飯豊まりえの演技が光る! 朝ドラから深夜へ移って活躍――亀和田武「テレビ健康診断」

飯豊まりえの演技が光る! 朝ドラから深夜へ移って活躍――亀和田武「テレビ健康診断」

飯豊まりえ

 円安が続く日本経済と連動するように、朝ドラ『ちむどんどん』も低空飛行から脱けだせないままだ。

 問題は数字(視聴率)だけじゃない。唐突で場当たり的な展開に、観る側が呆れ離れていった。

 致命的なのは、共感できる登場人物が皆無に近いことだ。料理のプロを目指して沖縄から上京した比嘉暢子(黒島結菜)の頑張りも、勘違いの空振りだらけ。

 子どもの頃、東京から沖縄に短い間転校してきた青柳和彦(宮沢氷魚)に、暢子は淡い憧れを抱いた。

 その和彦くんに、暢子は東京でバッタリ再会する。あきさみよー。ご都合主義も極まれり。ありえん!

 和彦も、いまや大手紙、東洋新聞の気鋭の記者。同僚の大野愛(飯豊まりえ)が恋人だ。トラブル続きの問題児、暢子にも優しく接し、そっと労う愛に、視聴者は好印象を抱いた。

 ところが話は急転回。和彦と愛の結婚をいつにするか。和彦はその話を先に延ばす。暢子は二人の結婚話に動揺を隠せない。

 社会派記者の和彦も、自分の心はクールに抑制できず、暢子への想いを募らせる。暢子も満更でない。なのに和彦の暴走を許し、暢子への友情にも揺るぎのない愛に、視聴者からの称讃と励ましが急増した。

 断言しよう。この一か月の朝ドラで、唯一無二の好感度を誇っていたのが、飯豊まりえ扮する大野愛だった。彼女の健気さ、知性と優しさ、包容力が、駄目ドラマの唯一の希望だ。

 飯豊まりえ、絶好調である。木曜深夜『オクトー 〜感情捜査官 心野朱梨〜』が始まった。相手の目の色から感情を読みとる特殊能力をもつ神奈川県警東神奈川署の女性刑事を演じる。

 相棒役の風早涼(浅香航大)は警察庁から飛ばされてきた元・エリート。容疑者の少女(本田望結)を取り調べるとき、スケッチブックを開き二四色はあるパステルで、線を引く朱梨を見て風早は仰天する。

 取調べ室で、相手の目を見ながらパステルで線を引く飯豊の表情は、あくまでクールで、朝ドラとは異なる演技を見せる。しかし容疑者に向けられた眼差しには優しい気配がある。

 朱梨の父は警察官だったが、一五年前に両親は惨殺され、姉はいまだに感情を取り戻せない。朱梨の上司である雲川(山中崇)は、暇なときには心野家の殺傷事件を調べている。

 相棒の風早は、実は警察庁次長の平安衛(船越英一郎)と繋がっている。風早は情報を提供する。朱梨の特殊能力を利用するためか、雲川の意図を知るためか。一五年前の事件とも関係があるかもしれない。

 クールで穏やかな朱梨の顔に、一瞬ふと哀しみが広がる。その表情が絶妙だ。ノーマークのドラマだったが、飯豊まりえの演技力で見応え充分な佳作だ。

追記:原稿を書いた翌朝。劇中の和彦と愛は別れる。女性の社会進出と服の変遷に焦点を当てた記事が評価された愛は、デスク(山中崇)を介してパリ行きが決まる。飯豊まりえは朝から去るが、上司と共に深夜帯へ活躍の場を移す。

INFORMATION

『オクトー 〜感情捜査官 心野朱梨〜』
日本テレビ系 木 23:59〜
https://www.ytv.co.jp/8octo/

(亀和田 武/週刊文春 2022年7月28日号)

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