「イヤです、答えません」発言に見えた生き様…巨人の大エース・菅野智之を応援したくなる理由

「イヤです、答えません」発言に見えた生き様…巨人の大エース・菅野智之を応援したくなる理由

菅野智之

 開幕から1カ月あまりが過ぎた頃、巨人の歴史的快挙がニュースになりました。

――4月までにプロ初勝利を記録した投手が6人も誕生。

 史上初の出来事だそうです。堀田賢慎選手、戸田懐生選手、赤星優志選手、大勢選手、平内龍太選手、山ア伊織選手の6人が早々にプロ初勝利を記録。「新時代の幕開けだ」と心をときめかせた人も多かったはずです。

 しかし、僕は素直にそうとらえられませんでした。「あれ? これヤバくない??」と思ってしまったんです。開幕直後からプロ初勝利の投手が続出するということは、計算が立つ投手がいない裏返しでもあります。もちろん、フレッシュな投手の躍進はうれしいものの、長いペナントレースで優勝を勝ち取るには不安を覚えてしまったのです。

 4月29日からの10試合は1勝9敗と大苦戦。その後は持ち直したとはいえ、経験の浅い投手陣はほころびを見せ始めました。

 そんな今、予告先発に「菅野智之」の名前を見つけると、ホッと胸をなでおろしている自分がいます。巨人にはこの大エースがいる。その存在感と安心感は数字だけでは測れません。

■「誠司、この『負け運』って何?」

 菅野選手について、忘れられないシーンがあります。

 コナミの大人気野球ゲーム『パワプロ(実況パワフルプロ野球2018)』の発売前プロモーションで、巨人の菅野選手と小林誠司選手の同級生コンビがゲームで対戦する動画企画がありました。

 対戦中、菅野選手はあることに気づき、小林選手に尋ねます。

「誠司、この『負け運』って何?」

 小林選手は黙って下を向いてしまいました。

 パワプロには選手の特徴に応じた特殊能力がついています。「逆境○」「重い球」といったポジティブな能力もあれば、勝ち星に恵まれにくい「負け運」というネガティブな能力も存在します。菅野選手は2015年に防御率1.91という素晴らしい成績を残しながら、10勝11敗と負け越したシーズンもありました。そんな不憫な背景もあって、菅野選手に「負け運」の特殊能力がついてしまったのでしょう。

 でも、5月22日時点の菅野選手の通算成績は112勝59敗。たしかに勝ち運に見放された時期があったとはいえ、勝率6割をはるかに超えているのです。平成後期から令和にかけ、巨人を支えてきた大エースなのは間違いありません。

 ここまできたら、菅野選手にはなんとか通算200勝を達成してもらいたい……。そう思わずにはいられません。

 通算200勝を達成した投手は、日米通算なら2016年の黒田博樹さん(元広島ほか)、日本だけの数字なら2008年の山本昌さんを最後に現れていません。

 現役投手でもっとも近づいているのは、石川雅規選手(ヤクルト)で通算179勝。その石川選手は42歳でここまでたどり着いており、いかに200勝という数字が果てしないかが伝わるはずです。なお、日米通算なら田中将大選手(楽天)が185勝、ダルビッシュ有選手(パドレス)が176勝と射程圏内に入っています。

 菅野選手は今年10月の誕生日で33歳になります。選手としてのピークは越え、これから徐々に絶対的エースの立場ではなくなっていくのでしょう。それでも、これまでの菅野選手の歩みを見ていると、スパッと気持ちを切り替えてモデルチェンジに成功するイメージが湧いてきます。

 2018年には新球・シンカーに挑戦し、2020年には上半身を先にねじって始動する不思議な投球フォームへと変更。でも、いずれもフィットしないと見るや、固執することなくバサッと捨てて新しい道を選んだのです。変化を恐れなかったからこそ、今の菅野選手があるのではないでしょうか。

 たとえ球速が衰えて140キロ台しか出なくても、正確なコントロールと投球術であと10年は僕たちファンを楽しませてもらいたい。そうすれば、自然と200勝という数字に近づいていけるはずです。近い将来、「クオリティスタート(6回3自責点以内)の鬼」と呼ばれ、着実に勝ち星を重ねる菅野選手の姿も見てみたいです。

■「イヤです、答えません」発言に潜む菅野智之の深淵

 その一方で、菅野選手が記録に未練を残さず、スパッとやめてしまう可能性もかすかに感じてしまいます。

 僕は芸能の仕事をしていることもあって、どうしても人の「キャラクター性」に目が行ってしまいます。僕のなかで菅野選手は「昭和の男」というイメージがあります。

 今どきのアスリートは、大谷翔平選手のようなソツのない発言をする好青年が愛されています。大谷選手がコメントして炎上したことなど、一度もないのではないでしょうか。炎上を回避する思考回路でも搭載されているのか? と思うほどです。

 一方、菅野選手はどうでしょうか。マウンド上で口を真一文字に結び、ヤンチャでも好青年でもなく、年齢以上にふてぶてしく見えるたたずまい。判定に納得がいかない時など、露骨に「はぁ?」と不満な態度をとったり、ニヤッとニヒルな笑みを浮かべたりします。もし、佐々木朗希選手が菅野選手と同じふるまいをしたら、球審によってはさらなる大騒ぎに発展するでしょう。

 菅野選手は発言もエッジが効いています。2020年オフにポスティングシステムでのMLB行きを断念して巨人残留を表明した際、記者会見で「交渉時にどこが納得できなかったのか?」と聞かれた菅野選手は、こう答えたとされています。

「イヤです、答えません」

 本人からすれば冗談だったのかもしれませんし、機嫌が悪かっただけかもしれません。でも、僕はこの発言に菅野選手の生き方がにじみ出ていると感じるのです。

 だって、質問に答えたほうが楽なのです。本音を隠し、当たり障りないことを言えばいいのですから。あえてイバラの道を選ぶところに、菅野選手の職人気質が透けて見えます。

 入団までのプロセスも、菅野選手の「昭和っぽさ」を感じます。原辰徳監督を伯父にもち、「巨人以外は入団しない」と表明。他球団からの指名を拒否して浪人してまで巨人にこだわる、「THE昭和」な入団の仕方でした。菅野選手以降、「巨人以外の指名はお断り」というアマチュア選手は記憶にありません。

 バッシングの嵐に耐え、結果でアンチを黙らせてきたのが菅野智之という野球選手なのです。「菅野智之のピッチングができなくなった」と、あっさりとユニホームを脱いでしまう姿も想像できてしまいます。

 巨人で200勝を目指すのか、それとも衰えがきたらあっさり引退するのか、それともメジャー・リーグへの夢を追うのか……。どの道を選んだとしても、年輪を重ねた菅野選手に魅力がないはずがありません。渋みが増した職人が投げる1試合、1試合をこの目にしっかり焼きつけていきたいと思います。

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(後上 翔太(純烈))

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