“ラーメン二郎系ルーキー”ソフトバンク・野村勇、何がそんなにすごいのか

“ラーメン二郎系ルーキー”ソフトバンク・野村勇、何がそんなにすごいのか

野村勇

 ルーキー野村勇がホークスの歴史を塗り替えようとしている。

 7月22日、京セラドームでのオリックス・バファローズ戦。3点を追う3回表無死一、三塁だった。左腕・宮城大弥の緩急のついたスライダーに上手く体を我慢して豪快にすくい上げた。「少し打球が上がり過ぎた」と心配したそうだが、打球は左翼スタンドに届く貴重な同点3ランとなった。この一発もあり、ホークスは7−5での接戦を勝利した。

 前日に続く2戦連続アーチ。これが今季8号だった。

 新人選手のシーズン8本塁打は1997年の井口忠仁(現・資仁、千葉ロッテマリーンズ監督)と並ぶ1989年の球団福岡移転後の最多記録だ。通算413発を誇るあの小久保裕紀・現二軍監督も1年目は6本塁打どまり。平成唯一の三冠王である松中信彦は1年目0発だった。現役スラッガーを見ても、松田宣浩のルーキーイヤーは3発のみ。柳田悠岐は本塁打どころか安打すら1本も放てなかった。

 また、ホークスの新人球団記録は1リーグ制時代だった1939年の鶴岡一人(のちに親分と呼ばれ名将にもなった)の10本塁打だ。じつに83年ぶりとなる記録はもう射程圏内だ。

■牧原二世が周東二世に変化した瞬間

 しかし、野村勇がこんな形で活躍するとは、シーズン当初に一体どれだけの人が予測できただろうか。

 身長175cm、体重80kgはプロ野球選手として決して大柄な部類ではない。ドラフト指名時の評判は「脚力魅力なオールラウンドプレーヤー」だった。守りはショートが中心だが、サードとセカンド、そして外野の経験もあった。「牧原大成二世」と例えるのが一番しっくりきた。

 そして、最初に脚光を浴びたのは魅力と言われた足の速さだった。あれは今季初の対外試合を前日に控えた2月21日のこと。藤本博史監督が囲み取材の中で何気なく発したひと言に報道陣が色めき立ったのだ。

「明日は代走で使うつもり。タイムを計ったら佐藤直樹より速かったからね。本多(雄一)コーチは『周東(佑京)より速いですよ』と言ってた。ただ、速いだけで盗塁はできないからね。適性を見極めたいね」

 周東より速い――あの13試合連続盗塁成功の“世界記録”を持つスペシャリストよりも速い? また、佐藤直樹も2020年にウエスタン・リーグで失敗0での盗塁王を獲得した選手だ。

 果たして迎えた翌日の埼玉西武ライオンズ戦、6回に代走で対外試合デビューを果たすと、続く打者・柳町達の2球目にスタートを切った。「スタートは悪かったけど、送球が逸れてくれて助かった」と苦笑い。いや、相手捕手を慌てさせるスピードこそが立派な武器だ。まだ終わらない。さらに海野隆司の打席の初球に、三盗もあっさり決めた。もちろんこの日が初見の相手投手だったが、完全にモーションを盗んでいた。

「三盗はサインでなくて自分の判断でした。ベンチでは『アウトになってもいい。思い切って行ってこい』と言われていたので、気持ちを整理して臨めました」

 牧原二世が周東二世に変化した瞬間だった。

 野村勇の俊足でもぎ取った1勝もあった。開幕一軍入りを果たして迎えた3月29日のロッテ戦だ。1−1の同点で突入した延長10回、中村晃がヒットで出塁すると、野村勇が代走で出場した。すぐさま二盗。そして1死三塁となり、野村勇は今宮健太の三ゴロの間にヘッドスライディングで本塁を陥れた。決して弱い打球ではなかったが、野村勇は超ロケットスタートで迷わず本塁へ駆け出し、スピードに乗ったまま頭から突っ込んだ(記録は野選)。その後、4月14日の同じくロッテ戦でも前進守備の内野も間に合わない本塁突進を見せた。“神走塁”の連発だった。

 俊足という大きな武器、そして堅実性の光る守備の魅力はもちろん兼ね備えたままだ。その中で気づけば、スラッガーというもう一つの長所を発揮し始めた。

■野村勇の体のどこから、そのような力が湧き出てくるのだろうか

 プロ1号本塁打は4月21日、京セラドームでのオリックス戦で記録した。出身は兵庫県。プロに入って初めての地元関西の遠征で嬉しい一発を放った。その3日後の同24日、今度も大仕事をやってのけた。札幌ドームでの北海道日本ハムファイターズ戦で3回に先制の2号2ラン、6回はダメ押しの3号ソロを左翼席に打ち込んだのだ。日本でも屈指の広さを誇る札幌ドームでの1試合2発は、真の長打力を兼ね備える打者でなければ成しえない離れ業だ。球団新人では小久保以来、28年ぶりの1試合2発でもあった。

 この日のヒーローインタビューでは「パワー、ありました」とルーキーらしく初々しい笑顔で応えた。野村勇の体のどこから、そのような力が湧き出てくるのだろうか。

 俊足自慢でいかにもアスリート然としているが、好きな食べ物は意外にも「ラーメン二郎」だ。拓殖大学時代にめじろ台店に通い詰めていたという。「そこの店舗には汁なしラーメンがあって、ニンニクアブラマシマシで食べていました」。入団発表時には、飼っている文鳥の散歩という珍しい趣味を披露し「ちゅんちゅん」と名付けていることも明かすといったエピソードが話題になったが、いやいやじつは豪傑な男ではないか。

 それはともかく、野村勇に打撃のこだわりを問うと、力強くこんな言葉を返してきた。

「当てに行ったら良さがなくなる。強く振れるところが自分の強みでもある。コーチの方々からも『当てにいかなくていい』『強く、持ち味を生かせ』と言われています」

 バットは目一杯長く持ち、力の限りのフルスイングでとらえに行く。一方でその代償として123打席で37三振(7月28日現在)を喫している。全打席の30%を占めており、柳田悠岐の22.7%や現在パ・リーグ本塁打王の山川穂高(西武)の22.4%と比べるとかなり高い数値だということが分かる。野村勇本人も「三振は一番ダメ」と分かっているが、今はフルスイングを全うするつもりだ。まだ1年目。短所を補うために長所を消す選択はするべきではない。

 7月29日から始まる球宴明けの後半戦。そして、今後続いていくプロ野球人生を、野村勇はどのように羽ばたいていくのだろうか。井口二世か小久保二世か、いや、唯一無二の野村勇という名前で勝負できるプレイヤーへとのし上がっていくはずだ。

 支配下で最も大きな背番号99をつけるルーキーへのコールは、「夢、期待マシマシ」である。

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(田尻 耕太郎)

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