「ドイツから元カノが乗り込んできて修羅場になっちゃう(笑)」文豪漫画の作者たちが「一緒に住みたい文豪・住みたくない文豪」を妄想してみた

「ドイツから元カノが乗り込んできて修羅場になっちゃう(笑)」文豪漫画の作者たちが「一緒に住みたい文豪・住みたくない文豪」を妄想してみた

『めぞん文豪』原作者の神田桂一(写真中央)&菊池良(右)の両氏と、漫画担当の河尻みつる氏(左)に「一緒に住みたい文豪・住みたくない文豪」を語ってもらった ©志水隆/文藝春秋

 もしも近代文学の著名作家たちが現代で同じシェアハウスで暮らしていたら……? 漫画『 めぞん文豪 』は、太宰治や坂口安吾、川端康成といった文豪たちの共同生活を描いたコメディだ。

 作中でもネタにされているように、「石川啄木は借金の名人」や「坂口安吾は汚部屋暮らし」など文豪には強烈な個性の持ち主も少なくない。『めぞん文豪』の原作を担当するライターの神田桂一と菊池良、漫画担当の河尻みつるに「一緒に住みたい文豪/住みたくない文豪」について妄想をふくらませてもらった。

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■メチャクチャな企画が生まれた経緯

――『めぞん文豪』はどのように生まれた作品ですか? 神田さんと菊池さんが共著した『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』シリーズは累計15万部のヒットを飛ばしましたが、その流れで生まれた企画なのでしょうか?

神田桂一(以下、神田) 実は『もしそば』はあまり関係ないんです。菊池くんが「文豪がシェアハウスで生活する」というアイデアをツイートしているのを見かけて、それ自体は特にバズったりしていなかったんですが、僕はおもしろく感じたんですよね。たまたま映像制作会社で働く友人から「何かドラマ向けの企画はないか」と相談されたとき、菊池くんに無許可で(笑)、「こういう企画を見つけたよ」と先方に伝えたら、話がどんどん進んでいって……。結局ドラマの話は途中でストップしてしまったんですが、漫画の企画として復活を遂げました。

――最初は菊池さんの知らないところで話が進んでいたんですね……!

神田 途中でOKをもらいました(笑)。

菊池良(以下、菊池) 『もしそば』も同じような経緯だったんですよ。いつもTwitterにアイデアを載せたら、知らないところで神田さんが動いてくれて本になる(笑)。

河尻みつる(以下、河尻) 漫画化のタイミングで、私が制作に加わりました。自分はすごく近代小説に詳しいわけではないんですが、キャラクターをたくさん描けるシェアハウスの話はもともと興味があったので、これはラッキーな企画だなと。

■志賀直哉には自分の性癖を詰め込んだ

――原作者がふたり、漫画担当がひとりの3人体制でどのように制作しているのでしょうか?

菊池 2週間に一度くらいのペースで、僕と神田さんで打ち合わせをしています。僕の質問に対して神田さんが答えたのを僕がプロットにまとめて、神田さんがギャグを足して、それをもとに河尻さんがネームを切ってストーリーに仕上げるような流れです。

――菊池さんの質問に神田さんが答える、とは?

菊池 たとえば、僕が「夏ですけど、夏ってなんですかね?」と聞きます。

神田 夏といえば海だよね。

菊池 海でどんなことをするんですか? そのとき川端康成はどうしているんですか?

神田 海の家に行って、川端はひとり家にいるんだよ……みたいな感じですね。

――文豪をテーマにする上で、守っている一線というのはありますか?

菊池 さすがに本人が書いているのと正反対のことはやらないようにしています。「トマトが嫌いな人の好物をトマトにしない」程度のルールではありますが。

神田 僕はあまり気にせずアイデアを出すので、菊池くんによく修正されています。ガキ使のパロディをやろうとして、「それはさすがに文豪と関係なさすぎる」と言われたり(笑)。僕のフリーなアイデアを史実に繋げるのが菊池くん、という役割分担でいます。

――河尻さんは、キャラデザなどで守っている一線はありますか?

河尻 モデルとなる文豪の顔写真はあえて見ません。原作のおふたりにキャラクターの特徴やプロフィールについて聞かせてもらい、そこに私自身のその文豪に対するイメージを混ぜ合わせるような形でデザインしています。

 あくまで『めぞん文豪』という作品の世界なので、実在する写真をそのままアウトプットするようなことはしなくていいのかなという考えです。なので志賀直哉には、褐色、短髪、舌ピアスと自分の性癖を詰め込みました(笑)。

■坂口安吾とのシェアハウスは揉め事必須?

――『めぞん文豪』に登場する中で、一緒にシェアハウスで住みたい文豪、住みたくない文豪は誰ですか?

神田 住みたいのは武者小路実篤ですね。

――作中の実篤は、シェアハウスの住民たちに手料理を振る舞ってくれる一方で、オーガニック好みでSDGsへの関心も高いですよね。ライフスタイルへのこだわりの強さという意味で一緒に暮らすのは少し大変そうな気もしますが……。

神田 僕もていねいな暮らしを日ごろ実践していますから……というのはウソですけど(笑)。実篤は「新しき村」という農村共同体を設立し、開村から100年経った今でもその村は続いています。僕はコミューンに関心があるので、いろいろ興味深い話を聞かせてくれそうです。

――神田さんは実際にシェアハウスに住んでいたことがあると聞きました。その経験をもとに、一緒に住みたくないのは?

神田 坂口安吾ですね。神経質な人がひとりいるとマジで揉めるんですよ! シェアハウス時代、僕が朝ごはんを7時くらいに作っていたら、そいつが無言でじっと立っているので、「うるさいってことですか?」と聞いたら、「はい」って……。朝7時なら朝食作ったっていいだろ! そいつのせいで僕の前に5人くらい出ていきました。

菊池 安吾ってそんなに神経質なキャラでしたっけ?

神田 ……そうでもないかな。自分の部屋めっちゃ汚いしね。特定個人の愚痴になっていた(笑)。

■クズキャラ・石川啄木との生活は楽しそう

――菊池さんが一緒に住みたいのは?

菊池 僕は石川啄木です。

神田 わかりやすいクズキャラですよね。

菊池 借金の名人ですからね。彼の日記が残っているんですけど、「明け方まで本を読んで眠いので仕事に行くのはやめた」とか、そんな内容です(笑)。でも楽しそうな人じゃないですか? 一緒に徹夜でゲームしたい。

――逆に一緒に住みたくないのは?

菊池 川端康成ですね。もともと川端は、文芸時評で頭角を現した批評家で、太宰治は芥川賞をめぐるやり取りで彼にズバッと斬られています。なんだか厳しそうな印象があるので、ゆるい人のほうが一緒に暮らして楽しそうかなと。

――河尻さんはいかがでしょう?

河尻 私はむしろ川端先生と一緒に住みたいです。俯瞰的に人間を見るぶん、逆にちょうどいい距離感を保ってくれる気がします。あとは愛犬家なので、一緒に暮らすともれなく犬がついてきそう(笑)。一緒に住みたくないキャラはいないかもしれません。

■シェアハウスは恋愛絡みで揉める!

――『めぞん文豪』に登場する以外の文豪で、「一緒に住みたい/住みたくない」はありますか?

菊池 僕は横光利一です。単純に好きな作家という理由ではありますが、実験的な小説を生涯書き続けて「文学の神様」と呼ばれた人なので、たくさん刺激をもらいたいです。シェアハウスがトキワ荘みたいになりそう。

神田 「住みたくない」で言うと、僕の経験上、シェアハウスは恋愛絡みですごく揉めるんですよ。僕が住んでいたところも恋人を連れ込むのは禁止でした。だから吉行淳之介と住むと絶対トラブルになりますね。女性関係のエピソードがすごく多い作家なんですよ。

――夏目漱石、森鴎外といった教科書に載って知名度抜群の作家たちはいかがでしょうか? 『めぞん文豪』には現時点で登場していませんが。

菊池 そのふたりは太宰たちより時代的にひとつふたつ上になるので、出し方が難しいんですよね。ただ、ふたりとも一緒に住むのは面倒なタイプだと思います(笑)。

神田 夏目漱石なんて神経質かつ短気で有名ですからね。鴎外は医者だから、病気のときはありがたい存在だけど……。

菊池 でも鴎外も女性関係がね……。ドイツから元カノが乗り込んできて修羅場になっちゃう(笑)。

■いつの時代も作家は変わり者?

――やっぱり文豪って変な人が多いんでしょうか……?

菊池 たぶん真人間もいるんでしょうが、そういう人の裏話は語り継がれないんだと思います(笑)。ただ菊池寛は、彼に世話になった人が多いぶん、人柄を褒めるようなエピソードがたくさん伝わっています。「若い書き手が自由に書ける場を」という思いで文藝春秋を創刊しましたし、日本文藝家協会の初代会長も務めましたし、文学者が文学だけで生活するためにはどうすべきかを考えてきた人でした。それが『めぞん文豪』での「作家のためのシェアハウスを用意する」というキャラクター造形にも繋がっています。

――近代文学の作家たちは、強烈なエピソードをいくつも残しています。それは時代によるものだと思いますか?  それとも作家とは、いつの時代も大なり小なり変わり者なのでしょうか?

菊池 どの時代も作家は変わらないと思います。特に文学のジャンルでは、金銭的な成功を収める可能性はほぼありません。それでも文学を志す人たちは、やっぱり覚悟が決まっています。だから将来は、平成・令和の作家たちが「昔の作家はすごかった」と言われているかもしれませんね。


神田 どこか変な人だからこそ、おもしろい作品が書けるということもあるでしょうしね。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

菊池 『めぞん文豪』を読んでくださった方々が、文豪たちの熱を感じて自分でも何か作ってくれたらすごくうれしいです。

神田 アニソンの作詞をして印税を稼ぎたいので(笑)、アニメ化を目指してがんばります!

河尻 私は1話1話をしっかり描いていくだけです。ぜひご興味があれば読んでみてください。

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「あぁなんて恥の多い生涯……」芥川賞を逃した太宰治が“文豪ばかり集まるシェアハウス”に住み始めたワケ へ続く

(原田イチボ@HEW)

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