セクシー路線はもう卒業? 不倫男ばかり演じてきた斎藤工(40)が「シン・ウルトラマン」に変身するまで

セクシー路線はもう卒業? 不倫男ばかり演じてきた斎藤工(40)が「シン・ウルトラマン」に変身するまで

©文藝春秋

 大きな箱を抱えた少年がいる。箱の中にはなにやらいろいろと入っている。サッカーボールなどもあるが、たいていは名前のわからない謎の物体。不思議な幾何学模様や極彩色のものに妙に古びたもの、大人が眉をしかめるような生々しいものや禍々しいものも入っている。

 その年頃の子供が興味をもちそうもない代物ばかりだが、彼は表情を変えずにひとつひとつについて淡々と説明する。どうやらこれらは「人間の欲望」のようだ。その世界観や感性が独特すぎて、どう反応していいのか迷う。そんな印象がある。斎藤工の話だ。

 現在公開中の『シン・ウルトラマン』を観た。適役としか言いようがない。謎に満ちた生命体、人間ではない何か、不思議な能力をもつ者として、彼以上に説得力をもたせることができる俳優がいるだろうか。ここ数年、現世や地上から離れまくって跳躍している斎藤工の来し方を部分的に振り返ってみる。

■悪だくみから奥様御用達へ

『チェイス〜国税査察官〜』(2010年・NHK)では資産家の息子で、巨額の脱税&遺産総取りを目論むも、腹違いの兄に人生を翻弄される役。美しくて悪くて、でもちょっとあさはかで脆い。最後は物悲しい結末を迎える青年を好演。井浦新(当時はARATA)の妖艶さが浮世離れしていた分、工は「業と情」に徹する弱くて脆い立ち位置だ。悪い工=悪だくみシリーズの幕開けだった。

 クズ兄と言えば『カラマーゾフの兄弟』(2013年・フジ)。強欲で俗悪な資産家(吉田鋼太郎)の長男役で、遊びほうけては儲け話に食いつき、借金まみれという“平成のクズニーニー”だった。ただ、この作品は声量ハンパねえ鋼太郎に加え、優秀な次男役が市原隼人、殺された父の事件を執拗に調べる刑事役が滝藤賢一と、強烈な印象を残すメンバーに囲まれていたため、残像は薄かった。

 ただし、目ざとい女性たちは悪だくみのポテンシャルを見逃さなかった。彼がもつミステリアスな色気は「ワケありの恋愛モノ」に有益だ、と。特に大御所の女性脚本家たちの作品で、悪だくみがエロだくみに転化した感もある。

『ガラスの家』(2013年・NHK・大石静脚本)では官僚の父(藤本隆宏)の後妻(井川遥)に思いを寄せる長男役。下世話な言い方で言えば「親子丼」ね。

■どんだけの女性が欲情したことか

 そして、世の妻たちの心に火をつけたのが『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(2014年・フジ・井上由美子脚本)だった。ヒロイン(上戸彩)に対する純真な恋心を募らせ、同じ研究畑で活躍する妻に対するコンプレックスから本気で不倫に走る高校教師役。ウブで飾らない理系男性・北野先生に、どんだけの女性が欲情したことか。もうこのあたりから、斎藤工と言えば必ず「セクシー」が付いて回るようになる。

 そして『運命に、似た恋』(2016年・NHK・北川悦吏子脚本)では、クリーニング屋で働くシングルマザー(原田知世)と恋に落ちる人気インテリアデザイナー役。

 といっても、ただのセレブイケメンではない。人の妻(山口紗弥加)とねんごろっつう「陰」を匂わせつつ、原田ともなにやら昔の縁と絆があるようで、という役どころ。容姿端麗の人生を堂々と謳歌すればいいものを、なんだかいつも女性たちの業に振り回されたり、利用されたり、体を目当てにされたりと忙しない。

『医師たちの恋愛事情』(2015年・フジ)では患者ファーストの真面目な外科医役だったが、淑女たち垂涎の胸きゅんシチュエーションをてんこ盛りに再現させられる。同じ外科医の石田ゆり子に恋をして、距離をどんどん縮めていくのだが、この接近戦は明らかに「工の巧みな性的利用」だった記憶がある。

 もちろん、正義感や優しさ、正しさに満ちた正統派の役もやっとる。『最上の命医』(2011年・テレ東)では清く正しい(しかも自身も病に侵される)天才小児外科医役だったし、『アキラとあきら』(2017年・WOWOW)では、貧乏で辛酸なめたほうのあきら役。父の営む零細工場が銀行の融資を断られ、閉鎖&一家離散の辛苦を背負うが、銀行員となって苦しむ人の救済に奔走する役。善行を積む工。

 清く正しく貧しくの路線で言えば、シモネタ時代劇映画『のみとり侍』(2018年)にも出演。のみとりとは要するに女性相手に春を売る男のこと。てっきり工ものみとりと思いきや。劇中でも「のみとりに向いているんだけどねえ」と風間杜夫に言われるのだが、貧乏長屋に暮らす浪人役だった。子供たちに勉強を教えるが、残飯を野良猫と争って破傷風になるっつう、清貧&うっかり浪人なのだ。

■漏れ出る「マイナー志向」

 そして異変が起き始める。もともとメジャー志向ではないことはうすうすわかっていた。工はWOWOWで板谷由夏と映画番組『映画工房』を長年やっているが、映画の趣味がマニアックで、感性の在りかが難しいというか目線が違うというか。

 決定的だったのは、野性爆弾のくっきーと組んだドキュメンタリー風ドラマ『MASKMEN』(2018年・テレ東)だ。工はなぜか覆面芸人「人印(ピットイン)」になる。くっきーはじめ、お笑いの人々から手厳しいダメ出しを喰らう様子が描かれた(ネタがほとんどシモネタだった)。

 世間が求める容姿端麗な欲情装置にうんざりし、イメージをぶっ壊したいのだなとも思わせた。ただし、ちょうど同時期に放送した『BG』(テレ朝)ではいわゆる正統派な役もやっていたので、完全なる逃避ではなく、バランスをとっていたように思う。

■「ふんどしイケメン雀士」「妊夫」を演じることも

 そして現在地。「謎多き」人物なり生き物を演じることが増えたのには、それなりの布石がある。阪本順治監督作、藤山直美主演の映画『団地』(2016年)では、礼儀正しいが日本語がおかしい、晴れた昼間に傘をさして歩く男の役。藤山直美と岸部一徳が演じる夫妻と懇意なのだが、実はこの星の生物ではない。膝を打った。

 また、映画『高台家の人々』(2016年)では人の心が読める三兄弟の長男役で、要するにテレパス、超能力者だった。

 浮世離れした感がしっくりいくのは、穏やかで低め安定の声がもたらすα波のせいなのか。一方、キレッキレの工もいる。『麻雀放浪記2020』(2019年)では、1945年から2020年にタイムスリップした主人公・哲。昭和の時代に命を賭したヒリヒリする勝負を経験してきたが、令和では賭け麻雀がご法度。

 不本意ながらも、学ランに手ぬぐい、下半身はふんどし姿でイケメン雀士として注目を集めてしまうが、昭和に戻るために奔走するというドタバタコメディだった。ふんどし姿にさせられるあたり、まだ「へそから下の人間模様」を託されている要素は大きいが、本人が解放感を楽しんでいるような印象も強い。

 ドラマでも、工は観たことのない役割を果たすようになった。『共演NG』(2020年・テレ東)では、ショーランナーなる人物として、テレビ業界と芸能界を引っ掻き回す役だった。視聴率のために話題性を優先し、共演NGな役者ばかりを集めたドラマを指揮する。出演といってもほぼほぼリモートね。

 また、『漂着者』(2021年・テレ朝)では、全裸で漂着した謎の男・ヘミングウェイを演じた。記憶喪失だが、予知能力があることが判明し、一躍「時の人」になる、という物語。

 きわめつけは、Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』だ。妊娠するのよ、工が。性別と科学の壁を一気に超えても、工なら「ありえる」「違和感なし」。

 人間であれば特殊な能力や才覚を発揮、人間じゃなくても人間に対する慈愛に満ちた謎の生き物。そんな立ち位置を確立してきた工が『シン・ウルトラマン』で適役だったというのも、ご理解いただけるはず。

■演じる世界を信じて守る

 役者だけでなく、映画監督として作品も作り続けている工。初めての長編映画は高橋一生を主演に迎えた『blank13』(2018年)。

 ギャンブルで借金まみれだった不甲斐ない父親が死ぬ。葬儀に参列した人々から、在りし日の父の姿を知る兄弟という物語。凡人の私はこの作品のよさが正直よくわからなかったが、数々の国際映画祭で受賞、秀作と評価された(私の目は節穴)。その後も、竹中直人や山田孝之と共同監督で『ゾッキ』(2021年)を撮り、来年には監督作品『スイート・マイホーム』(窪田正孝主演、神津凛子原作)も公開予定だ。

 彼の活動は「演じる」から「実験する」「作る」へと広がり、「守る」「育てる」にも発展している。映画館のない街の子供たちに映画を届ける移動映画館プロジェクト「シネマバード」を提案し、東日本大震災の被災地などを回った。ライフワークとして精力的に動いている。

 また、昨年には、井浦新や渡辺真起子とともに、俳優たちが全国の小規模映画館を支援する「ミニシアターパーク」を立ち上げた。252人の名優たちがミニシアターへの愛と応援のコメントを寄せた動画を公開したり、イベントにも積極的に出演している。

 彼が抱えている箱の中身はどんどん増えている。形にならないものや名前の分からないものも相変わらず多いが、そこに人々は惹きつけられるようになった。箱に何かを放り込んでいく人もいれば、箱の中身を品定めしている人もいる。それでも彼は淡々と説明を続けている。どうやら箱の底にあるのは「希望」のようだ。

(吉田 潮)

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