〈活動休止騒動〉新曲発表(カムバック)で1ヶ月働きづめに…BTSリーダーが一石を投じた、K-POPアイドルの“キツすぎる働き方”

〈活動休止騒動〉新曲発表(カムバック)で1ヶ月働きづめに…BTSリーダーが一石を投じた、K-POPアイドルの“キツすぎる働き方”

中央がRM ©?AFLO

 6月15日、K-POPグループ・BTSの「活動休止」報道が世界を駆け巡った。グループとしての音楽活動はいったん中断し、今後はソロ活動を優先させるという。

 株価が大幅に下落したこともあって、所属プロダクションのHYBEは「活動休止」を否定したものの、グループが音楽活動に一区切りつけることには間違いないようだ。その背景には、年内に予定されている最年長メンバーのJINの兵役招集がある( 「BTS活動休止の背景と今後の3つのシナリオ」2022年6月15日 )。特例による兵役免除がなされない以上、BTSの活動休止は十分に予想されていたことでもあった。

 だが、今回の「活動休止」発表で注目されたのは、RMの「アイドル」についての言及だ。(全2回の1回目/ 続き を読む)

■物議を醸した、RMの言葉に込められた意味

〈「K-POPやアイドルというシステム自体が、とにかくひとを成熟させない。ずっとなにかを撮らないといけないし、ずっとなにかをしないといけないから。これでは、成長する時間がない」( 『BANGTANTV』2022年6月14日 )〉

 RMは、自分たちを「アイドル」と認識しながら、率直に心情を吐露している。それは、ギャングスタラップを披露するヒップホップグループとしてスタートしながらも、人気アイドルグループとなったBTSが、その両者のダブルバインド(二重拘束)に陥っているようにも見える。

 BTSは2013年にデビューしたが、もともとはヒップホップグループとして結成された。それもあって、RM、SUGA、J-HOPEのラッパー3人は、個人制作の非商用デモ曲・ミックステープも早い段階から発表している。曲にも当初からみずからの主張を強く込めており、そこが他のグループとは大きく異なる点だった。

 アイドルでありながらもこうした活動が可能だったのは、所属プロダクションのBigHitエンタテインメント(現・HYBE)が当時はまだ弱小のプロダクションだったからでもあるだろう。

 そして、ラップを前面に出した黎明期(2013〜2014年)の「学校三部作」から、BTSは若者から強く支持された。ただし、それは強い一般性を獲得するにはハードルの高い表現でもあった。

■全編英語詞でグローバルスターに

 方向性が変わるのは、ブレイクした2015年の「花様年華」シリーズ(三部作)あたりからだ。大ヒットした「I NEED U」(2015年4月)からは、いわゆる「アイドル」としての認知を強めていく。そこからは、ヒップホップグループとしてのアイデンティティを維持しながらも、マスにリーチするためのチャレンジを繰り広げてきたようにも見える。

 その後、「DNA」(2017年9月)、「FAKE LOVE」(2018年5月)、「Boy With Luv feat. Halsey」(2019年4月)、「ON」(2020年2月)と、BTSは着実に人気を拡大させていった。その次に予定していたのは、2020年4月から9月にかけて世界18都市で開催するワールドツアーだった。

 が、そこに待ち受けていたのが新型コロナウイルスのパンデミックだ。これによってツアーも中止となり、グローバルの頂点に登る寸前でその道を絶たれてしまった印象もあった。

 その状況を打開したのが全編英語詞の「Dynamite」(2020年8月)だ。世界がウイルスの暗闇に覆われていたなか、ノリのいいこのディスコファンクは世界を明るく照らした。Billboardチャート・Hot100ではじめて全米トップに立ち、翌2021年6月に「Butter」、7月に「Permission To Dance」でもチャートの首位に躍り出た。

 K-POPとしてもアジア人としても前例のない活躍だったが、RMはこの過程で悩みを深めていたと話す。

〈「『ON』、『Dynamite』までは、グループが自分たちの手の上にあったような感じだったけど、その後『Butter』、『Permission to Dance』を出して、どのようなグループなのか分からなくなった」( 『BANGTANTV』2022年6月14日 )〉

 この発言には思い当たる点も少なくない。とくに「Permission to Dance」は、それまでのBTSとはかけ離れた楽曲だった。

 エド・シーランが手掛けたダンスについて歌ったこの曲は、リズムよりも独特のメロディを優先するポップスだ。もはやヒップホップでもファンクでもない。曲自体の良し悪しはともかく、グループとしてのBTSの文脈がこれによってかなり不明瞭になったことも納得できる。

 このようにRMはBTSのアイデンティティの揺らぎに言及し、そしてこの後に続くのが、冒頭で紹介したアイドルやK-POPシステムへの疑問だった。

■アイドルは「操り人形」か

 自分たちの抱える葛藤をはっきりと表明するBTSのこうした姿勢は、「アイドル」らしからぬものに見えるかもしれない。なぜなら、一般的に「アイドル」はネガティブに捉えられる表明をしない存在と認識されているからだ。つまり、アイドルはファンには明るい側面だけを見せ、プロダクションが創るフォーマットのうえでパフォーマンスする「操り人形」――いまもそうした認識は根強い。

 「アイドル」をどう定義するかにもよるが、現在一般的に認知されているグループアイドルは、アメリカ・モータウンレコードによるジャクソン5やシュープリームスを参考にしつつも、日本で大きく花開いた文化だ。とくに男性グループでその中心にあるのはいまもむかしもジャニーズであり、K-POPも当初はこの日本のアイドルシステムを大いに参考にした。

 こうしたアイドル文化は、熱心な音楽ファンからはしばしば軽んじられてきた。そうした場合、自分たちで作詞・作曲をしないことや、あくまでも芸能プロダクション主導であることがその理由とされてきた。つまり、活動を自分たちでコントロールしていない「操り人形」だとする認識――メンバーたちの主体性の希薄さが、アイドルが軽んじられてきた最大の要因だ。

 もちろん当事者はこうした視線に対し、さまざまに反駁してきたのもたしかだ。自身で作詞する者は少なからず存在し、たとえば小泉今日子のようにセルフプロデュースをする存在もいた。あるいは、ライターの香月孝史が看破したように、熱心なファンはそうした「操り人形」としての存在性からこぼれ落ちる「主体性」こそをアイドル当事者に求め、消費してきた側面もある(香月孝史『「アイドル」の読み方』 2014年)。

 実際、今回のBTSの発言も、一般的には「アイドルの主体性の発露」として好意的に捉えられてきた向きがある。

 しかし、いくらファンが能動的にアイドルの「主体性」を読み込んだところで、現実的にグループアイドルの活動を芸能プロダクションが主導していることは間違いない。

■K-POPアイドルを疲弊させる新曲発表(カムバック)

 そもそもグループは、プロダクションが自社で抱える練習生から選抜して組み上げられる。それはあくまでも会社のプロダクト(商品)であり、韓国でも日本でもほとんどのグループはプロダクションが商標登録をしている。BTSも例外ではない。ロックバンドと決定的に異なるのは、このグループの成立過程にある。

 そして、K-POPでは激しい競争が続いている。グループは短いスパンで作品をリリースし、新曲発表(カムバック)の際は約1か月間働き詰めになる。韓国の音楽産業は、2010年から2020年の10年間に国内は2倍、輸出額は8倍と右肩上がりの成長を続けてきたが、それは過剰とも言えるスケジュールをアイドルたちに課した結果でもある。

 ハードスケジュールが課せられるのは、プロダクションとメンバーの契約期間が最長7年だからだ。過去にK-POPでは「奴隷契約」とも呼ばれた長期契約が問題化したこともあり、2009年に公正取引委員会によって契約期間は最長7年とされた。このため、プロダクションは育成費などの投資をデビューから7年で最大化しようとする。たとえヒットしても、多くの場合にデビューから5〜7年でメンバーの脱退や解散が目立つのも、背後にこのルールがあるためだ(BTSのようにメンバー全員が契約を更新して7年以上続くグループもある)。

 厳しい競争による過密スケジュールの反動は、やはりメンバーたちのコンディションに顕れる。活動休止をするメンバーは少なくなく、うつ病やパニック障害を告白するケースも珍しくない。

 RMが一石を投じたのは、こうしたプロダクション主導のK-POPグループのシステムや、それによって生じる過密スケジュールでメンバーが疲弊していく構造的問題だと捉えられる。

「アイドルが商品なら、人権を放棄しなければならなくなる」BTS活動休止騒動で話題に…K-POPトップスターたちが語った“重すぎた言葉” へ続く

(松谷 創一郎)

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