「熊はどうやって撮ってるの?」「着ぐるみに決まってんじゃん」評論家もコメントに困る“修行映画”のディープな世界

「熊はどうやって撮ってるの?」「着ぐるみに決まってんじゃん」評論家もコメントに困る“修行映画”のディープな世界

みうらじゅんさん(左)と町山智浩さん

 みうらさん独自の視点で見いだされ、世に広く面白がられた『わさお』『シベ超』『ペキフー』といった映画の数々。そこに到達するため、みうらさんは多くの“修行映画”を乗り越えてきた……。「映画秘宝」誌での長期連載が単行本化するタイミングで、2人が語る「そこがいいんじゃない!」としか言えない映画の数々。(構成=秦野邦彦)

◆ ◆ ◆

みうら 町山君とのこの対談、毎回すごく楽しみにしてるんだけど、町山君が今アメリカにいることを全然感じさせないのは何でかなぁ?

町山 太平洋を越えてる感じがしないですよね(笑)。

みうら 基本、思い出話だからかねぇ(笑)。

町山 東宝特撮とか、年寄りしかわからない昭和の話(笑)。

みうら でも、読者も今、年寄りがメインなんでしょ?(笑)だったらそれでいいと思うんだけど。

町山 その割に字がちっちゃくて読めないという。

みうら 矛盾あるよね。それは編集者がまだ若者に向けて作ってる気概があるからじゃない? 町山君が立ち上げた「映画秘宝」も当時はそうだったでしょ?

町山 映画秘宝は1995年創刊だから、当時は若い人も雑誌読んでましたよ(笑)。

みうら 結局、若い若くない関係なく、それ以上踏み込むやつと踏み込まないやつの2タイプが世の中にいてね、映画秘宝は前者に特化したマガジンだったんで、すごいなと思ってたんだ。

町山 全くその通りです。

みうら でも、時が経つにつれ、老ガンズとなってね、特に町山君と柳下毅一郎さんがやってた対談の級数がものすごく小さく感じるようになって(笑)。

町山 俺も全然読めない(笑)。

みうら あれは何? 読まないでくださいって気持ちもあってのこと?(笑)

町山 そんなことはないです(笑)。編集が無理やり情報を入れようとするからですね。

みうら 字は詰め込んである方がお得だっていう考えがあったもんね(笑)。

町山 貧乏性だから、とにかく情報がびっしり入ってるのがいいという、おしゃれと真逆の方向(笑)。ケイブンシャの『怪人怪獣大百科』の表紙に「450ひきの怪獣登場」とか書いてあるのと一緒ですよ。数字が売りになる世界。

みうら 多ければ多いほどいいってね(笑)。町山君が俺に連載を頼んでくれた日のこと、まだよく覚えてるよ。当時、うちの事務所が西新宿にあって、その近くの飲み屋でね。

町山 1999年ですね。

■コメントしづらい「修行映画」の世界

みうら 『スター・ウォーズ』の特集だったもので、俺は主要メンバーを東宝怪獣映画俳優に当てはめた漫画を描いたんだ。ルークは佐原健二、ハン・ソロは土屋嘉男でって具合に(笑)。

町山 昔も今もやってること変わってない(笑)。

みうら その連載をまとめた本を洋泉社から3冊出して、2015年に文藝春秋が『 みうらじゅんのゆるゆる映画劇場 』として文庫にまとめてくれたんだけど、それ以降の2014年の公開作から今年3月の「秘宝」最終号に載った『大怪獣のあとしまつ』(22年)までの7年分を今度、『 マイ修行映画 』ってタイトルで出すことになったんだよ。

町山 7年分はすごいですね。

みうら せっかくだから、町山君も振り返ってもらえないかと思ってさ。宣伝もかねてね(笑)。何せ、秘宝はマニアをメインとしてたから、俺も考えたわけで。マニアが観ない映画こそマニアにとって一番マニアックなんじゃないかって。例えば、『わさお』(11年)とかさぁ(笑)。

町山 『わさお』(笑)。

みうら そこは観たい映画はさておき、じゃない?

町山 うちの娘にいつも言われてますよ。「父ちゃんは好きな映画観て、それで仕事だっておかしいだろ」って。

みうら 仕事はもっと厳しいもんだと(笑)。おっしゃる通りだけど、町山君もそりゃ、あまり観たくない映画も観てると思うんだけども。

町山 観てますね。映画会社から送られてくるから観ると何ともコメントしづらい映画。

みうら それを俺は“修行映画”と呼ぶことにしたんですよ(笑)。コメントしづらいと感じた瞬間、「そこがいいんじゃない?」という肯定の呪文をかけてね(笑)。だったら、いくらでも原稿書けるんじゃないかと思って。

■「最近のニコラス・ケイジも全部やらかしてる」

町山 そうそう。一番困るのはヨーロッパ映画でよくある、格好つけただけのピンとこない作品。逆に“これやっちゃったな!”って映画はネタにできるぞと思うから、めちゃくちゃ嬉しいんですよ。『ジオストーム』(17年)とか。ジェラルド・バトラーが出てる映画は全部ひどいです(笑)。最近のニコラス・ケイジも全部やらかしてるけど。

みうら やらかしてくれればくれるほどね(笑)。

町山 あ、でも、今度の新作『The Unbearable Weight of Massive Talent』(原題)はすごいですよ。変な仕事ばかりやって映画界で相手にされなくなった借金まみれの俳優ニック・ケイジという、まんまな役で(笑)。

みうら まんまな役できるって、流石、ニコケイ(笑)。

町山 そう。ニコラス・ケイジの大ファンの大金持ちが「パーティーに出てくれたら1億円あげる」って言ってくるんです。しかも「製作費は全部俺が出すから一緒に映画を撮ろう」って。そしたらCIAが出てきてニコラス・ケイジが「あいつの正体は国際的な武器密輸カルテルの大物だ。君は潜入捜査官として彼を捜査してくれ」って言われるの。

みうら 途中で気づかせてもらうなんてニコケイ、ついてるね(笑)。

町山 そこから延々とバカな世界に突入してくんだけど、すごく面白かった。あれ他のパターンもできますよ。漫画家だったら「私があなたのために雑誌を作ります! 何描いてもいいです!」って。夢のような話じゃないですか。

みうら 疑わないってバカ映画の鉄則だもんね(笑)。ニコケイものは連載中、何本も取り上げたけど、『ナショナル・トレジャー』(04年)はかなりの修行映画でさ、もう途中から俺、タイトルを勝手に“ナショナル・ブラジャー”だと思うようにして観たんだ。

町山 そう思いながら一生懸命観てんのすごいな(笑)。現実をねじ曲げる想像力ですね。

■映画館で叫びそうになったよ

みうら それも修行の一環だから(笑)。そうそう、田村正和さん主演の『ラストラブ』(07年)もさ。

町山 若い女性と恋に落ちる話ね。病気で死期が迫って、これが最後の恋だっていう。

みうら 流石によく知ってるねぇ(笑)。冒頭はニューヨークのジャズクラブで主人公がサックス吹いてんだけど、途中からあのサックスが生きてるコブラだったらどうだろうと思いながら観たんだよ。

町山 はやぶさ映画も3本全部追っかけた?(『はやぶさ/HAYABUSA』・11年、『はやぶさ 遥かなる帰還』『おかえり、はやぶさ』・12年)

みうら もちろん、修行だから(笑)。劇中で案の定、はやぶさ、故障するわけ。それでJAXAの人が「イオンエンジンを逆さまにすればいい」ってアイデアを出して解決するんだけど、さすがに3本目になるとねぇ。

町山 だってストーリーはみんな同じなんでしょ?

みうら だから俺の方が詳しいわけで、思わず映画館で「イオンエンジンを逆さまにすればいいんだ!」って叫びそうになったよ(笑)。

町山 はやぶさ映画3本観た人、関係者でもいないと思う。

みうら 昔からコンプリート癖があるんだよね(笑)。

町山 それはある。ひとつ観始めたら、そのシリーズとかジャンルを全部観なきゃいけない気がしますよね。あれはなんだろう? 怪獣映画の頃からですよね。

みうら いくら怪獣映画が好きとはいえ、さすがにゴジラシリーズ8作目『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(67年)はどうかなと思うじゃない? でも、“ここまで来たんだから観ないわけにはいかない”になるわけで。

町山 なるなる。

みうら よくシリーズもので「初期は面白かったけど最近のは観てない」とか言う人いるけど、そこは自分洗脳して、全部面白いにしとかないと気が済まないタチだから。

町山 『怪獣総進撃』(68年)は今観直すと中盤のムーンライトSY???―3号のあたりがものすごくダルいんですよ。

みうら ダルいけど、そこがいいんじゃない! と(笑)。

町山 みうらさんまた違うこと想像してるからでしょ(笑) 。

■「そんなバカな映画があるわけない!」

みうら どうにかこちらで仕向けなきゃ(笑)。それで言えば、怪獣映画の作戦会議のシーンって、子どもの頃、かったるかったじゃない? 早く終わればいいと思ってたけど、それを逆手に取った『シン・ゴジラ』(16年)はすごかったね。

町山 あれは岡本喜八監督が会議を面白く見せる術の天才で、怒鳴る顔だけアップで撮って繋ぐからすごくテンポ良くなるのを見習ってるんです。

みうら それを導入したんだ。でも、だからこそ『地球防衛軍』(57年)の会議シーンの後にようやくモゲラが登場した時って、最高だったんじゃないかねぇ。要するに団鬼六のSM映画における焦らしプレイみたいなものでさ。

町山 会議のシーンが面白くなるのは、出ている俳優の名前を全部覚えてからですよ。“あっ、ハロルド・コンウェイだ!”とか“藤田進さんがいい席に座ってる!”とか。

みうら 吉本新喜劇の役者みたいにね(笑)。ビデオが誕生してから“飛ばし見”ができるようになったじゃない? あれが焦らしプレイを台無しにしたんだよね。それでも昭和の頃はエロビデオのソフトは高かったから、飛ばし見なんて贅沢なこと絶対しなかったもんだけどね。

町山 インタビューやドラマ部分もしっかり観てましたね。

みうら “これを乗り越えれば……”ってね(笑)。それをただ、かったるいとか言うのは普通過ぎて、いかんと思ったもんですよ。

町山 映画秘宝は世間の人がつまんないと言う映画を“いや、面白い!”でやってきたし、“観てる人いるの?”って作品を徹底的に全部観直すことが最初のコンセプトでした。『スウォーム』(78年)って殺人蜂の大群がアメリカを襲うパニック映画があって、原発が爆発するんだけど、原因は管制室でおっさんが滑って転んでボタンを押しちゃうから。それをその通り原稿に書いたらキネ旬で「そんなバカな映画があるわけない!」って批判されたんです。それが抗争の発端ですよ(笑)。

みうら そんなことで(笑)。でも、そこがいいんじゃない! ってね。

町山 あるんだから仕方ない。『ミラクル・カンフー阿修羅』(80年)だって、今の人に言っても信じてもらえないけど。

みうら だろうね。でも、あるんだから仕方ないよ。俺もそれ、映画館で観たクチだから(笑)。

町山 『龍の忍者』(82年)は観ました? 父親の仇を討つために中国に渡った真田広之がカンフーの使い手と戦うんですけど、前半は市川雷蔵の『忍びの者』(62年)みたいに殺伐とした演出なんです。

みうら 老いるショックか、覚えてないなぁ。

町山 最後に共通の敵が出てきて一緒に戦うんだけど、どうやって倒すかというと「あいつは修行ばかりして女性耐性がないはずだ」って紙に描いたエッチな絵を見せると頭がボンッて爆発しちゃうの。

■いきなり着ぐるみの熊かよ!

みうら 面白いじゃん(笑)。

町山 面白いけど、それまでの真面目な演出が台無しになっちゃうんです。グラビアアイドルの津島要ちゃんが真田広之の恋人役なんですけど、カンフーの使い手が後ろから彼女の胸をはだけたら光学合成のおっぱい光線がバーッと出て敵の顔が焼かれてEND。

みうら そうじゃなきゃ(笑)。

町山 でも『龍の忍者』はシリアスなところの演出もすごくいいの。俺、めちゃくちゃ好きで20回以上観てますよ。

みうら 俺の『わさお』並みじゃん(笑)。こっちもかなりスゴいよ。

町山 そうなの? 薬師丸ひろ子さん出てるでしょ。

みうら 薬師丸さんが「毛がわさわさしてるから、わさおね」って命名するんだけど、それまではブサイクだから「ぶさお」だったんだよ(笑)。それに、犬ものだから当然事実に基づいてると思うじゃん?

町山 『マリリンに逢いたい』(88年)も実話が元でしたし。

みうら 『南極物語』(83年)も『ハチ公物語』(87年)も事実に基づいてこそだけど、何と、『わさお』は作りものの話なんだよ(笑)。慕っていた少年を追いかけてものすごい距離を旅する途中でね、突然、熊が出てきて格闘なんて、事実なわけないじゃん?

町山 でも、本物のわさおが出てるんでしょ? 犬が演技してるのってすごくない?

みうら 本物のわさおって、ま、他にはいないだろうけど(笑)。

町山 それ、熊はどうやって撮ってるの?

みうら 当然、着ぐるみに決まってんじゃん(笑)。

町山 さすがに『地上最強のカラテ PART2』(76年)みたく本物の熊と戦うわけではない(笑)。『君よ憤怒の河を渉れ』(76年)にも着ぐるみの熊が唐突に出てきましたね。

みうら そんなの好きじゃん。笑うしかないじゃん? シリアスものかと思いきや、いきなり着ぐるみの熊かよ!みたいな台無しが映画をさらに面白くしてるとも言えるし。

■みんな大真面目だった『北京原人』

町山 台無しといえば『北京原人 Who are you?』(97年)。

みうら “ペキフー”は最高だったね。

町山 ペキフー(笑)。みうらさん、なんでいつも略すの?

みうら いつもじゃないって(笑)。略した方がグッとくる映画の時だけだよ。やっぱ、その代表作は『シベリア超特急』(96年)だね。“シベ超”と呼ぶべきと思ったよ。後で水野晴郎さんご本人に聞いたら、その縮め方が最初は気に入らなかったって(笑)。

町山 わはははは!

みうら でも、それがヒットに繋がったと認められて俺、日本映画批評家大賞もらったんだもん(笑)。

町山 水野さんが決める賞ね。

みうら そう、みうらじゅん賞みたいな(笑)。その流れで勢いつけての“ペキフー”。公開前、北京原人タカシ役の俳優は誰だ? っていう予想クイズがあったでしょ?

町山 それでWho are you?ってタイトルなんですよね。

みうら そうそう。ヒントでイニシャルが姓・名同じっていうから、てっきり俺、田口トモロヲさんかと思ったら正解は本田博太郎さんでさ。そんなの観る前から面白いに決まってんじゃん? 秘宝にもずいぶん書かせてもらったけど、何せ体毛はあっても基本、裸でしょ? 原人。

町山 北京原人は裸なんだからコミュニケーション取るにはこっちも脱がなきゃって。

みうら 脱いで「ウパー」だよね(笑)。でも、演じてる人たちは大真面目にやってるわけ。そこが俺たちの琴線に触れるところでさ。怪獣映画の会議シーンだって同じ。制作側のふざけに気づくとやっぱ、萎えるというか。

町山 丹波哲郎が「なぜ北京原人とセックスしなかったんだ!」って言うけど、本人は別にふざけてないですから。

みうら どうやら丹波さんのアドリブだったらしいけど、それはふざけとは違うからね。そうそう、『幻の湖』(82年)も東宝50周年記念に作られたそうじゃない? ヘンな映画ってことになってるけど、ものすごく真面目に作ったと思うよ。

町山 映画って難しいよね。黒澤明が懸命にふざけようとした『どですかでん』(70年)が結構苦しかったりするから。

■だったら俺が栗田ひろみに

みうら 『夢』(90年)もどうだろう? 黒澤さんの夢だから観たけど、大概「昨日こんな夢観てさあ」なんて嬉しそうに喋るやつの話ほどつまんないからね(笑)。大島渚監督の『忍者武芸帳』(67年)の漫画のコマに寄った映像を観続けるのは完全に修行だったし。でも、これを乗り越えないといけないんだと思って、オールナイトに通って何回も観たもんだけどさ。

町山 『夏の妹』(72年)は? あれは、みうらさんの大好きな栗田ひろみ主演でしょ。

みうら いや、『夏の妹』と、森谷司郎監督の『放課後』(73年)は別の意味での修行だったよ。だって、可愛過ぎるんだもん、栗田ひろみ。

町山 みうらさんって、彼女みたいな真ん中分けサラサラヘアに弱いの?

みうら 弱いよ。栗田ひろみとつきあえないんだったら俺が栗田ひろみと同じセンター分けロン毛になればいつも一緒にいられるじゃんと思ったんだ(笑)。

町山 それで真ん中分けにしてんだ?(笑) ?じゃあ『放課後』観て、中年のおじさんに憧れて処女を捨てたいと思った? 相手は地井武男だよ?

みうら 栗田ひろみ(みうら)としては、地井武男に憧れるくだりはすごく嫌だったね。『ジェレミー』(73年)みたいに自分と同じ眼鏡かけた男の子が失恋する話ならそっちに感情移入できるけど、こちとら栗田ひろみになりきってるわけで、だから一時期『ちい散歩』観るのすらためらったもんですよ(笑)。

町山 トラウマだったんですね(笑)。僕は前回も話したけど怖がりだったから、小さい頃は怖い映画を観るのが嫌で嫌で、泣きながら“でも観なきゃ”と思ってがんばって観てました。誰に言われたわけでもないのに。あれは修行でしたね。

みうら 何のための修行なのかはよく分かんないけど、この世にはいろんな修行映画ってものがあることに気づけたのは間違いなく秘宝の連載のおかげ。感謝してますよ、町山君にはね。

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(みうら じゅん,町山 智浩/週刊文春出版部 週刊文春CINEMA! 2022夏号)

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