大ヒット中『シン・ウルトラマン』を“深読み”するための《過去作トップ10》「メフィラス星人はウソを吐いていたかも…」「続編のカギは物理学者・滝が握ってる」
2022年05月26日 18時00分 文春オンライン

(映画『シン・ウルトラマン』ツイッターより)
「ウルトラマンという存在が地球人に干渉すること自体が脅威となる。『シン・ウルトラマン』ではこれまでのウルトラマンのテーマを踏襲しつつ、その先に踏み込んだ意欲作だと思います。初代ウルトラマンへのオマージュが多いのは確かですが、庵野秀明さんや樋口真嗣監督が自分たちの作品として作り直しているので、初代を知らなくても十分楽しめる作品です。それでも、過去のシリーズを知っていると、作品の背景を考えたり続編の予想ができてより楽しめます」
特撮ジャンルに詳しい評論家の切通理作さんは『シン・ウルトラマン』の感想をこう語った。
5月13日に公開された『シン・ウルトラマン』は公開3日間で9.9億円の興行収入をたたき出した。これは2016年に公開され社会現象を巻き起こした『シン・ゴジラ』の初日3日間の約120%の数字というロケットスタートだ。
称賛の声がある一方で、「ウルトラマンをあまり知らないのでいまいち乗れなかった」「『シン・ゴジラ』のようなものを期待したら思っていたのと違った」という声も散見される。
そこで、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』を始めウルトラマンに関する多くの著書を書いている切通さんに「『シン・ウルトラマン』を100倍楽しめる作品トップ10」を選んでもらった。
※以下は『シン・ウルトラマン』のネタバレを含みますのでご注意ください
◆◆◆
■「個人の被害を防ぐのか、大きな敵を優先するのか」
第10位『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発信命令』(1983年)
ファンには有名ではあるが、庵野秀明氏は学生時代にウルトラマンの同人映画を撮影している。日本に突如現れた怪獣を倒すのに核兵器を使うことが決まるが、5000人以上の市民を犠牲にすることになってしまう。庵野氏本人演じる主人公がそれを阻止すべくウルトラマンに変身、怪獣と戦う、というあらすじだ。
「『シン・ウルトラマン』では主人公の神永が山に取り残された少年を発見して救助に向かうシーンがあります。このシーンで『個人の被害を防ぐのか、大きな敵を優先するのか』という庵野版の問いかけを思い出しました。実際は西島秀俊さん演じる禍特対の田村班長が『行ってこい』と許可してしまうので葛藤も何もないのですが、『シン・ウルトラマン』の原点としてこの同人版はおすすめしたいですね。
ちなみに、本家の『帰ってきたウルトラマン』は怪獣から少年を守ろうとして死んだ主人公にウルトラマンが感銘を受けて合体するという設定。そこは『シン・ウルトラマン』と通じていますね」
過去に何度かDVDになっている作品ではあるが、今では入手するのが困難。本作のDVD特典に入ることを期待したい。
■メフィラス星人との“居酒屋飲み”にあった伏線
第9位 『日本沈没』(1973年の映画版・1974年のTVドラマ版)
タイトルの通り「地殻変動で日本の陸地が水面下に沈没する」という事態に人々がどう立ち向かうのかを描いた小松左京の同名小説が原作のSF作品。ウルトラマンとは直接関係ないものの、映画の中では『日本沈没』を彷彿とさせる演出があるという。樋口真嗣監督は2006年に同じ『日本沈没』を原作にした映画を撮っている。同じ特撮作品でもあり、SFの名作としてのリスペクトがあるのだろう。
「丹波哲郎演じる総理大臣が箱根のフィクサーにどうすればいいか聞きに行ったシーンが『シン・ウルトラマン』のラストに至る展開に繋がる名シーンです。総理の問いに対する答えはまさかの『私が一番有効だと思う事、それは何もしないことだ』。ゼットンの脅威にさじを投げた人類の姿と重なりますよね。この時に丹波哲郎のグググ……と目を見開いて血走らせた演技は1億人の命を背負った人の苦悩を現した名演技だと思います。
細かいところですが、メフィラス星人とウルトラマンが話している居酒屋で流れているのは、TVドラマ版『日本沈没』で五木ひろしが歌った挿入歌でもあります。もしかすると、このシーンで映画『日本沈没』のような展開をすることを予告していたのかもしれませんね」
■“トラウマ回”が示唆していた「人類の危険性」
第8位「故郷は地球」(『ウルトラマン』第23話)
『シン・ウルトラマン』では登場しなかったものの、『ウルトラマン』で有名な怪獣の一つ、ジャミラが登場する。水の無い惑星に不時着してしまった宇宙飛行士ジャミラが、復讐のために地球に襲来するという衝撃的なエピソードで“トラウマ回”に挙げる人も多い。
「人物の超アップや手前のモノ越しに捉える、監督の実相寺昭雄さんによる独特のアングルからの影響が『シン・ウルトラマン』にみられますが、その原点の一例として挙げました。内容的にも必ずしも無関係とは言えません。『シン・ウルトラマン』は、人類が宇宙の平和を乱す兵器になる可能性がある、だから滅ぼさなくてはならないという展開でしたが、この回で怪獣になってしまったジャミラも同じように地球人が恐ろしい存在になってしまうことを表しているのです。シリーズ屈指のシリアスな展開で、脚本もとてもすぐれているので今見ても色あせない魅力があります」
■定番ツッコミ「スペシウム光線はよ」へのアンサー
第7位 「電光石火作戦」(『ウルトラマン』第9話)
『シン・ウルトラマン』でウルトラマンが2番目に戦ったウラン怪獣ガボラの登場作品。ガボラはウランを食べるという設定で、『シン・ウルトラマン』では必殺技のスペシウム光線で倒せない。そのため、宇宙に持ち去るという展開になる。
「ガボラは有名な怪獣ではないので、予告で登場することが分かった時は『え? ガボラが出るの?』と驚きました。実際観てみると、ウルトラマンシリーズの定番突っ込みどころである『何でウルトラマンは最初からスペシウム光線で倒さないの?』に対する答えを用意できているのが面白かったですね。『確かにウランを食べている怪獣を爆破したら大変だよね』と」
このガボラを宇宙に持ち去るシーンでは、他の特撮作品へのオマージュもあるのではないかと切通さんは指摘する。
「ガボラを持ち上げるシーンは『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(1965年)でバラゴンを持ち上げる姿にも似ています。バラゴンはガボラの改造でスーツアクターも同じなので、そこも重なりました」
第6位 「ゴメスを倒せ!」(『ウルトラQ』第1話)
初代ウルトラマンの前身である特撮TVシリーズ。この第1話に登場する怪獣ゴメスは映画の冒頭で人類が最初に遭遇した怪獣として紹介される。
「記念すべきウルトラシリーズの第1話です。ウルトラマンのようなヒーローは登場しませんが、怪獣にSF的な発想を取り入れた設定が後継のシリーズに大きな影響を与えています。ウルトラマンを語る上では欠かせない一作です。ちなみに、初代ウルトラマンではゴジラのスーツを改造してゴメスのスーツにしていたのですが、今作でも『シン・ゴジラ』のCGを流用してゴメスのCGにしているようです」
第5位「科特隊出撃せよ」(『ウルトラマン』第3話)
映画ではウルトラマンと最初に戦う怪獣ネロンガが登場するエピソード。初代ウルトラマンは第2話、第3話、第5話を最初に撮影していたという逸話がある。この最初に撮影された3エピソードで怪獣とウルトラマンが本格的な格闘をするのはネロンガが登場する第3話だけ。ネロンガはウルトラマンと最初にアクションシーンを撮影した記念すべき怪獣でもある。
「ネロンガが透明になるという設定は原典そのままでしたが、生態としてしっかり理由付けがされていて、いいアレンジでしたね。しかも今回は格闘をやらないという逆転の構図におどろきました」
余談になるが、怪獣との対決も含め、フルCGであるにもかかわらず、あえてミニチュア特撮のような演出にしたのには「良くも悪くも庵野さんの美学が貫かれていました」と語る。
「明らかに昔のオマージュである、ウルトラマンがくるくる回転して光線を出すシーンは若い人にどう映ったのかが気になります。当時は人形で出来る演出を試行錯誤した結果のシーンでした。その不自然さをあえて残して、現代にどう受け止められたのかは聞いてみたいですね。
今放送しているテレビシリーズでは、限られた予算でミニチュア特撮とCGを上手くかみ合わせて面白いアクション演出をしています。気になった方はぜひそちらも見ていただきたいです」
■メフィラス星人の“ウソ”とは「人間も使徒だったのか」
第4位「禁じられた言葉」(『ウルトラマン』第33話)
映画では山本耕史が演じたメフィラス星人が登場するエピソード。初代ウルトラマンでは少年に「地球をあげます」と言わせることで、地球征服の言質を取ろうとメフィラス星人が企む、という展開になっている。
「初代ウルトラマンに登場する宇宙人は、種類こそ少ないですが、怪獣とは明確に描き分けられていて、どれも魅力的です。特にメフィラスはIQが非常に高く、暴れ回る怪獣とはひと味違う。『暴力が嫌い』と明言する知能派です。彼らは彼らなりのルールを持って地球を侵略するという設定が映画のラストに繋がっています」
個性的なキャラクターであるメフィラス星人はSNSでも非常に人気がある。
「今回の映画は全体的に人間社会を一歩引いた目線で見たような冷たさがありました。ザラブ星人やメフィラス星人といった侵略者や、地球人と宇宙人が合体したウルトラマンの目線で人類の文化が語られるからだと思います。どこか滑稽で皮肉な描き方は初代ウルトラマンにも共通するものがありますね」
『シン・ウルトラマン』で、メフィラスは「人間とウルトラマンが合体できることを知り、人間の兵器化を目指して地球に来た」と語っている。しかしメフィラス星人の“置き土産”だったとされるネロンガが地球に出現したのはウルトラマンと人間が合体する前。メフィラスが人間の兵器化を思いつくのはウルトラマンが怪獣と戦ったあとでなければならないため、「ウルトラマンよりも前に地球に来ていた」とするメフィラス星人の発言は時系列として矛盾があるのではないかと指摘する人もいる。
「メフィラス星人の言っている時系列に矛盾があるとしたら、彼の言っていることだけが本当ではなくて、まだ隠されている事実があるのでは、と思ったりもしました。例えば、怪獣が置き土産の人工生命だとしたら、人間も果たして元々地球にいたのか、と疑いたくなります。『新世紀エヴァンゲリオン』の『人間も使徒だった』という設定がありますから」
■科学者・滝がカギを握る“続編”予測
第3位「小さな英雄」(『ウルトラマン』第37話)
『シン・ウルトラマン』では物語終盤、人間の科学技術では怪獣にはかなわないと絶望する科学者・滝の姿が描かれる。これは初代ウルトラマンの科学者イデ隊員が「ウルトラマンがいれば科学特捜隊は必要ないのではないか」と悩む姿と重なるという。「小さな英雄」ではウルトラマンと共闘し、イデ隊員の発明した兵器で怪獣・ジェロニモンを倒すというストーリーが展開される。
「『シン・ウルトラマン』のアートワークスでは、そもそも映画は3部作の企画だったことが明かされています。滝隊員は『マイティジャック』とか『サンダーバード』などのスーパーメカ好きという設定なので、続編では対宇宙人のスーパーメカを作る重要人物なのではないでしょうか。
というのも、初代の科学特捜隊は戦闘はするものの怪事件の調査役ですが、続編の『ウルトラセブン』ではがっつり宇宙戦争でも戦える装備を整えたウルトラ警備隊が出てくるのです。ウルトラの初期3シリーズでは人類が強くなっていたという歴史があるので、続編があるとしたら、それを現代流にアップデートする可能性はあると思います」
第2位 「遊星から来た兄弟」(『ウルトラマン』第18話)
ウルトラマン以外で初めての宇宙人として登場したザラブ星人のエピソード。映画では「自分が出現したことで失ったデータを復元する」ことで友好を示すが、初代ウルトラマンでは「放射線ガスの霧を晴らす」という手段で人類への友好を示す。
「庵野さんが一番気に入っているエピソードということもあるのか、デザインも話の内容もほとんど同じです。ただ、映画では宇宙人はより進んだ存在として描かれていますね。ザラブ星人はデータを復元したり、逆にメフィラス星人は消したり。人間にはできないことをさらっとやってのける。ザラブ星人が体の前半身だけの存在だったのも、生身の身体から脱却した存在なんだなと思わせてくれました」
細かい演出にもこだわりが感じられたという。
「ウルトラマンが、ザラブ星人が化けた偽ウルトラマンにチョップして『イタタ』となる演技は初代にもあるんです。その時はスーツアクターの方が骨折しています。エンドロールのモーションアクションアクターのなかに庵野さんの名前があったのですが、もしかしたらこのシーンを本人がモーションアクターで再現した可能性もあります。庵野さんは過去のインタビューで『あのシーンが好き』と明言していましたから。
また、嶋田久作演じる首相との握手シーンも最高でした。滑稽で風刺が効いていながらも、『宇宙人と握手する総理大臣』シーンありきのキャスティングだったのではと思うくらいです」
■「ウルトラマンは黒船」庵野氏は日本の近代化を風刺した?
第1位「さらばウルトラマン」(『ウルトラマン』第39話)
初代シリーズの最終話であり、映画にも登場したゾフィーとゼットンのエピソード。ウルトラマンに圧勝したゼットンを科学特捜隊が新兵器であっけなく倒してしまうという結末で、人類の技術がウルトラマンを超えた瞬間を描いたエピソードでもある。
「『ウルトラマンに頼っているだけでいいのか』という問いは、シリーズを通したテーマです。テレビの最終回でウルトラマンを倒したゼットンを人類が倒したのは、このテーマを踏襲しています。今回の映画版で、ウルトラマンがもたらした技術で人類が覚醒するというのはとてもわくわくする展開でした。
『シン・ウルトラマン』はただ昔のシリーズを踏襲するだけではありません。ウルトラマンになった神永と同じように、他の人間も強力な戦闘資源になりうるという展開は今までのシリーズのテーマをより掘り下げた形になりました。
日本の過去を振り返っても、近代化で四民平等にする代わりに、国民皆兵にしたという歴史がありました。ウルトラマンは黒船をもたらしたのかな、というのは深読みしすぎですかね」
旧作のオマージュをふんだんに取り入れながらも、新しいテーマに挑戦する『シン・ウルトラマン』。切通さんはすでに続編の展開を予想していた。
「続編があるとしたら、ウルトラマン同様、人類のスーパーメカが活躍する作品になってほしいから、より予算が必要です。そのためにも極力メガヒットしてほしいし、少なくとも『シン・ゴジラ』の興行収入とは並んで欲しい。特撮ファンはいつでも、自分たちの好きなゴジラやウルトラマンが広く世の中で通用してほしいと思っているのです」
(切通 理作/Webオリジナル(特集班))
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