過去ワーストレベルの弱肩。それでも巨人・ウォーカーに怒りや失望を感じない理由

過去ワーストレベルの弱肩。それでも巨人・ウォーカーに怒りや失望を感じない理由

17日の広島戦、先制2点本塁打を放ちポランコとタッチをかわすウォーカー

「巨人のアダム・ウォーカー選手のスローイングをテーマに、コラムを書いていただけないでしょうか?」

『文春野球』の巨人監督を務める菊地選手から、そんなリクエストがLINEにて届いた。

 LINEのやり取りを終えるや、ウォーカーの投げる姿が脳内を駆け巡る。

 私が初めてウォーカーのキャッチボールを生目撃したのは4月中旬に甲子園球場でおこなわれた阪神対巨人戦だった。

■大学時代から指摘されていた送球難

 イニング間のキャッチボールをレフト外野席から見ていた。レフトを守るウォーカーはレフトファウルゾーン付近に位置する控え野手とキャッチボールをしていた。その距離、目視で約30メートル。しかし、ウォーカーが投げる山なりの軌道の球は、相手までノーバウンドで届くのがやっと。弱々しく、手前でバウンドしてしまうことも珍しくなかった。右上方への抜け球になり、投球が大きく逸れるシーンもあった。

 来日当初からウォーカーのキャッチボールはメディアをざわつかせていた。

「どこかケガをしているのではないか」

「もしかしてイップスなのか」

 そんな疑惑も生じたが、「仮にそうであればさすがに試合で使わないだろう。単に投げることが苦手なのだろう」と片付けられる形でペナントレース開幕を迎えていた。

 ウォーカーは昔からスローイングに難があったのだろうか。そう思い、インターネット検索してみたところ、大学時代のドラフト候補プレーヤーズプロフィールを見つけた。掲載年は2012年。守備面を評する項目では次のように書かれていた。

 

(大学の時点でそういう評価だったのか……。塁間程度のキャッチボールも怪しいし、ファーストを守るのも厳しかったということなのかな……)

 巨人入団後、中継に入るショートはウォーカーのスローイングを考慮し、通常よりも距離を詰めていた。それでも、返球がカットマンまでノーバウンドで届かないシーンが目立つ。地面に叩きつけてしまい、ゴロのような返球になってしまうこともあった。

■張本、松本、吉村……過去の例をしのぐウォーカー

 巨人ファンになって47年。その間、普通なら防げる進塁を相手チームに許してしまうレフトがいないわけではなかった。

 晩年を迎えていた巨人時代の張本勲の弱肩は子ども心に衝撃だった。もともと強くない肩が年齢と共に衰え、センターからレフトに回った晩年の松本匡史、左肩を痛めた影響でライトからレフトに回った87〜88年の吉村禎章もフリーパスに近い状態だった。しかしウォーカーのスローイングは自分が知る限り、過去ワーストレベルだった。

 だが、ウォーカーのスローイングにもどかしさを覚えることはあっても、怒りや失望、諦め、嘆きといった感情が湧くことは不思議となかった。素晴らしい身体能力とパワーを誇りながら、持っている力の一部しかボールに伝えられていない印象が常にあった。妻には「スローイングがひどいと言うわりに、ウォーカーに対してはやけに温かい目で見てるよね」と言われた。

「肩が弱いというよりは、力を指先に伝える術をまだ体で理解できていない野球初心者のような印象を受けるんだよなぁ……。ウォーカー本人も『米独立リーグではコーチ陣も揃っておらず、外野守備についてしっかりと教わったことがなかった』って言ってるらしい」

「そうなの!? 習ってないことはできなくても仕方ないし、責める気にもなれないよね」

「亀井善行外野守備走塁コーチが日々、マンツーマンでスローイングを指導してるんだけど、素直に根気よくひたむきに課題克服と向き合ってるらしい。そういう話を聞くと現状のスローイングを嘆くんじゃなく、ひたすら応援したくなるんだよな」

「きっと教わる喜びに溢れてるんだろうね……。野球素人の私でもここからうまくなる予感しかしないわ」

■子育ての感動を思い出す、たどたどしい歩み

 初めてウォーカーのキャッチボールを目撃してから約5週間後の5月下旬。スローイングの現在地を確かめたく、再び甲子園球場のレフトスタンドに陣取った。一選手のキャッチボール観戦が主目的で球場を訪れたのは初めてだった。

(え!? 上達してる! ワンバウンドしたり、抜けて逸れたりするボールがなくなってる! 山なりの軌道は相変わらずだけど、前に見た時よりはボールに力が伝わってる!)

 現在は社会人となった2人の息子を育てる過程で、この日と同じような感動を幾度も味わった気がした。

 1週間程度の出張を終え、家に帰ると「寝返りが打てるようになっていた」「ハイハイのスピードが上がっていた」「つかまり立ちができるようになっていた」「自力で数歩歩けるようになっていた」「しゃべれる単語が増えていた」「補助輪なしで自転車に乗れるようになっていた」「キャッチボールをしたら投げるボールが少し力強くなっていた」……。ささやかではあっても、確かな成長を実感する都度、湧き上がった懐かしさを覚える感動が体を包んだ。

 すぐ後ろに座っていた大学生と思しき阪神ファン2人組はウォーカーのキャッチボールを見て、

「なんやあの山なりのボール」

「プロの中で一番ひどいんちゃう?」

 などと話していた。

(相対評価で見ればそうなるだろうし、実力と結果がすべてのプロの世界はそうあるべきなのかもしれない。でもウォーカーのスローイングは絶対評価で見てあげたくなる……。こんなにもスローイング面で伸びしろを残しているプロ野球選手がほかにいるか?)

 そんなことを考えていた。

 約1か月後の6月28日、山形での中日戦。ウォーカーはレフト前ヒットで本塁突入を試みた二塁走者をノーバウンド返球で刺すことに成功した。捕球位置は浅く、軌道は山なりではあったが、春先の時点では想像し難い補殺劇だった。テレビ観戦していた私と妻は涙を流さんばかりに喜び合った。

「ちょっと泣いてしまった。それくらい嬉しかった」と明かした亀井コーチは次のようにコメントした。

「きれいな送球ではないですし、今の球だけ見たら『なんだあの球』って思うかもしれないですけど、最初から見てる僕からしたら、やっぱり感動もんやった。最初を見た人はわかると思う。これが成長なんだと。彼の努力の賜物です」

 原辰徳監督は言う。

「決して守備はうまいとは言えないけれど、本当に毎日毎日、亀井コーチと熱心に練習をしている。8月くらいにはさらにうまくなっていると思う」

 伸びしろだらけの努力家、アダム・ウォーカーから目が離せない。

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(服部 健太郎)

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