頭の中は野球でいっぱい…DeNA・森敬斗に感じる『1番ショート』というロマン

頭の中は野球でいっぱい…DeNA・森敬斗に感じる『1番ショート』というロマン

第1号本塁打を放ちヒーローインタビューを終えポーズを決める森敬斗

 6月23日の巨人戦、6回表の攻撃。8番ショートで先発出場した森敬斗選手が、プロ初ホームランを放ちました。試合は7-5でベイスターズが勝利しました。

「率直にうれしいです。つなごうという意識の結果がホームランになりました。入るとは思わなかったので全力で走りました」

 キリっとした眉に、大きな瞳。プレー中の凛々しい表情と打って変わって、ヒーローインタビューではアイドル級の笑顔での初々しい受け答えが印象的でした。そしてその姿を眺める私の頭の中では、「1番ショート、森」というフレーズが何回も繰り返されていました。

■「1番ショート、森」への期待が膨らむ理由

 2019年のドラフト1位。この年のドラフトは大船渡高の佐々木朗希(ロッテ)、星稜高の奥川恭伸(ヤクルト)、東邦高の石川昂弥(中日)ら高校生に逸材が多く、12球団中、実に7チームが高校生を1位指名しています。これまで即戦力大学生投手を中心に指名してきた横浜DeNAベイスターズにとっても、ドラ1高校生野手の入団は2009年の筒香嘉智以来。森選手に対する球団の期待の高さがうかがえます。

 森選手がプロから注目されるようになったのは、桐蔭学園高2年生時の関東大会1回戦。優勝候補といわれた常総学院戦で放った逆転サヨナラ満塁ホームランです。劇的な一打でプロ関係者に勝負強さを強烈に印象付けました。加えて50メートル5秒8の俊足に遠投120メートルの強肩。高校侍ジャパンでは、遊撃手ながら1番センターを任され、対応力の高さも見せています。当時、二遊間の固定に課題を持っていたベイスターズが、佐々木や奥川に目もくれず、森敬斗の単独1位指名に踏み切ったのは、地元横浜の桐蔭学園高出身ということだけではなかったはずです。

 球団の歴史を遡って、チームを代表する遊撃手として真っ先に思い浮かぶのが、山下大輔氏と、現在の野手総合コーチである石井琢朗氏の二人かと思います。

 慶応大学出身の山下氏は東京六大学野球リーグで首位打者1回、ベストナイン4回を獲得。甘いマスクで「慶応のプリンス」と呼ばれたスター選手でした。1973年ドラフト1位で入団すると、2年目の1975年から遊撃のレギュラーに定着。翌年から8年連続ダイヤモンドグラブ賞(現在のゴールデングラブ賞)を受賞し、チームの顔として活躍しました。2003年からの2年間は、生え抜きOBとして監督も務めています。

 石井コーチは足利工業高から1988年ドラフト外で、投手として入団。4年目の1992年から野手に転向し、おもに三塁を守りました。遊撃に定着したのは1996年からで、1998年のリーグ優勝&日本一に盗塁王、最多安打で貢献。広島へ移籍する2008年までの間に、盗塁王4回、最多安打2回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回(三塁手で3回)を受賞しています。通算2432安打はNPB歴代11位となっています。

 二人とも時代を代表する遊撃手であるとともに、1番打者としてチームをけん引する存在でもありました。さらに選手会長を務め、チームリーダーとしてまとめ役も担ってきました。ついでに言うと“イケメン”という共通点もあります。私の中にこの二人のイメージがあるからでしょうか、ベイスターズの1番打者は遊撃手(+イケメン)がよく似合うように思います。だからこそ「1番ショート、森」への期待が膨らむのです。

■とにかく頭の中は野球のことでいっぱい

 森選手を初めて取材したのは、2020年のキャンプ直前でした。1月下旬のことなので、正確にはまだ高校を卒業していません。取材慣れしていない新人選手の場合、答えに詰まったり、黙り込んでしまったりすることも多く、そのために答えやすいプライベートの質問を多めに用意したのですが、森選手の場合、話題がプライベートに及ぶと答えに詰まってしまいます。

「入寮して最初に買ったものは?」「寮の食事で一番お気に入りのメニューは?」「好きな女性のタイプは?」といった質問には「うーん、なんだろう?」と考え込んでしまうのですが、野球の話になると急に舌が滑らかになるのです。

「今は練習(新人合同自主トレ)が楽しい。何を鍛えるための練習か、目的意識がはっきりしている」

「1年目から一軍昇格は簡単なことではないと思うけれど、もしチャンスがあれば自分の武器である足や肩で貢献したい」

「まだ何の結果も出していない新人の練習を見に来てくれる人がいる。そんな人たちの期待を裏切らないようにしっかり練習して、1年でも長くチームの勝利に貢献できる選手になりたい」

 とにかく頭の中は野球のことでいっぱい。ドラフト1位のプライド、というより責任感のほうが勝っているような、そんな感じなのです。実際、森選手は“練習の虫”と評判です。周囲が止めるまで黙々と練習していることも珍しくないそうです。まだ高校生なのにしっかりしているなぁと感心した記憶があります。

 余談にはなりますが、イマドキの若者っぽい部分もちゃんと見え隠れします。たとえばスキンケア。青星寮の森選手の部屋には、入口近くの棚に、大量のスキンケアグッズがずらりと並んでいます。ニキビが嫌で肌の手入れを欠かさないそうですが、スキンケアにハマった理由が「中学生の時におばあちゃんがプレゼントしてくれたクリームがきっかけ」という、実にほのぼのとしたエピソードを披露してくれました。

 性格も明るく、ムードメーカー的な役割を担うこともあります。京山将弥選手や益子京右選手、知野直人選手ら、仲の良いチームメイトは「イケメンだからクールと思われているかもしれないけれど、積極的に盛り上げ役をやるし、すごく面白いヤツですよ」と話しています。佐野恵太選手がそうであったように、ムードメーカーは実力が伴っていくことでチームリーダーへと成長していきます。森選手にもその資質があるように思えます。

■すべてのベイスターズファンの期待の星であり、明日への希望

 そんな森選手も今年で3年目。そろそろ一軍での結果が求められる年になってきました。目標はもちろん遊撃のレギュラー獲りです。今シーズンはケガのために出遅れはしたものの、交流戦半ばで一軍登録されると、まず走塁と強肩で注目を集めました。6月19日の阪神戦では、相手の守備の乱れを突き、一塁から長駆ホームイン。6月22日の巨人戦では、宮崎敏郎選手がはじいた三遊間のゴロを素早くカバーし、矢のような送球で一塁アウトに。どちらのプレーも球場が大きくどよめきました。そしてスタメン起用が増えてくる中で飛び出したのが、冒頭のプロ初ホームランだったのです。

 他球団ファンからみれば「ホームランを1本打ったくらいで、何を浮かれているんだ」と思うかもしれません。しかしベイスターズのオールドファンにとって「1番ショート」は特別な響きであり、それを体現してくれるだろう森敬斗選手は、すべてのベイスターズファンの期待の星であり、明日への希望なのです。

 もちろん課題はまだまだあるでしょう。しかし野球に向き合う姿勢、周囲を盛り上げる明るい性格、チームに勢いをつけるダイナミックなプレーは、「1番ショート」の系譜に名を連ねるのにふさわしく思うのです。

 “昭和の山下大輔”、“平成の石井琢朗”、そして“令和の森敬斗”。走攻守+リーダーシップ+イケメンの5拍子そろった「1番ショート」。なんというロマンでしょう。

 前年の最下位を受けて「横浜反撃」をスローガンに掲げた2022年の横浜DeNAベイスターズですが、残念ながらここまでは苦しい状況が続いています。1番打者も遊撃手も固定できてはいません。そんな中にあって森敬斗選手は、ベイスターズファンにとっての明るい未来の象徴でもあります。「1番ショート、森」というアナウンスを、当たり前のように聞けるようになる日が待ち遠しくて仕方ありません。

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(小貫 正貴)

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