アメリカで大きな挫折を経験し…私たちはなぜ阪神・ウィルカーソンに勝ってほしいのか

アメリカで大きな挫折を経験し…私たちはなぜ阪神・ウィルカーソンに勝ってほしいのか

ウィルカーソン

■紆余曲折を経て日本にたどり着いた長髪・ヒゲ面の苦労人助っ人

 同僚からは「ウィルク」と呼ばれる。ゆるっとパーマのかかった長髪と、もっさりしたヒゲ面は野性味溢れるが、笑うと少しだけ垂れる青い目が実にチャーミング。球団から支給された黒のバックパックには複数の日本の「お守り」がくくりつけられている。見た目はクリスチャンでも、宗派にはこだわらないタイプのようだ。

「(日本語で)ワカリマセン。誰がくれたか分からないですけど、ロッカールームに置いてあって、運良くもらえたので使っていきたい」

 タイガースの助っ人、アーロン・ウィルカーソンはそう言って頬を緩めた。手厳しい甲子園界隈の人たちから認められるには、5月だけで3勝をマークするなど、マウンドでのパフォーマンスは大前提。それに加えてたっぷりの愛嬌と、どこかミステリアスな雰囲気をまとう背番号52にファンのみならず、日々取材する筆者もすっかり魅了されっぱなしだ。純粋に応援したくなるその背中。

“俺たちはなぜウィルカーソンに勝って欲しいのか――”

 日本にたどりついた道のりを振り返りながら、これまでの取材をもとにその魅力を考察してみたい。

 ウィルクは苦労人だ。32歳で海を渡って日本にやってきた右腕。大学時代には右肘のトミー・ジョン手術を受け、野球人生の岐路に立たされている。

「自分の中では野球を続けるか考えた時期もあったけど、心の中では続けたい思いがあった。やらずに後悔するのだけはイヤだった」

 食品会社の冷凍部門で夜間労働に従事したこともあり、若かりし頃は「フリーザー」と呼ばれていたという。「そのニックネームの時代は速くて若くて元気いっぱいだったんですけど、ちょっとスタイルは変わりましたね」。かつては豪腕でならしたが、大きな手術を経て、キャリアを積むごとに投げる球種や引き出しを増やし「技巧派」に変ぼうを遂げた。

 それでも、プロ入り後もなかなかスポットライトは当たらなかった。13年に米国独立リーグでプロデビューし、14年にボストン・レッドソックスとマイナー契約。16年に、最も長く在籍することになるミルウォーキー・ブルワーズに移籍する。

■メジャーでの大きな挫折とサイ・ヤング賞投手との絆

 ウィルクは失敗を糧にする。17年10月のセントルイス・カージナルス戦で先発し、メジャー初勝利をマーク。それでも、ローテーションに定着することは叶わず昨年までメジャー通算14試合登板。ハイライトは19年にメジャー初ヒットを左翼へのホームランで記録したことになるのかもしれない。先日、本人が明かしてくれたのはアメリカでの“苦い経験”。

 19年8月18日のワシントン・ナショナルズ戦は、その日の早朝のフライトでマイナーから緊急昇格していた。KOされた先発投手のあとを受け、2番手でマウンドに上がるも4被弾5失点と炎上。のちに揃ってメジャーを代表するスラッガーとなる当時20歳のフアン・ソトに2発、アンソニー・レンドーンにもスタンドに放り込まれた。

「すごいプレーヤーたちでした。あの年のワシントンは凄かったので。それでも、あの時の自分には苦い経験だったけど今は自分に必要な経験だったと思えるよ」

 抗いようのない「才能」に打ち砕かれても、マウンドで腕を振り続けてきた。

 ウィルクには“戦友”がいる。ブルワーズ時代、マイナーカテゴリーで多くの時間をともに過ごしたのがコルビン・バーンズ。メジャーリーグに詳しい方なら名前を聞いたことがあるかもしれない。昨年、開幕から連続無四球で40奪三振というメジャー新記録を樹立した屈指の好投手でナショナル・リーグのサイ・ヤング賞も獲得。マイナー時代は毎日のキャッチボールのパートナーでルームシェアした期間もある。

「彼の結婚式にも出席したし、自分に子どもが生まれた時はプレゼントをくれたり、自分も贈り返したりね。今は遠い距離になるけど、メッセージのやり取りでつながっているからね」

 離れても切れない絆、そして投げる場所、立場が変わっても高め合える存在がタイガースで奮闘する原動力になっている。

 ウィルクの「コミュ力」はかなり高めだ。登板後、本人のインスタグラムアカウントは、一気に騒がしくなる。ファンがそれぞれのやり方で白星を祝福する投稿に時間の許す限り24時間で消える投稿機能「ストーリーズ」でしっかりと反応。筆者も、右腕が33歳の誕生日だった5月24日に祝福の投稿をするとダイレクトメッセージで本人から「Thank you!」と即レスがあった。あれだけの数の投稿に返答や反応をしていくのは相当な時間もかかるはずだが、今のところ虎党とウィルクの関係は“相思相愛”と言える。

 ここまで挙げてきたエピソードも、あくまで筆者1人が見てきたもの。彼に関わった他の人物も、また違った角度からその魅力にとりつかれているはずだ。

 “俺たちはなぜウィルカーソンに勝って欲しいのか――”。その答えは、これからもどんどん増えていくことになるだろう。

【虎番13年“チャリコ遠藤”のタイガース豆知識】
 選手たちの趣味は多種多様。ゴルフが圧倒的に多いが、近年増えてきているのが「釣り」。腕前、知識で群を抜いているのが藤浪で、海の上では風や潮流を読む名人だ。野手では梅野が大将格。オフシーズンに必ず行うジギングではメーター級のサワラを釣り上げたことも。ちなみに元虎の松田遼馬は釣りには行くものの、魚を触ることができず、「マジで無理!」と船上で慌てふためいていたとか。

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(チャリコ遠藤)

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