「馬鹿にしないでよ!」山口百恵、中森明菜、森高千里…日本の“アイドルたち”は何に怒ってきたのか?

「馬鹿にしないでよ!」山口百恵、中森明菜、森高千里…日本の“アイドルたち”は何に怒ってきたのか?

1978年、第9回日本歌謡大賞で『プレイバックpart2』を歌う山口百恵 ©共同通信社

 寝ても覚めても暗いニュースばかりでうんざりである。そこに容赦なくやってくる梅雨&猛暑。ああもうジメジメするし髪は爆発するし暑いし、ムカつくムカつく、ストレスストレス! 長い自粛生活でコミュニケーション能力はガタ落ちしているから、こんなときにチクリと面倒なことを言われたら、憤りが暴発しヘンな怒り方になってしまう!

 怒りの言葉を上手に選んだり、気持ちを収めたりするのは本当に難しい。そんなとき、Adoの『うっせぇわ』のサビを心で歌うと、フッと収まると聞いた。試しに歌ってみる。

「うっせぇうっせぇうっせぇわ あなたが思うより健康です」

 なるほど。確かに……!

■「日常のイライラ」に効く名曲たち

『うっせぇわ』がリリースされたのは、コロナ禍のど真ん中、2020年である。攻撃的な言葉の巧みなパズル! 懐かしい価値観(「空いたグラスがあれば直ぐ注ぎなさい」など)が描かれちょっと意外だっだが、重要なのは太い歌声とキャッチーなサビ。「ほっといて」でもなく「うるさい」でもなく、思わず口から出ちゃった的な、投げつけるように歌われる「うっせぇわ」! これが閉塞感に苦しむ時期にバシッとハマった。

?この曲と2020年のドラマ『半沢直樹』の大げさなほどの台詞バトルは、多くの人が抱いていた鬱憤や怒りを代弁し、その発散に大いに役立ったと思う。まさにアンガーマネージメント・エンタメ!

 2022年にはアイドルグループBEYOOOOONDSが『ハムカツ黙示録』という、そのものずばり「アンガーマネージメント」をテーマにした楽曲を発表。こちらは『うっせぇわ』よりもっと日常的な「はあムカつく(ハムカツ)」。「ああ、わかるわー」と共感し、クスッと笑うことができた。

 ありがたい。今なお続くこのイライラモヤモヤを軽減できる歌はもっとないものか。そもそも歌を「口ずさむ」の「ずさむ」は、古くは「荒む」とも綴り、「荒ぶる」という意味があったそうだ。ならば歌の力を借りて荒ぶってスッキリしよう!

 社会に対して憤り、世の中に物申す名曲は数多ある。その中で今回は、もう少しミニマムな視点の「日常で引っ掛かるイライラに効く」名曲を探していこうと思う。

 ただでさえ暑い夏、カーッと血が上る回数が減りますように。

■山口百恵と中森明菜の“激おこソング”

 グジグジ不満ばかり言う人への怒りに対処したいとき頼りになるのが、70年代〜80年代、昭和アイドルの激おこソングである。「強気な女の子がふがいない彼にタンカを切る」という恋愛設定が多いが、歌詞がとにかくストレートなので、聴いても歌っても気持ちがスッキリする。特に山口百恵と中森明菜は外せない。

 山口百恵の「馬鹿にしないでよ!」と睨む『プレイバックpart2』。

「はっきりカタをつけてよ!」と迫る『絶体絶命』。

「かっこ」と6回も連呼し、トドメに「かっこばかり 先ばしり」と言い放つ『ロックンロール・ウィドウ』。

 70年代前半の歌謡曲では、女は耐える、待つ。そうでないならヤサグレ社会から逸脱するという極端な選択を強いられがちだった。しかし百恵の歌は、凛と面と向かって言いたいことを言う。叱る! どれを聴いても「よくぞ言ってくれました!」と拍手したくなる。

 80年代前半は、中森明菜の「じれったい じれったい」とイラつく『少女A』、「それでもまだ私悪くいうの……いいかげんにして!」とキレる『1/2の神話』。

「限界なんだわ 坊やイライラするわ」とイラつきをそのまんま指摘する『十戒』。

 勝手な思い込みでアレコレと説教したり勘ぐったりする輩、もしくは言うだけ番長で何にもしないタイプにビシッと睨みつける。ああスッキリ!

 山口百恵の3曲は阿木燿子、中森明菜の3曲は売野雅勇が作詞している。ガツンと強烈なパワーワードがありながら、怒りに至るまでのプロセスもしっかり見えるという職人技。イライラをものすごくカッコいい風で吹き飛ばしてくれる。

■バブル期のストレスを歌った森高千里

 人間関係でのマウントにイラついたときに効くのが森高千里の歌である。私が彼女を知ったのは1989年。ロングヘアにトサカ前髪、ミニスカというバブリーないでたちで、価値観を押し付ける輩へのアンチテーゼを歌っていた。しかもその歌詞が、アイドルらしいキラキラのオブラートに包まず、恐ろしくリアル。

 ひたすら「たまる ストレスがたまる」と歌った『ストレス』。「あれこれそれあいつ いらいらするわ」と、愚痴る愚痴る。「笑顔で乗り切りましょう」なんて爽やかなオチは無い。吐き出すことが一番の解消法とばかりに「ストレスがたまる」と歌うのだ。これが写経のようなカタルシスを生み、聴いたあと心を素に戻してくれる。

『臭いものにはフタをしろ!!』では、ロックンロールについて上から目線で語ってくる男に「本でも書いたらおじさん」「私もぐりでいいのよ 好きにするわ」とバッサリ。

 他にも『ミーハー』『非実力派宣言』など、お節介を吹き飛ばすワードで溢れている森高ソング。「自分でちゃんと分かったうえでやってます。しかも楽しくやってます!」という苛立ちを、ユーモアとライトな感覚でサラリ&チクリと歌い、不思議な爽快感がある。

 しかし、『ストレス』『臭いものにはフタをしろ!!』を聴くと、人々がやりたい放題だったように見えたバブル期末期も、意外にストレスフルだったのだなあ、と改めて感じる。お金がモノをいい、マナー違反も続出。男女・上下格差も意外に大きく、偉そうな人は「アンタは宇宙の王様か!?」というほど偉そうで、やりたい放題の影で被害に遭っている人の怒りも相当なものだったはず。

 2006年、安倍なつみが『ザ・ストレス』としてカバーしているが、二人のPVを見比べると、それぞれの時代の「ストレス」が浮かんでくる。森高バージョンはセクハラやマナー違反、安倍バージョンは、パソコンが一般普及した後の切迫感が漂っている。

■やっぱり外せない『POISON』

 男性アーティストの中では、事なかれ主義の大人たちへの怒りを歌詞に叩きつけた尾崎豊は代表格。聴くタイミングによっては、あらゆる不条理が目につき怒りが倍増する諸刃の剣だが、心の奥に押しこんでいた情熱が目を覚ます。

 もう一つ、怒りと癒しのバランスが絶妙な『POISON 〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜』を推したい。1998年の大ヒットドラマ『GTO』の主題歌で、主演の鬼塚を演じた反町隆史が歌唱し、今でも愛される一曲だ。

 当時アイドル的人気を博していた反町が、出るか出ないかギリギリの低音で「ポイズン……」と歌う。これで私は「言いたいことが言えないときの悔しさ」からフッと解放されるのである。

「言いたい事も言えない世の中じゃ〜OH OH♪」というスマートな歌詞でも成り立つのに、「ポイズン!」と慌てて付け足したように早口で歌うのがいい! このなんとも言えない不器用な感じが素晴らしい。「今言いたいことを言えない世の中ってどうなの?」と指摘をした直後の照れやバツの悪さみたいなものを、「ポイズン」の一言が引き受けてくれる感じがするのである。作詞は反町隆史さんご本人。グレイトである!

■「自己責任」の時代に起きた“歌詞の変化”

 この「POISON」「言いたいことも言えない」に対して、令和のアンサーソング的な歌があるらしい――。そう教えてもらって聴いたのが、BiSHの「I have no idea.」(2021年)。「いいたいことがない」。なるほどなあと感動した。「毛頭目立つつもりはないですそっとしておいて」。昭和が「怒る」としたら令和のキーワードは「一抜けた(戦わない)」かもしれない。「逃げろ」と同時に「全部自業自得でしょ」と歌うのも印象的だ。

 これらの変化は、2004年頃から流行した「自己責任」という言葉が少し関係しているようにも思う。平成の中期・後期になると、怒りをストレートに歌う曲は減っていき「耐える」もしくは「問う」になる。歌詞の多くが、「〜しているか?」「〜なのか?」と、問いかけ&論じる形式になっていくのである。

 特に秋元康がグループアイドルに書くメッセージソングは、ストイックで、自分に厳しい。他人に怒りを叩きつける前に「僕らは」と前置きして問題提起し、自己責任をくっつけるイメージだ。

 聴く時の体調によっては疲れもするけれど、自分を責めているのは自分だけではない、という安心感や、一周回って「こんな世の中でも生きていく」不思議な力も湧いてくる。

 欅坂46のとぐろを巻いたような矯正への反発も、怒りと絶望を経由して、救いをもたらしていた。

 怒りは本当に付き合いが難しい感情だけど、凄まじいエネルギーであることは間違いないのだ。

■「6秒ルール」はサビメドレーで!

 実は私も若かりし頃、怒りのパワーを痛感したことがある。暑さで半熱中症になり、足元がフラフラになりながら行った営業で企画を笑われ突き返された。しかしおかげで、怒りのあまり気分の悪さが吹っ飛び、「見てろよコノヤロー!」と、足取り強く鼻息荒く帰路につくことができた。

 このときのように、怒りを気力体力に昇華できれば最高である。しかしなかなか毎回うまくはいかない。だからこそ、いざ怒りが湧き上がったときに切り替える「スイッチ」が欲しい。パッとお気に入りのフレーズを口ずさみ、「歌で荒ぶる」のはいい策だと思うのである。

 アンガーマネージメントの一つとして「6秒ルール」というものがあるそうだ。怒りでカッと頭に血が上っても、とりあえず6秒我慢すれば気持ちが収まってくるのだとか。

「うっせぇうっせぇうっせぇわ」「馬鹿にしないでよ!」「いいかげんにして」「ポイズン!」「ろくなもんじゃねえ!」(ギリギリだが長渕剛も入れておきたい)。

 ああ、すっきりした……。6秒間、意外に長い。歌のサビメドレーを心の中で歌うにはピッタリの時間である。

(田中 稲)

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