売上高予想で任天堂を“ダブル・スコア”の大差で上回るソニー…供給不足のPS5に“力を注がない”理由

売上高予想で任天堂を“ダブル・スコア”の大差で上回るソニー…供給不足のPS5に“力を注がない”理由

PS5が世界的に供給不足になるなど高い人気があるにもかかわらず、なぜ…? ©iStock.com

 ソニーグループの事業説明会で、家庭用ゲーム機「PlayStation5(PS5)」を展開する同社のゲーム事業(SIE)のジム・ライアン社長が登場。ゲーム事業の戦略だけでなく、PCやモバイルなどにも説明を割きました。

 そこで語られたのは、今後、2025年度までにSIEの新作タイトルの約半分がPCとモバイルになるという見通し。PS5が世界的に供給不足になるなど高い人気があるにもかかわらず、なぜいま、彼らはPCやモバイルに力を入れるのでしょうか。

■説明会の要旨を見ると…

 説明会でのSIEにおけるPC・モバイルゲームの現状と展望についての要旨は以下の通りです。

〈●PCゲームの売上高:2020年度は3500万ドル(約45億円)だったが、2022年度は3億ドル(約390億円)の見通し。

●プラットフォームのタイトルの割合の変化:現在は家庭用ゲーム機(PS4とPS5)の占める割合は約7割だが、2025年度は半分に。残りはPCとモバイルが占める。

●アプローチの変更:家庭用ゲーム機であるPS中心の戦略に留まらないようにする。〉

 大きくまとめると、「これからはPCやモバイルに注力する」という方針です。なぜPS5があるのに、PCやモバイルにここまで力を入れるのか? そのポイントは、ゲーム市場全体に占める規模にあります。

■世界で20兆円超のゲーム市場。そのうち家庭用ゲーム機、PC、スマホの比率は…

 世界のゲーム市場規模の調査はいくつかありますが、多少の誤差はあれ、概ね世界全体では20兆円超。うち半分がモバイル(約10兆円)で、残り半分をPC(約5兆円)と家庭用ゲーム機(約5兆円)で分け合う構図になっています。

 一般的に、PCはPS4やPS5と親和性があり、ソフトの移植などが比較的容易とされます。そのため、そうしたPS系のゲームをPC向けにも移植していけば、いま収益を上げているPS系のゲームを元手に「10兆円(5兆円+5兆円)」の市場を狙える。これがPC系ゲームに注力していく背景です。

 他方で、スマホゲームはPS系のゲームとはそもそも要求されるスペックがまったく違うため、必ずしも移植は容易ではありません。ただ、とはいえ市場全体の半分を占めるかなりの巨大規模があります。

 そのため、この分野に注力していくのはビジネスとして自然なことと言えますが、それを差し引いて考えても、ソニーグループは技術や知見をもった人材を確保するために、巨額の投資・買収を続けています。

 この動きの背景には、「人気のゲームソフトを特定のゲーム機で囲い込む」という従来の戦略に対する、SIEの懐疑的見方があります。

■“囲い込み”戦略の功罪

 ゲーム業界の戦略には、いわば“囲い込み”がひとつのパターンとして存在します。「ゲーム機を売る」ことに限ると、人気ゲームソフトが特定のゲーム機の独占で出るほうが当然売れます。古い例を挙げれば初代PS。「ファイナルファンタジー7」を取り込んで爆発的に普及し、ゲーム業界の覇者になりました。

 しかし、この構図をソフト側の視点で考えるとどうでしょうか? ソフトにとって「独占」で出すことはメリットばかりではありません。むしろ、「ファンの獲得」という意味ではネックとさえいえます。どのゲーム機、プラットフォームでも遊べた方が、遊んでもらえる機会が増えて、タイトルのブランド力、売上高もアップするからです。

 今回のソニーの戦略は、PS5もこれまで通りに売りつつ、モバイルやPCなどのゲーム市場にもアプローチをかけようという狙いがハッキリしています。いいかえれば、ハード側からの戦略にこだわらず、ソフト側から市場をとりに行く戦略が選択されているのです。実際、2025年度(2026年3月期)までにはソニーの自社制作ゲームソフトウェアの売り上げを現在の2倍以上に拡大するとも明言しています。

■任天堂の戦略は対極。ゲームファンから出る「PS5を買う意味がない」の声

 このソニーの戦略の対極にあるのが、任天堂です。マリオやポケモンは、一部の例外はありますが、原則的に任天堂のプラットフォームで展開しています。以前はソニーも任天堂と同じ戦略でしたが、2020年からPCゲームへの展開を本格化。PSというゲーム機のブランドを抱えながら、マルチな色合いを強めようとしています。

 ソニーのこの姿勢に対し、ゲームファンたちの意見は総じて厳しくなります。「PS5を買う意味がない」というわけです。

 実際、せっかく新しいハードを買っても、メーカー側がそのゲーム機だけで遊べるソフトを出さない(=PC版で遊びたいソフトが買える)なら、わざわざハードを準備しなくても、PCで買えばよいという理屈自体は一理あるように思えます。

 もちろん、家庭用ゲーム機を先行して出し、PC版は後からという時差はつけていますが、我慢すればゲーム機を買わなくてもよいじゃないかという人も出るでしょう。その結果として最悪、新しいハードが売れなくなるリスクもあります。

■なぜ「反・任天堂的な戦略」を変えないのか

 そうしたリスクはソニーもよく理解しているでしょう。それでもなぜ「反・任天堂的な戦略」を変えないのか。

 約10年前の話です。任天堂の業績が過去最高だった2009年3月期の決算は、売上高は約1兆8000億円、本業のもうけを示す営業利益は約5500億円でした。対するソニーのゲーム事業はPS3の不振が響いて、売上高は約1兆500億円。約600億円の営業赤字を抱えるなど、大きな差がありました。

 そして現在、2022年3月期の決算です。任天堂は売上高が約1兆7000億円で、営業利益は約6000億円と、全盛期に匹敵する好業績でした。しかし、ソニーのゲーム事業は、売上高が約2兆7000億円、営業利益が約3500億円となっているのです。

 この10年、一時期は低迷した任天堂が再び数字を取り戻した点も見事ですが、ソニーのゲーム事業は、こと売上高に関してその任天堂を上回っているのです。

 ちなみに任天堂は、売上高が2兆円に到達したことはありません。一方で、ソニーのゲーム事業は2年連続の2兆円越え。2023年3月期の計画では3兆6600億円を見込んでいます。同期の任天堂の計画では1兆6000億円の見通しなので、計画通りならソニーのゲーム事業は売上高の上では“ダブル・スコア”の差がつくことになります。

■2025年の“答え”の先にあるもの

 むろん、売上高の大小が企業の優劣を決めるわけではありません。しかし完全に無視することもできないのです。

 任天堂は、買収による規模拡大は求めず、手堅い経営戦略を取っていますし、そもそも任天堂の営業利益率は3割超。1割程度というビジネスの“常識”から大きく離れた規格外のものです。売上高で劣ろうとも、現時点では営業利益で勝っています。

 対するソニーのゲーム事業の営業利益率は1割程度と、任天堂と比較すると物足りません。しかし、売上高3兆6000億円に対して営業利益が1割なら3600億円、2割なら7200億円になります。

 今後、PS5が普及し、量産効果によるコストダウンが見込めることを考えると、このまま順調に進めば、ソニーのゲーム事業は今後数年間、右肩上がりの成長をするでしょう。加えて、企業買収などを活用して、スピード重視の展開をしていますが、この投資の結果が数年後になってポジティブな数字として返ってくる可能性があります。

 日本市場の肌感覚でいうと、任天堂の方がソニーのゲーム事業を圧倒しています。日本のパッケージゲームの売り上げランキングをみると、「任天堂の圧勝!」と言いたくなる気持ちは分かります。ただ、そこにはパッケージゲームを凌駕しつつあるダウンロードの数字はありません。

 加えて、世界における日本のゲームコンテンツ市場は任天堂であれば3割、ソニーであれば1割程度と推測されています。決算の各種数字を見ると、表で見えるランキングとは、まるで違うものが見えてくるわけです。

 もちろん、PS5という有望事業がある中での、モバイル、PCへのシフトチェンジには、相応のリスクがあります。後から振り返ると「失敗」となるかもしれません。

 しかし、もちろんビジネスに失敗はつきものですが、成功すればさらに売上高、営業利益を大きく拡大出来る可能性があるのです。ソニーが今以上の世界的なコンテンツメーカーになる可能性も秘めているのです。

 ソニーの挑戦は、吉か凶か。2025年度に出る“答え”で、ゲーム業界の未来が変わってしまうかもしれないのです。

(河村 鳴紘)

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