多摩の名品“おこじゅ”の行方と町田市県境問題の一考――亀和田武「テレビ健康診断」

多摩の名品“おこじゅ”の行方と町田市県境問題の一考――亀和田武「テレビ健康診断」

JR町田駅南口(写真は6/11放送より)

 たまには近場で起きたドメスティックな話題を。

 最寄り駅のすぐ近くにある和菓子屋が店じまいをした。廃業とあったから、この一店舗だけでなく、多摩地区を中心に展開する紀の国屋の全二三店舗が閉店に追い込まれたのか。

 そう、東京二三区の西側に広がる多摩地域の話だ。あんこの味が、品良く、庶民的。相国(しょうこく)最中は、あんこと求肥(ぎゅうひ)もちの相性が良く、一日に二万個も売れた。

 私のベストはおこじゅである。どら焼きと一緒くたにする人もいるが、皮のソフトな触感と黒糖の風味が舌と喉で蕩けていくときの快感といったら。これはやはり別物だ。一個が一四〇円の快楽の小宇宙だ。

 紀の国屋の廃業はネットで瞬時に広まった。悲報の見出しが躍り、閉店を嘆く声が数多く寄せられた。

 三浦祐太朗のツイートもあった。いつも通った南武線谷保駅前の店を見に行った、と。祐太朗君はおこじゅが大好物。私と同じだ。「本当に残念ですが、今まで変わらぬ味をありがとうございました。また、どうか、いつか」。家族みんなが好きで「三浦家のソウルフードでした」とも。

 多摩に住んで四〇年。私の舌に一番馴染んだのが、おこじゅだ。俺の三多摩は新選組と玉川上水、御岳渓谷、おこじゅで足りる。吉祥寺も昭和記念公園も無くたって生きていけるさ。

 感傷的になっていたら、『ブラタモリ』が町田市を取りあげた。題して“なぜ町田は神奈川県と間違えられるのか?”。さっき三多摩と書いた。昔は、北多摩郡、南多摩郡、西多摩郡とあり、一括して三多摩と呼んだ。だが北多摩、南多摩から町、村がなくなり郡は消えた。三多摩の呼称も廃れ多摩地区となる。

 町田は南多摩だ。瑛太と松田龍平が演じたご機嫌な快作『まほろ駅前番外地』の舞台である。地図を見ても、ズブリと不自然に神奈川県に食い込んでいる。

 なにしろJR町田駅南口の下りエスカレーターは東京都町田市だが、上りエスカレーターは神奈川県相模原市に属する。調べるうちにわかった。なんと三多摩は明治二六年まで神奈川県だったのだ。玉川上水の水を欲しがった東京府と、町田の自由民権運動を嫌った神奈川の思惑とが一致し、三多摩はそっくり東京に編入されたのだ。

 町田だけじゃない。西多摩は自由民権運動の頂点である五日市憲法を生んだ。五〇年代の砂川闘争では、米軍の立川基地拡張を阻止している。日野に生まれた土方歳三は薩長を相手に箱館五稜郭まで闘い抜いた。

 とらやなど高級店とは一味異なる個性的な和菓子が愛された紀の国屋も、三多摩ならではだ。朗報を最後に。多摩の住民たちと祐太朗君のツイートを見た企業が支援を決定、新ブランドが発足した。

INFORMATION

『ブラタモリ』
NHK総合 土 19:30〜
https://www.nhk.jp/p/buratamori/ts/D8K46WY9MZ/

(亀和田 武/週刊文春 2022年7月7日号)

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