日本ハム・吉田輝星21歳、青春を超えていけ 秋田のファンは最高の拍手でねぎらった

日本ハム・吉田輝星21歳、青春を超えていけ 秋田のファンは最高の拍手でねぎらった

吉田輝星

 吉田輝星はこの5月、夢を見たのだという。

 先発で勝利する夢だった。「ヒーローインタビューでめちゃくちゃ泣いていた」そうだ。一体、どこ戦だったのだろう。僕は胸が熱くなる。野球選手の見た野球の夢。ヒーローがヒーローになる夢。心に秘めた思いが叶い、嬉し泣きする夢。

 吉田輝星は先発で投げたいのだ。

 先発で投げたいのだ。まっさらなマウンドに立ち、歩数を数えて自分の場所を堀り、トップバッターと対峙したい。輝星は今季、やっと1軍の戦力になった。中継ぎとして1イニングを任される起用がほとんどだ。めいっぱいストレートで押すスタイルに活路を見出した。もちろんそれに手応えを感じている。春季キャンプで藤川球児臨時コーチの指導を仰いだ「タテ振りのストレート」は輝星のポテンシャルを見事に引き出した。

 先発で投げたいのだ。そのために去年はほぼ鎌ケ谷暮らし、イースタンで「直球しばり」の投球を続けた。いかに2軍といえど直球だけで封じるのは至難の業だ。カウント球のストレート、空振りを取るストレート、緩急、タイミングをずらす投球術etc、覚えるべきことは山のようにあった。

■21歳の吉田輝星は人生でたった一度しかない体験をする

 交流戦の阪神戦。ビッグチャンスをもらった。2018年夏決勝以来の甲子園の先発マウンドだ。ただ投球は精彩を欠いた。3回4失点。新庄ビッグボスの帰還に甲子園は満杯だった。「阪神タイガースの甲子園」は「高校野球の甲子園」とは全く違う。2死からでも1人走者を出すと、応援のテンションが上がって絶体絶命のピンチみたいに錯覚してしまう。「聖地・甲子園」への思い入れもあいまって、輝星は力んでしまった。

 そして次の先発登板は秋田だった。あぁ読者よ、吉田輝星が秋田・こまちスタジアムに凱旋する。新庄ビッグボスは早々と輝星先発を発表し、それが「ラストチャンス」になると明言した。これはもう、野球ファンならゴハン何杯でもいけるやつだ。出来事としてはね、「高校野球のスターがプロ入り後、初めて郷里のマウンドに立つ」だと思う。生中継を組んだNHKも、新聞各紙も、基本的にはそのトーンだ。だけど、正味のところは違うでしょう。

 主題は「青春」。青春の後始末だ。21歳の吉田輝星は人生でたった一度しかない体験をする。「聖地・甲子園」「郷里のこまちスタジアム」、金足農業フィーバーを巻き起こし、吉田輝星を吉田輝星たらしめた舞台を再訪して、自ら青春のしっぽを始末する。

 読者は社会に出てから、何の気なく母校を訪ねたことがあるだろうか。あれは本当に不思議な感覚だ。毎日通った道。バス停や自転車置き場。校門の桜の木。むせ返るように懐かしい。鼓動が高鳴る。今にも渡り廊下を好きだった女の子が歩いてきそうだ。あぁ、ここですべてが始まったんだなぁと思う。そして、同じ校章をつけた後輩らを見て、それはとっくの昔に終わったことなんだなぁと思う。うっかりするとついこないだのように錯覚してしまうが、そうではない。自分は社会人になっている。もう終わらせていい。よかったこともいやだったことも、忘れかねている全部を終わらせていい。

 面白いもので二度目に母校を訪ねたときは、もうあんなにドキドキはしない。青春と同じ一回性のものなのだ。輝星は県予選を戦った球場に立ち、自分が大人になったことに気づくだろうと思った。それは言い方を変えると「プロになったことに気づく」だ。他のどこでもない、プロ野球こそ輝星の生きる道だ。そしてチームの監督はその登板が「ラストチャンス」だと告げている。

■おかえり輝星 おかえり秋田の輝く星

 18時プレーボール。秋田の空はまだ明るい。1回表、楽天・則本昂大が得点圏に走者を背負いつつ、0点で終えた。夕陽を浴びて吉田輝星がマウンドに向かう。まぶしい光のなかに輝星が立つ。そのとき、こまちスタジアムをつつんだ割れんばかりの拍手。胸がいっぱいになる。チケットは完売。これは東北楽天の主催試合ではあるけれど、輝星の故郷(ホーム)だ。どっちのファンであれ、輝星のことは応援している。秋田という土地の温かさ。輝星の存在感。

 トップバッターは茂木栄五郎。狙いは初球、ストレートにしぼっていた。球場の空気が面白い。「ついに輝星が」「けっぱれ」「がりっと頑張れ」「万感の想い」「この目に焼き付ける」、そのような様々な思念、期待感がぷうーっと風船のように膨らんでいたところでいきなり初球に手を出した。急展開。じんわり来るヒマがない。打球はレフト木村文紀が難なく捕球。1球で最初のアウトだ。あらためて割れんばかりの拍手。360度、すべての方向から拍手が包み込む。

 おかえり輝星。おかえり秋田の輝く星。

 輝星はストレートで押す投球だ。フォークは少しかかり気味。2アウトを取って、強打者・浅村栄斗を迎える。この対決は見応えがあった。輝星はストレートで追い込む。変化球はボールになるもんだから、むきになってストレート押しだ。浅村は真後ろに飛ぶ、タイミングの合ってるファウル。7球目、この日最速の147キロを投じた。浅村は真っ芯でとらえる。レフトフェンス直撃の当たり。が、当たりが良すぎた。レフト木村文紀は鉄砲肩だ。セカンドで浅村を刺した。振り返りグラブ越しの拍手で木村を称える輝星。とてもいい雰囲気だ。(被安打1がついたが)初回は3人で片づけることができた。

 2回は三者凡退。3回は走者を許すが、宇佐見真吾が盗塁を刺し、3イニングをきっかり9人で終える。ここまで奪三振は2、フライアウトが目につく。僕は吉田輝星という投手の面白さを考える。伸びのあるストレートが身上だ。伸びる分、フライアウトが増える。が、球速表示は140キロ台だ。スピードだけを見れば佐々木朗希や千賀滉大の160キロ台に遠く及ばない。読後感ならぬ「投球後感」を表現すると朗希、千賀のエグさはない。が、めちゃくちゃ気持ちいいのだ。リリースの反動で右足が跳ねマウンドで躍る。あの爽快感は輝星の持ち味だろう。

 もしかすると現在のストレート、フォーク、スライダーに加え、ツーシーム(シュート)を覚え、しつこく内角攻めすればエグさが身につくのかもしれない。あるいはチェンジアップを覚えたら組み立てに幅ができるのかもしれない。でも、大前提はまっすぐを磨くことだ。師匠、藤川球児直伝のホップするストレートで「火の玉投手」を襲名してもらいたい。

 4回、浅村を四球で歩かせるが、後続を断つ。5回、ヒットと四球の走者を置いて、太田光に2点タイムリーを食らった。続く武藤敦貴にもヒットを打たれ、1死一、二塁でKO。輝星は先発のノルマ5回を投げ切ることができなかった。凱旋登板で勝利を飾ることができなかった。走者を残したままマウンドを降りていく。彼の性格からしたらいちばん悔しいことだ。

 そうしたらね、こまちスタジアムのファンが今日いちの拍手でねぎらってくれたんだよ。あぁ輝星、秋田で投げて本当に良かったと思った。拍手拍手拍手だよ。がんばれ輝星。拍手拍手だ。良かったぞ。もっと良くなるぞ。拍手拍手拍手だ。がんばれ輝星。大人になってもいいんだ。大人になってもお前はずっと秋田の子だ。拍手拍手。拍手拍手拍手。プロでがんばれ。オレたちの夢を叶えてくれよ。

 球場はいつの間にか闇に包まれていた。秋田最高だなぁ。吉田輝星は苦しいとき、あの拍手を思い出すだろう。肚の底から力が湧いてくるだろう。以上が「高校野球のスターがプロ入り後、初めて郷里のマウンドに立った」話だ。本当にさ、いいものを見たよ。

 附記 実は僕も市立秋田病院(現在の秋田総合病院)で生まれた。家は新屋だったらしいけど、幼すぎて覚えていない。近くを雄物川が流れていたそうだ。父の初めての赴任地だった。両親はともに東京出身だから、雪国の暮らしは驚きの連続だったそうだ。幼い頃のアルバムにはねんねこを着せられ雪のなかに転がされてる写真がある。我が家は転勤族でその後、高崎、釧路、和歌山、久留米と全国を転々とするのだが、現在に至るも僕のプロフィールは「秋田県出身」だ。秋田最高!

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(えのきど いちろう)

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