「日本中の女子のお世話してます」“BL界の帝王”森川智之が語る、色気を感じさせる演技の意外なヒケツとは

「日本中の女子のお世話してます」“BL界の帝王”森川智之が語る、色気を感じさせる演技の意外なヒケツとは

「日本中の女子のお世話してます」“BL界の帝王”森川智之が語る、色気を感じさせる演技の意外なヒケツとはの画像

「日本語吹替版がもっとも素晴らしかった」と…トム・クルーズを演じ続けた森川智之が叶えた“念願の対面” から続く

『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし(2代目)をはじめ、『遊戯王』の城之内克也や『鬼滅の刃』の産屋敷耀哉など、数々の人気キャラクターを演じてきた声優・森川智之さん。

 ここでは、森川さんが声優という仕事の本質について語った一冊『 声優 声の職人 』より一部を抜粋。“BL界の帝王”と呼ばれるほどに数多く出演してきたBLCD、女性向けシチュエーションCDにまつわる森川さんの演技論を紹介する。(全2回の2回目/ 前編を読む )

◆◆◆

■BL界の「帝王」

 オーディオドラマには様々なジャンルのものがありますが、中でも男性同士の恋愛を描くBL(ボーイズラブ)作品には数多く出演してます。おかげでBL界の「帝王」という異名ももっているくらいです。

 BL作品はいまや女性を中心に幅広く受容されていて、限られた人たちだけが楽しむマニアックな趣味ではなくなっています。たとえば、僕も出演した『純情ロマンチカ』というアニメ作品は3期にわたって放送されていますし、その原作者である中村春菊さんの刊行作品は累計で1300万部をこえるほどの人気を誇っています。

 BLファンの裾野がここまで広がった要因の一つとして、BL小説・マンガを原作としたオーディオドラマがCD化されて販売され、人気を博したことがあると言われています。

 いまやBLのドラマCD(BLCD)は声優人気を支える一つのコンテンツですが、かつてはちがいました。出演したくないという声優がたくさんいたんです。あるいは芝居はするけれども名前を隠して出演するという声優もいました。

 その理由ははっきりしています。ボーイズラブというくらいですから、多くの作品に、男性同士でのセックス描写が存在するからです。それを原作通りにオーディオドラマ化するわけですから、男性声優同士で濡れ場を演じることが必要となります。

 でも僕は昔から、それこそボーイズラブという言葉が生まれる前に「やおい」と言われていた時代から、積極的に出演してきました。その頃は、CDではなくカセットテープでしたね。今はもうなくなってしまいましたが、ダイヤルQ2(NTTが提供していた有料音声サービス)もやっていました。

 なんといっても当時は、プロの声優が演じる場そのものが少なかったんです。だから、声優が活躍できる場が増えるのはいいことだと考えていましたから。数えたことはないですが、おそらく出演数は日本で一番多いのではないかと思います。また、インターネットのまとめサイトによると、僕がもっとも多くの男性声優の「初めて」を奪った声優になるそうです(笑)。

■セクシャルな演技は感情を開放できるかが勝負

 いまやBLCDは、これからという期待の新人声優にとって、ブレイクのチャンスをつかむための登竜門的な位置づけにまでなっています。アニメだと新人は一言、二言しかセリフがないという場合がほとんどですが、BLCDだと何ページにもわたって先輩と渡り合えますから。そこでファンに気に入られて仕事が増えていき、スターダムをのし上がっていくこともできます。

 同時に、先輩とがっつり演技で絡むことで、いろいろと学ぶこともあるだろうと思います。僕自身、先ほどオーディオドラマでは共演者を1ミリ、2ミリ突っつくという話をしましたが、これは教育的な意味もあるんです。そこで良い反応を示した若手には「こいつは売れるだろうな」と感心することもありますし、実際に売れっ子になった人もたくさんいます。

 男性同士でのセクシャルな演技を難易度が高そうと思う人もいるようですが、僕は難易度というより、役者としての感情の開放論の問題だなと思います。役者は自分の感情を開放できないと土俵にも上がれません。しどろもどろでかしこまってしまえば、ただセリフを音声化しただけでつまらないものになってしまいます。

 それでも度胸がある子だと、一つの作品を収録している間にも、何かのきっかけでガラッと変化することもあるんです。そういうときは「後半にエンジンがかかってきたので、前半をもう一度録り直そう」と提案しちゃいますね。

 ちなみに、色気を感じさせる演技をする秘訣は、色気を出そうとしないこと。セリフを自然に演じれば、色気が出るように台本が練られているんです。だから役者がやりすぎると、わざとらしく聞こえてしまい、むしろイヤな感じになってしまいがちです。これは水本完さんの教えに通じるものがありますね。

■ダミーヘッドによるバイノーラル録音

 BLCDの他には、女性向けシチュエーションCDというジャンルもあります。こちらは、攻め役と受け役という2人の声優で演じるBLCDとちがって、基本的には演じる声優は1人です。CDの聞き手に向けて語りかけるような特定のシチュエーション、たとえば女性に添い寝する男性といった場面を想定したストーリーを声優は演じるんです。

 このジャンルには、ダミーヘッドマイクを使ったバイノーラル録音というおもしろい手法があります。

 これは最新のステレオ録音方式の一つで、人間の頭部と耳の構造を真似して作られた模型(ダミーヘッド)を用いて録音する技術です。耳の部分にマイク機能が備わっていて、実際に人が音を耳にしているのとまったく同じ条件のもとで録音しようという仕組みになっています。これで録音した音をヘッドホンやイヤホンで聞くと、一つ一つの音が、あたかもその場にいるかのような臨場感で伝わってきます。

 ダミーヘッドマイクを使う場合、動きながらの収録になるんです。ダミーヘッドマイクを聞き手の耳だと想定して、このセリフは聞き手とどれくらい密着したところでしゃべっているのか、右からなのか左からなのか……前後左右・上下・距離感といったすべてが、声の聞こえ方に関わってきます。それによって、芝居を立体的にイメージできるので役者心をくすぐるものがあります。

 実際は、脚本の中身にあわせて台本で立ち位置が指定されているので、それを守りながら演じていくことになります。どう動くかを、声優が一から考えないといけないわけではありません。それでも動くことによって、気をつかわないといけないことが演技の細部にわたって増えますから、演じる身としては苦労が多い手法です。

 それにくわえて、ダミーヘッドマイクもまだまだ完璧なマイクではないんです。完璧なマイクという言い方も変かもしれませんが。繊細なマイクなので、耳もとでささやいたりすると自分の息がマイクにあたってノイズになってしまい、NGになるなどトラブルも多くあります。そのため、収録に時間がかかります。

■「日本中の女子のお世話してます」

 僕のツイッター(@moriax291)のプロフィールには「日本中の女子をお世話してます(笑)」とあります。これは「声優総選挙!3時間SP」(テレビ朝日、2017年放送)で第12位に選ばれた際に、乃木坂46の生駒里奈さんが「日本中の女の子が(森川さんの)お世話になっている」というコメントをしてくれたので、とっさに「日本中の女子のお世話してます」と返したことに由来しています。

 BLCDやシチュエーションCDなどを好む人の多くは女性です。女性は想像力がたくましいというか、音に対して敏感で、耳から入ってくる情報を頭の中で構築していく力がすごいと思うんです。すべて与えられるよりも、自分で想像して補いたい。だから女性向けと言われるオーディオドラマがたくさん作られるんでしょう。

 女性とちがって男性は全部与えてほしいんです。だから男性はあまりオーディオドラマのほうにはいきません。音だけではダメで、ビジュアル込みのものを好みます。現状の男性声優と女性声優の仕事のちがいも、そんなところからくる気がしています。

(森川 智之)

関連記事(外部サイト)