「ペコポコが生き埋めに」「“苺”より“いちご”の方が果実感のあるジャムが入っている」… 発売38年、累計2000種以上「ランチパック」開発者が明かす“渾身のヒット作”
2022年05月22日 12時00分 文春オンライン

「ペコポコが生き埋めに」「“苺”より“いちご”の方が果実感のあるジャムが入っている」… 発売38年、累計2000種以上「ランチパック」開発者が明かす“渾身のヒット作”の画像
「売れてるのは阪神『ぼっかけ焼きそば』と日ハム『ハムカツとハムマヨネーズ』」12球団コラボ“ランチパック”がペナントレースと“逆の順位”のワケ から続く
手軽に食べられる“サンドイッチ”として国民的人気を誇る「ランチパック」。毎月新商品を発売し続け、これまでに累計2000種類以上が販売されている。なぜこんなにも次々と新商品を発売し続けるのか。山崎製パンの保田高宏氏に、商品開発の裏話を聞いた。(全2回の2回目。 1回目 を読む)
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■まれに定番商品へと“格上げ”される商品も
――ランチパックの公式サイトには、毎月4種類の「今月の新商品」が掲載されています。なぜ毎月こんなに新商品を発売しているのですか?
保田 ランチパックはお客様の認知度も高く、多くのスーパーやコンビニなどでも販売されていますが、常に新しいおいしさをお客様に提供していかないと飽きられてしまいます。ですから、定番商品以外を期間限定販売にして、毎月新商品を発売することで2〜3ヶ月で店頭商品が入れ替わるようにしています。
新商品のなかには、まれに定番商品へと“格上げ”される商品もあります。スライスハムとたまごフィリングをサンドした「ハム&エッグ」は、昔からあるような顔をしていますが、6年前に発売された新参者です。お客様にも大人気で、おかげさまですっかり定番商品として定着しました。
■「ペコポコが生き埋めになっている」
――コラボ商品も多く発売されています。全国発売の4商品のうち1商品は必ずコラボランチパックと決まっているのですか?
保田 たまたま最近は毎月コラボランチパックを発売しているだけで、いつもあるわけではありません。
でも、コラボランチパックを楽しみにしてくださっているお客さまも多いので、担当者も励みになっています。
──2月に発売された、不二家とのコラボランチパック「ペコポコチョコレート入れちゃいました」は、Twitterなどで「ペコポコが生き埋めになっている」とバズっていましたよね。
保田 あれは想定以上の反響でした。再販のお問い合わせなども多数いただいているのですが、好評を得たからといって長々と販売していてはお客さまに飽きられてしまうので、もし再販するとしても、バレンタインシーズン限定にして、さらにいいものを販売する、などの形でご提供できればいいなと思っています。
■総菜系のなかでも、特に汁物は難易度が高い
──地域の特徴ある素材を使用した「ご当地ランチパック」も、いつも話題になりますよね。SNSなどで「沖縄県ではランチパックが売っていない」という投稿をよく見ますが、沖縄県のご当地商品はあるんですか?
保田 山崎製パンの販売エリアに沖縄県は入っていませんが、沖縄県の素材は魅力があるものが多く、全国販売の商品で使用することも多いです。5月の新商品のひとつが、沖縄ご当地ランチパック「塩バニラクリーム&塩バニラホイップ」です。
沖縄県産黒糖の黒糖蜜とクリームを練り込んだパンに宮古島産の塩入り塩バニラクリームと塩バニラホイップをサンドしました。沖縄の素材を使用したランチパックはこれまでにも何度か発売していて、いつもご好評をいただいています。
──スイーツ系よりも総菜系のほうが人気だと伺いましたが、総菜系のほうが、サンドする技術の難易度が高いのでは?
保田 サンドする具材によりますよ。でも、総菜系のなかでもとくに汁物は難しいですね。
■ネーミングは開発担当者のセンスやご当地の素材による
──汁物といえば、過去に家系ラーメンの総本山・吉村家とコラボした「家系 豚骨醤油ラーメン風」ランチパックもTwitterで話題になっていました。どういう基準でコラボが決まるんですか?
保田 当たり前ですけど、おいしくて、お客さまに喜んでいただけるかどうか、というのがコラボの判断基準です。当社としても、あまりにも出荷量が見込めない商品を販売するわけにはいきませんからね。
ただ、過去にはキャリア教育の一環として、高校の授業のなかでネーミングやパッケージデザインを高校生と一緒に考えたり、大学生との共同開発で新商品を販売したりというコラボ事例もあります。
──ネーミングは、商品によって長さや表記がバラバラですよね。2種類の素材を表現するのにも「と」があったり「&」があったりと統一されていませんが、何かルールはあるのですか?
保田 「と」が真ん中に入っている商品は、2組のパンに、それぞれ別の具材がサンドされていて、「&」がついた商品は、2種類以上の具材が一緒にサンドされた同じパンが2組入っている、というルールがあります。あとは、開発担当者のセンスやご当地の素材によっても変わってきますが、私が開発に関わる商品は、だいたい短くてひらがなが多い傾向にあります。
■ひらがなのほうが漢字よりもおいしそうに見える
──保田さんのお気に入りのネーミングを教えてください。
保田 「チーズ!!!」です。3つの「!!!」で、3種類のチーズ(スライスチーズ・チーズクリーム・チーズソース)を表現した、渾身のヒット作です。チーズ系は安定した人気があり、そのままでもトーストしてもおいしいので、あわよくば定番化を狙っていたのですが、発売から1年後に終売になってしまい、いまでも残念に思っています……。
また、昨年秋に発売した「おいも」も渾身のネーミング作です。これも「!」をつけたいくらい思い入れがありました。サツマイモ系は過去にもたくさん発売していますが、長めの商品が多かったので、グッと短くまとめ、なおかつ、ひらがなで思いを表しました。
店頭でひらがな・短めな名前のランチパックを見かけたら、保田発案率が高いと思ってください(笑)。
──ひらがなにはどのようなこだわりがあるのですか?
保田 これはあくまで私個人の意見ですけど、ひらがなのほうが漢字よりもおいしそうに見えませんか? それに、ひらがなだったら小さなお子様でも読めますよね。とくに「いちご」は何種類か発売されていますが、私が担当した「フルーティランチパックシリーズ」は「いちごジャム」とひらがなで書かれているので、それだけでおいしそうに見えるはずです(笑)。
■主力商品には、パッケージに英文を記載
──「いちご」は本当にたくさんの種類がありますね……。何か違いがあるのですか?
保田 「いちごジャム」とひらがなで書かれた商品には、「苺ジャム」と漢字で書かれたものよりも果実感のあるジャムが入っています。
あとは、先ほど説明した「&」「と」の法則通り、いちごジャム以外にホイップやマーガリンがサンドされている商品や、ご当地のいちごを使用した「福岡県産あまおう苺ジャム&ホイップ」「とちおとめ苺のジャム&レアチーズクリーム」などがあります。
──パッケージに英文が書いてあるものと、ないものがありますね。これにもこだわりがあるのですか?
保田 パッケージに英文が書かれているのは、主力商品です。「フルーティランチパックシリーズ」の発売が東京2020オリンピック・パラリンピック開催時期と重なっていたので、外国の方にも商品特徴をご理解いただけるよう英文をつけようということになり、同じタイミングで定番の主力商品にもすべて英文を入れました。
一部のご当地ランチパックにも、英文表記が書かれた商品があります。
■再販したものの、まったく売れなかったことも
──ランチパックのライバルは、おにぎりになるのでしょうか……?
保田 ランチパックをおにぎりと同じような感覚でとらえられる方も多いんですけど、開発担当者としては、ランチパックの横におにぎりがライバルとして並ぶイメージはまったくないです。
おにぎりにはおにぎりの、ランチパックにはランチパックのよさがあると思いますが、強いて言うなら、どちらも具材を選ぶ楽しさがあるという点では共通していますよね。ランチパックをいろいろなシーンでお楽しみいただければ担当者冥利に尽きます。
──これまで多数の商品を販売してきたランチパックの場合、「過去の人気商品がライバル」ともいえますね。人気が高かった販売終了品を再販することもあるんですか?
保田 過去に再発売したこともありますが、悲しいことに、担当者が思うほどお客さまは過去の商品のことを覚えていないんですよ。
以前、「元祖4種の味わい」と称して、発売当時の「ピーナツ」「ヨーグルト」「小倉」「青りんご」の4種類を再販したことがありましたが、「再販します!」と盛り上がっているのは担当者だけでまったく売れませんでした……。
■さらなるおいしさを追求していきたい
──新たな商品を発表し続けるほうが、ランチパックらしい気もします。保田さんおすすめのアレンジレシピも教えてください。
保田 若干手間がかかりますが、「ピーナッツ」のフレンチトーストはおすすめです。「チョコレート」など、スイーツ系ランチパックでもおいしいと思います。
また、オーブントースターやホットサンドでリベイクするのもおすすめです。キャンプに持っていくというご意見も多くいただきます。私もキャンプ好きなので次回は「キャンプでホットサンド」を試してみたいと思います。
あとは、これから暑くなる時期に向けて、「フルーティランチパックシリーズ」を半分に切って、アイスクリームとフルーツを挟んで食べるアイスクリームサンドもご提案していこうと考えています。
2019年に日本でラグビーのワールドカップが行われた際、取材に来た外国人記者がランチパックをTwitterで紹介してバズったことがありました。今後は、商品そのものの味はもちろん、アレンジなどの楽しみ方でも注目していただけるよう、さらなるおいしさを追求していきたいと思っています。
(撮影:松本輝一/文藝春秋)
(相澤 洋美)
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