「9回無死満塁で投手は桑田真澄。“初球から打て”と言われ金縛りに…」 元ヤクルト・城友博が野村監督に“気に入ってもらうため”の“戦略”

「9回無死満塁で投手は桑田真澄。“初球から打て”と言われ金縛りに…」 元ヤクルト・城友博が野村監督に“気に入ってもらうため”の“戦略”

「どうしたら一軍で結果を出せるか」という思いが原点だという城友博氏

「北京五輪のエラー後、妻に“死にたい”と話しました」 G・G・佐藤氏を号泣させた野村克也の“亡くなる10日前”の言葉 から続く

「ユニホームを脱いでからが勝負だ」。監督は選手に何度も説いた。人生後半戦をどう生きるか。それが問われる――。野村克也の薫陶を受けた“野村チルドレン”は、プロ野球選手を引退後、ビジネスの世界で活躍している。誕生日の6月29日、3人のビジネスリーダーが、「野村の教え」を紹介してくれた。

『 遺言 野村克也が最期の1年に語ったこと 』の著者で、野村の“最後の話し相手”となった、元サンケイスポーツ記者、現在はジャーナリストの飯田絵美氏が、学生の就職活動を支援する人材紹介会社を経営する城友博氏に聞いた。(全3回の2回目。 #1 , #3 を読む)

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■一軍に残るための戦略

――城友博さんはヤクルトの俊足の2番打者、イケメン選手として人気を集めた。現在、人材紹介事業「J―SHIP」を経営する彼を支えているのは、プロ野球選手の頃に培った戦略思考だった。

 僕の原点は、「どうしたら一軍で結果を出せるか。いかにレギュラーを取れるか」という思いです。いつもそれを考えて行動していました。自分の価値を分かっていましたから。

〈身長1メートル72、肩は弱い、バッティングは大したことがない〉。売れるポイントは足しかなかった。「このままでは、プロでは生き残れない」と分析しました。

 プロ野球選手は1年ごとの契約です。ドラフト6位入団で、実績もない僕は、いつクビになるか分からない。そこで、〈高卒、球の切れ、挫折経験、スイングの速さ〉と自己の個性を客観視。一軍に残るためにはどうしたらいいか、戦略を立てたんです。

■野球でもビジネスでも求められる視点

 野村さんから見て、僕の見た目は大嫌いなタイプだと判断しました。だから試合中、ベンチで野村監督の前に座って積極的に声を出しました。「おまえ、茶髪やろ」と言われたときは、「これは地毛なんです」と答えましたが、翌日、黒く染めて行きました。僕の髪は柔らかくて、光に当たると茶色くなりやすいんです。でも見た目の清潔感は大事だと僕も理解していますし、野村さんは茶髪・長髪・ヒゲが嫌いだと知っていたから、あえて髪を黒く染めたんです。

「城はもともと茶色い髪質なのに、さらに黒く染めてきたんや」という印象を監督に与えることになりました。

 気に入ってもらいたいけど、媚びを売るわけではない。自分が所属するリーダーがどういうタイプなのか。どういう距離感を望んでいるのか。それを把握し実行したつもりです。リーダーが求める像に自分を近づけることも、その場で生きる戦略のひとつ。常に相手の立場になって考えること。その視点が、野球でもビジネスでも求められます。

■成功するために最も必要な能力とは…

 いまも強烈に覚えていることがあります。神宮球場での巨人戦、相手投手は桑田真澄さん。0−1で9回無死満塁の場面。2番打者の僕に、「初球から打て」と野村監督は指示を出しました。

 動揺した僕はその瞬間、金縛りにあってバットが振れませんでした。セオリーでは、この場面は1球見送ることが多いからです。 

 代打で同じ場面がもう一度めぐって来た。カウント3ボール−0ストライクで、ベンチのサインは「打て」。「桑田はコントロールがいい。無死満塁で3−0、打者・城ならコントロールを乱さず真っすぐを投げるだろう。3−0から打った方が確率が高い」と、野村さんはそう読んだ。試合状況、カウント、打者の性質、投手の能力などを考慮して判断した。でも、僕は見逃し三振…。ベンチに戻って叱られました。

「なんで打たんのや、おまえ。責任を取るのはベンチや。監督が『打て』と言ったら、打て。消極的で使えん」

 試合後、クラブハウスに戻ったら、松井(優典一軍総合コーチ)さんから「明日からファーム(二軍)な」と一言、告げられました。即二軍。

 結果的にそこから真中(満)が起用されるようになった。積極的になれなかったことで、二軍落ちという仕打ちがあった。野球観が変わった瞬間でした。

「野球とは何か? 何が最も大切な能力か?」と問われたら、「勇気」だと思う。バッティングで大事なのは、何よりも勇気です。

 プロ野球でもビジネスでも、成功する人はどんな人か?「逆境において楽天的に考えられる人のことだ」と、野村さんはおっしゃった。その言葉通りです。

 僕らプロは、ある意味で毎日、逆境にいる。決定的な場面で、「オレが何とかしなきゃ」と思い詰めるタイプは打てない。体が硬くなるから。

■根拠を確認することで組織は強くなる

 監督は根拠を尋ねる人でした。試合中、ベンチで古田(敦也)さんを立たせて「あの配球は根拠がない」と叱る姿を見てきました。

 結果を出せる人には根拠がある。だから僕も、会社で部下が行動した後はヒアリングをしています。「なぜこの会社へ営業をしに行ったのか」「どうしてこの人にアポイントを取ったのか」など、根拠を尋ねるようにしています。

 大いに失敗をしていい。でも「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」なんですよね。営業に行って結果が出なかったとき、うまくいかなかった理由がある。「事前準備が足りなかった」「相手が望む情報をすぐに出せなかった」「会って名刺を交換するだけだった」。それじゃ結果は出ない。仕事=目的+成果です。

■グラウンドの外でも「野村の教え」は活用できる

 野村さんの教えを記したノートは、「いまの自分の状態にはこれだ」「ウチの会社に当てはまるものは」と、ことあるごとに読み返しています。野村さんは、僕の感性を磨いてくれた大切な“お父さん”みたいな存在でした。

 最も心に響いた言葉は、「考え方=取り組み方」。

 たとえば、「今日は大雨だから嫌だな」とマイナスのイメージを持つと、考え方が行動につながる。考え方をプラスにすることで、行動が変わってくる。イヤイヤやる練習、やらされる練習は身に付かない。筋肉は付くけど、それは本物ではない。自らやる練習は本番で使える。工夫をしたり考えたりしながら体を動かすことで、頭と体が連動するからです。

 ビジネスも同じ。「人との出会いを点で終わらせるな」と社員に伝えています。せっかくの出会いを、偶然ではなく必然にする。そのためには相手とお会いした後、相手にとって利することを考え、先々を決めていく。

■社員に「楽しい!」と感じる瞬間を持ってほしい

 僕の会社は、大学硬式野球部の学生さんの就職をサポートしています。今後は大阪にも支店を作り、ラグビー部やアメフト部の学生さんも視野に入れています。10月1日には、「ミスオリエンタル日本大会」というイベントを名古屋で開催する予定です。

「就職支援会社になぜミスコンなのか?」と思う方もいらっしゃるでしょう。自社で華やかなイベントをゼロから作り出すことで、社員に「楽しい!」と感じる瞬間を持ってほしい。担当役員の細かい視点を社員が学べば成長できる。野村さんの教えの根本にある人間教育に繋がると考えています。

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(飯田 絵美/ノンフィクション出版)

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