「私がライオンに落とし前をつけに行く」ムツゴロウさんも笑う妻・純子さんの“珍獣”性 若き日の“雀荘置き去り事件”も…

「私がライオンに落とし前をつけに行く」ムツゴロウさんも笑う妻・純子さんの“珍獣”性 若き日の“雀荘置き去り事件”も…

ムツゴロウさんと純子さん ?文藝春秋 撮影・鈴木七絵

「地の果てでもどこでもついて行く」妻・純子さんが語るムツゴロウさんとの70年 結核、麻雀、無人島、借金、そして… から続く

 ムツゴロウさんと中学の同期生として出会い、それ以来70年にわたって一緒に過ごしてきた妻・純子さん。ムツゴロウさんの奔放さは有名だが、話を聞いていくうちに、純子さんの中にも“珍獣”性があることが徐々に明らかになってきた。

ムツゴロウ 僕も変わり者とよく言われたものですが、女房も変わっていましてね。映画の「子猫物語」が大ヒットした1986年頃に僕が何億って稼いだ年があって、そうすると「お金を貸してください」という人がやっぱり訪ねて来るんです。話を聞くと僕は助けてあげたくなって、「お前はこれだけ持ってけ」「お前はこれだけだ」って大金でもすぐにあげちゃったの。でもよく考えたら、それを見ていた女房は何も言わなかったんですよ。

純子 畑が一生懸命働いて稼いだお金ですからね。あと実は、私も知り合いに「いくらかなんとかしてもらえないか」と言われて、あげちゃったことがあって(笑)。そのお金でその人が生活できるようになるんだったら、と思ったんですよね。

ムツゴロウ タバコもね、今では女房の方が僕より吸いますよ。僕は原稿を書く時に増えるけど、女房はずっと変わらないから。

純子 結婚してから畑に「これからの女性はタバコくらい吸わなきゃ」と勧められて覚えましたね。それをすぐに受け入れてしまうのが私のダメなところ(笑)。妊娠中は止めていましたが、今は1日1箱半くらい吸いますよ。

■「ちょっと女房と遊んでやってください」と雀荘に置いていかれて…

――純子さんは若い頃に結核を患われていますが、肺などは大丈夫なんですか……?

純子 畑は私の結核の再発を心配して「仕事なんてしなくていい」と大事にしてもらったんですが、そういえばタバコは勧められましたね(笑)。

――他にもムツゴロウさんに影響されたなと思うことはありますか?

純子 畑が楽しそうに麻雀しているのを見ているうちに私もやってみたくなって、自分で覚えて近所の友人に畑も交えて毎晩のように麻雀をしていた時期があります。畑の知り合いがやっていた東京の雀荘で「ちょっと女房と遊んでやってください」と私だけが置いていかれたこともありましたけど、その時だって勝ちましたよ。パチンコも競馬もやりましたし、無人島にいた頃は娘と3人で花札もやりました。人生ですから、多少の楽しみがあってもいいじゃないですか。

■「最初に謝るのは必ず畑の方ですけどね(笑)」

――雀荘に妻を置いていくムツゴロウさん、さすがすぎます(笑)。2人だけのときはどういった関係性なんでしょう?

純子 畑は仕事でも何でも没頭するので、集中したらそのことだけになってしまう人。若い頃には年末の12月28日に麻雀へ行ったっきり、1月7日まで帰って来ないこともありましたね。いつものことですし、いつか帰ってくることはわかってましたけどね。

ムツゴロウ 友人が新しい雀荘を作ったというので行ってみたら面白くなっちゃってね。でもあの時は家に帰ったら「この野郎おまえ」ってあなた啖呵切ってたよ(笑)。ほとんど怒っているところは見たことがないんですけど、あの時は珍しく怒られました。

――(笑)。お2人はお互いになんと呼び合っているんですか?

純子 若い頃は名前で呼ばれたことはなかったような気がします。最近はときどき“純子さん”って呼んでくれるんですよ。私の方は“あなた”と呼んでいます。実は私はずっと敬語なんですよ。喧嘩すると、最初に謝るのは必ず畑の方ですけどね(笑)。

■借金を背負った時にも手放さなかったイエローダイヤの指輪

――喧嘩の理由はどんなことなんでしょう。お金の問題などがぱっと思いつきますが。

純子 畑の金銭感覚について気になったことはありませんね。ただ、新婚時代はさすがに苦労した思い出があります。アパートの共同台所でシジミを調理していたら、隣に住んでいた女性に「お宅はしじみを食べるの? ふつうは出汁を取るだけよ」って笑われたことがありました。それを畑に話したら「コノヤロー!」っていうことになって、バイト代が入った日に2人で大きいステーキ肉を2枚買って、隣の女性が共同台所に来るタイミングを見計らって、目の前でステーキを焼いてやりましたよ。「今だ、行けー!」なんて言って(笑)。

ムツゴロウ あったあった(笑)。結婚する時にこの人の父親が僕に上下の背広を作ってくれたんですけど、僕らは貧乏でしょ。何するにも生活するお金がなくて、アパートの隣にあった質屋に泣く泣くその背広を持って行ったんですが、お金が用意できなくて流れてしまったこともありました。あれは本当に申し訳なかったですね……。

――その後も数億円を稼いで知人に大金を配ってしまうような時期があったと思えば、2004年には東京ムツゴロウ王国の経営破たんで3億円の借金を抱えたりと波乱万丈です。

純子 借金はもちろん大変でしたけど、借金ができてしまった事実から逃げ出すわけにはいかないから、悔やんでも仕方がないと当時から思っていました。私が老後のために貯めておいたお金も、すべて返済に当てました。畑も執筆や講演会などで休まず働いてくれて、なんとかここまで頑張ってきました。

――純子さん自身がよくお金を使うジャンルなどもあるんですか?

純子 自分で使うことはほとんどありませんが、30年以上前に畑に買ってもらったイエローダイヤはかなり値段がしました。結婚指輪もなかったので、これをもらった時は嬉しかったですね。借金を抱えた時もなんとか手放さずにすんで、今でもつけている宝物です。

ムツゴロウ 僕は野生動物と会いに世界中へ行って、生き残って帰ってこられたら記念に物を買うことにしてるんです。この指輪もアフリカから無事に帰った記念に贈ったものですね。

――生き残ったら、ですか……。たしかにライオンに中指を食いちぎられたり何度も大怪我をされていますからね。

純子 その時も畑は「女房には言わないでくれ」って番組のスタッフに言ったらしいんですよ。実際に指がないんだから、隠し通せるはずがないのに……。ライオンにやられたと聞いた時は「私が落とし前をつけに行く」と言ったんですが、さすがにブラジルは遠いし、畑自身も気にしていないし、痛いとさえ言わない。それで、命まで取られたわけじゃないからよかったかと思うようになりました。

■「あの絵、売っちゃったの? 黙って? あらまー……」

――落とし前(笑)。でもやっぱりお互いの存在が一番の宝物ですね。

純子 そうですね。畑からもらったものはやっぱり大切です。リビングに飾っている絵は、30年以上前に私と当時飼っていたパグを描いてくれたもの。私は本当に気に入っているのですが、畑はいつも「売りたい」って言うので「それだけは止めてください」と頼んでいます。畑の描いた絵はできるだけ手元に置いておきたいんですけど、この人は隙あらば売ろうとするんですよ。

ムツゴロウ 僕はね、自分の描いた絵は売らないとダメっていう考えなんです。人に持っていてもらうことが大切だと思っているので、画廊に任せている絵も「安くてもいいからとにかく売ってくれ」と言っています。そういえば、しばらく家に置いてあったアフガニスタンの人々を描いた絵も昨年ようやく売れたんですよ。

純子 あの絵、売っちゃったの? 黙って? あらまー……。でも畑の魅力をわかってくださる方がたくさんいるということなら仕方ないですかね。気に入ってはいたんですけど。

――純子さん、また受け入れてしまっています(笑)。

純子 もう70年以上一緒にいますからね(笑)。でも畑とは中学2年生の頃から一緒ですけど、今でも何をするか予想がつきません。私はどうも、その何をやるかわからない畑を面白いと思ってしまうんです。流れるような話し方も好きだし、今でも憧れます。確かにちょっと常識とは違うかもしれないけれど、本当に魅力的な人間だと思いますよ。

――70年、振り返ってどうですか?

純子 考えてみれば長い間生きてきて、私たちもいい年になりました。5年前に畑が心筋梗塞で倒れてドクターヘリで運ばれる時は「もしかしたら最後かもしれない」という思いがよぎって顔を見るのが本当に怖かったです。なんとか回復して1カ月くらいで家に帰ってきてくれて、2人の時間を大切にしようと改めて思いました。今でも毎朝、畑の「おはようございます」を聞くまではやっぱり心配。もう新しく動物を飼うのは無理ですけど畑にはもう少し長生きしてほしいし、生まれ変わってもまた一緒になりたいですね。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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