「今場所は厳しいかも」からの大逆転…照ノ富士が“7度目の優勝”を果たせたワケ《“元安美錦”安治川親方の5月場所総評》

「今場所は厳しいかも」からの大逆転…照ノ富士が“7度目の優勝”を果たせたワケ《“元安美錦”安治川親方の5月場所総評》

元安美錦(安治川親方) ©文藝春秋

 さあ、今場所も私、安治川が振り返っていきたいと思います。

 今場所の注目はもちろん先場所優勝の関脇若隆景です。今場所は大関への足固めとして、昇進の目安である3場所合計33勝へ勝ち星を積み重ねられるのか。そして、先場所途中休場の横綱照ノ富士の復活はなるのか。

 さらには最近成績の振るわない大関陣の奮起、琴ノ若を筆頭とした新三役を狙う若手の台頭に注目していました。

■場所前の合同稽古で目立っていたのは……

 場所前の合同稽古では、高安が精力的に稽古していたと報道されていました。

 高安も今場所こそは優勝するぞという気迫がひしひしと伝わってきました。そして今回の合同稽古に、横綱になって初めて照ノ富士が参加しました。

 最終日に参加し、久しぶりに他の部屋の関取と稽古し充実した表情をしていました。

 他に合同稽古で目立っていたのは、鉄人玉鷲や小結で勝ち越した豊昇龍。精力的に稽古をしていましたね。

■夏場所は“個性豊かな装い”も楽しみ

 5月場所は両国国技館で開催されますが、力士の装いがガラッと変わります。

 若い衆の装いが、着物から浴衣にかわります。部屋名や四股名が入った色鮮やかな浴衣を着た力士が場所入りしてきます。関取衆も絽や紗の着物を身に纏い場所入りします。また、幕内力士は自分の四股名が入った染め抜きの着物で場所入りします。個性豊かな装いが見られるのも夏場所の楽しみではないでしょうか。

 相撲界の伝統として、浴衣地の反物を作り一門の関係者や後援者に配ります。反物を作れるのは、幕内力士のみとされています。

 私は新入幕が7月場所で、自分でデザインを考え、作った記憶があります。確か故郷青森の日本海の荒波をイメージした青か紺の浴衣地だったと思います。

 初めは地味でしたが年々明るい色になっていきました。ピンクに藤色、緑、黄色、黒など色々作りましたね。自分の四股名が入った浴衣を他の力士が着てくれているのを見ると、嬉しいものですよ。

 それでは参りましょう。

 いざ初日!!

■照ノ富士に感じた「今場所は厳しいかも」

 若隆景は北勝富士と対戦です。変に緊張していないか心配でしたが、そんな心配は全く必要ありませんでした。しっかり立ち合いに踏み込んで組み止め、小手に振り体を寄せて寄り切りました。

 落ち着いていてしっかり準備してきたな、と期待が高まる相撲でした。大関陣は初日から正代は霧馬山に、貴景勝が琴ノ若に敗れました。注目していた琴ノ若は若手らしからぬ落ち着きと、柔らかさ、そして前に出る力も付いてきていて、新三役を十分狙えるなと思わせてくれました。

 そして、横綱照ノ富士は実力者大栄翔との対戦です。初日に馬力のある大栄翔相手にどんな相撲をとるか。結果は見事な相撲でした……大栄翔の方です。

 立ち合いの鋭さ、のど輪で照ノ富士を棒立ちにして一気に土俵の外へ押し出しました。

 照ノ富士は少し心配な初日でしたが、徐々に良くなってくるかなと思っていました。しかし、中日までまさかの3敗をしてしまいます。いずれも押し相撲に一気に攻められて上体が伸び上がりました。この時点では今場所は厳しいかも、と思っていました。

■優勝争いは混戦に!

 若隆景の相撲内容は、先場所同様厳しい攻めと上手さが光っていますが、中日までに5敗してしまいます。対戦する相手も若隆景を攻略しようと様々な攻めを研究してきます。

 これまでは攻略する立場だったのが、攻略される立場になってきました。しかし、これを乗り越えなければ大関には近づいていきません。

 今の大関陣も、この苦しい状況を乗り越えて大関昇進を掴み取ってきたのです。

 優勝争いは混戦です。中日を終え、2敗で一山本、佐田の海、碧山、隆の勝、玉鷲が並ぶ展開です。この時点では誰が優勝するのか全くわかりませんでした。

 これからの後半戦は自分の気持ちと向き合い、その日の一番に集中し、相撲を取りきった力士が優勝戦線に残っていきます。やはり、誰もが優勝したいと思っています。ですから、実際に勝ち星をあげ優勝に近づいていくほどプレッシャーがかかります。

 そういったプレッシャーへの向き合い方も人により全く違います。気にならずいつも通りにできる人や、一日中考えてしまう人もいます。ここからは取組以外の時間も、常にプレッシャーと一緒に生活しているようなものです。

 そして、最後まで優勝戦線に残ったのは隆の勝と、後半相撲内容が良くなり盛り返した照ノ富士でした。

 千秋楽に両者勝てば優勝決定戦、両者負けると最大4人による決定戦になります。

 隆の勝は4敗の佐田の海と、照ノ富士は御嶽海との対決です。

 私は両者勝利し、優勝決定戦になるとみていましたが佐田の海が隆の勝に勝ちました。隆の勝らしからぬフワッとした立ち合いで、佐田の海に両差しをゆるし、土俵際での逆転の掬い投げで敗れてしまいました。

■照ノ富士と御嶽海の“差”とは?

 照ノ富士は御嶽海に何もさせず圧倒して7度目の優勝を手にしました。

 ここで経験の差が出たのかな、と思いました。

 常に優勝を期待される地位で、その日の一番に集中する難しさを経験してきている照ノ富士が優勝を意識せず15日間取りきった結果が、この優勝に繋がったのかなと思います。

 早々に3敗しましたが、気持ちを切らさず目の前の一番に集中し続けた照ノ富士はお見事でした。おめでとう!!

■「若隆景対阿炎」の取組に感動

 このまま今回の原稿を終わろうかと思いましたが、千秋楽の若隆景対阿炎の取組に触れないままでは終われないでしょう。先場所の優勝決定戦を思わせる攻防、両者の動きの良さ、勝負に対する執念に感動しました。

 阿炎の突っ張りに回り込む若隆景、目まぐるしく展開が変わる攻防のなか、組み止められて苦しい阿炎。慌てない若隆景に、最後まで何とかしようとする阿炎。押し出して若隆景の勝ちでした。相撲を観ていて自分自身の体に力が入っているのがわかりました。良い相撲をみせてくれました。ありがとう!!

 この2人は間違いなくこれからの相撲界を盛り上げてくれる力士になってくれると思います。けっぱれ!!

 そろそろ筆をおきたいと思います。

 照ノ富士の優勝に加え、同じ伊勢ヶ濱部屋の錦富士が十両優勝でさらに嬉しいです。私の断髪式が5月29日に執り行われます。これ以上ない形で迎えられることになりました。まもなく髷とはお別れになりますが、これまで安美錦を応援していただいた沢山の方への感謝と、これからの親方としての決意を胸に断髪式を迎えたいと思います。

 今場所もありがとうございました。

 へば!(津軽弁でさようなら)

(元安美錦(安治川親方))

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