙と弱味キャラまで振り幅が拡大。キャリアを積み、結婚し、あらゆる経験を糧にして進化し、今の彼の得も言われぬ面白さがあるのだろう。

 どんなヤバいキャラクターも奇抜にせず「こんな人、案外自分のすぐそばにいるかもしれない」と思わせる自然な演技は大きな魅力だ。前髪の分け方で、社会性の有り無しを演じ分けるテクニックも素晴らしい。

■40歳にして「楽しそうに演じる」という魅力

 しかしなにより「楽しそうに演じる俳優さんになったなあ」と思う。40歳なりのくたびれた雰囲気を隠さず出してるけれど、嬉々と演じる雰囲気はやんちゃ坊主のように若返って見える。こんな熟成の仕方があるのだなあ、と観ていてワクワクする、それが今の彼の一番の魅力かも。

 7月からは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』で、主演のハリー・ポッターを藤原竜也・石丸幹二とのトリプルキャストで演じるという。

 今度は魔法界に進出! 向井理の新しい挑戦はまだまだ続きそうだ。

(田中 稲)

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