圧倒的なコミュニケーション能力だが…カメレオン俳優・中村倫也(35)が明かしていた、過去の意外な「コンプレックス」

圧倒的なコミュニケーション能力だが…カメレオン俳優・中村倫也(35)が明かしていた、過去の意外な「コンプレックス」

中村倫也 ©?AFLO

 演技だけではなく、インタビューや舞台挨拶においても強く観客を惹きつけるタイプの俳優がいる。中村倫也はたぶん、日本の俳優の中でも指折りに、そうした場での言葉の力を持っているタイプだ。

■舞台あいさつで見せる、圧倒的なコミュニケーション能力

 演説のように論じ、名言を吐く、というタイプとは少し違う。あくまで飄々と軽妙に、ある時はまるで司会者のように他の俳優に話を回し観客を和ませながら、作品や役者についてさりげなく重要な言葉を残していく。

 公開初期の不振から一転して話題を呼び、異例のロングランを続けている映画『ハケンアニメ!』の舞台挨拶でも中村倫也は半ば冗談めかしながら、主演の吉岡里帆について「演技に対して執念を持っている、怨念のような執念」という言葉でその一面について語っていた。そしてそれは単なる無内容な「女優いじり」ではなく、吉岡里帆という誤解されがちな役者が抱える、隠された本質を的確に批評する言葉になっていた。

 コミュニケーションが上手い。まるで混雑したパーティー会場をすり抜けてカクテルを運ぶように、衝突を避けながら人の間合いに踏み込むことができる。舞台挨拶やインタビューでの中村倫也を見ていて、いつもそう思う。不意をつくように吉岡里帆の役者としての執念に触れ、本人がそれを笑っていなすとスッと引く、そうした繊細で柔軟な人と人の距離に対する直感のようなものは、中村倫也が作品の中で見せる変幻自在な演技にもどこか通じている。

 映画『ハケンアニメ!』のポスターは赤と青、中村倫也と吉岡里帆の対決構図で作られているが、実は作品のクレジットとしては吉岡里帆の単独主演である。映画の内容も、メインでカメラが追うのは吉岡里帆が演じる新人アニメ監督・斎藤瞳の苦闘であり、中村倫也が演じる王子千晴は挑戦を受けて立つディフェンディングチャンピオンの立場だ。

 だが、映画の中で王子千晴というキャラクターが放つ存在感は強烈である。天才肌で傲慢、場合によっては子どもアニメでキャラクターを殺すことも厭わず、名前通りの専制君主のように振る舞いながら、陰で苦しみ、不安に怯える弱さを隠している。

 映画に厚みを加え、観客、そして多くのクリエイターを惹きつけるロングランとなったのは、吉岡里帆のひたむきさと対をなすような、王子千晴の二面性を表現する中村倫也の演技の素晴らしさがあったからだと思う。

 公開当時の記事でよく紹介されたように、吉野耕平監督は『ハケンアニメ!』の前作、監督としてのデビュー作『水曜日が消えた』で中村倫也と仕事をともにしている。吉野監督にとって『水曜日が消えた』は初の長編作品としてかなり苦労した作品でもあり、その苦闘が『ハケンアニメ!』での新人監督・斎藤瞳の孤独と苦闘に重ねられてもいるのだが、一方の王子千晴のキャスティングも、「普段の中村倫也さんに近い」という吉野監督の指名で決定している。

「喧嘩をしたわけではありませんが、『俳優には俳優の生理がある』『意味がわからず演じることはできないので、何がしたいのかちゃんと説明してほしい』とストレートに言われたのを覚えています」と、俳優としての中村倫也は撮影の現場で時にはアイデアを出し、意見を言うこともあると、吉野監督が語っている。

 そうしたクリエイティブな面も含めて、王子千晴役に中村倫也がふさわしいと判断したのだろう。そして映画を見れば、その判断は的確だったと思うしかない。中村倫也が王子千晴をよく表現しているのはもちろんのこと、作品そのものが「中村倫也とはどのような俳優であり、どんな芝居ができるのか」という鮮烈な名刺代わりになっている。

■著書で明かしていた、意外なコンプレックス

 中村倫也のエッセイ『THEやんごとなき雑談』は2018年11月号から2020年11月号まで、コロナ以前とコロナ以後を跨ぐ形で『ダ・ヴィンチ』に連載された文章だ。その執筆への悩み、編集者との関係は『ハケンアニメ!』での王子千晴と女性プロデューサーとの関係性、演技にも生きたと中村倫也は語っている。

 そこに綴られているのは、インタビューや舞台挨拶で見せる彼の言葉と同じように、軽妙に洒脱に、時には自虐的に道化てみせながら、しかし本質的なことにさらりと触れていくスタイルの文章だ。

 俳優として思うように評価されず悩み、荒んでいた二十代の思い出。駆け出しの時代に記者会見でコメントを求められ、たった一言のコメントを思いつけずに立ち尽くした苦い記憶。今の中村倫也、カメレオン俳優として演技力を高く評価され、当意即妙のトークを返す彼からは想像しにくい過去の劣等感が隠さずにエッセイの中で語られている。だがそうした弱さや劣等感と才能の二面性、王子千晴役で見せた天才肌と泥臭い努力の対比は、役者としての彼を魅力的に見せている。

■有村架純とのコンビで「化学反応」か

 現在、TBSではドラマ『石子と羽男ーそんなことで訴えます?ー』が放送中だ。

 原作はなく、西田征史の脚本と『アンナチュラル』の塚原あゆ子演出によるオリジナル作品だが、そこで中村倫也が演じる弁護士、羽根岡佳男は、見たものを写真のように記憶する非凡な能力で司法試験に合格しながら、自分を型破りな天才弁護士として周囲に見せようとする弱さを抱えている。東大卒の堅物パラリーガル、有村架純演じる石田硝子との奇妙な二人三脚、バディストーリーが物語の軸になる。

『ハケンアニメ!』での王子千晴役の二面性にも通じるが、羽根岡佳男のようにクールな虚勢を張っている男が本質を突かれて狼狽する、あるいは軽薄に見えた青年がその奥にある真剣な情熱を見せる、そうした芝居が中村倫也は実に上手いのだ。オリジナル脚本ドラマは人気原作ドラマのように固定ファンを見込めない分最初は苦戦しがちだが、第1話と第2話を見る限り、有村架純と中村倫也が演じる主人公コンビの人物造形は実に魅力的に成功しているように見える。

 これまで、中村倫也は俳優としての長いキャリア、高く評価される演技力に比較して、主演俳優としての出演は比率として多くなかったように思う。

 朝ドラ『半分、青い。』で演じたマアくんこと朝井正人は、「朝ドラの影響は凄まじかった。信号待ちしていたら、70〜80歳のおじさんに『朝に出てるね』と声をかけられた」と本人が語るように、バイプレイヤーとしての知名度を一気に引き上げた。だが今、中村倫也は主演俳優としての第二ブレイクの時期を迎えているように見える。

 2020年以降『美食探偵 明智五郎』2021『珈琲いかがでしょう』そして2022『石子と羽男』。『ハケンアニメ!』は前述したように吉岡里帆主演、中村倫也は助演ではあるが、あの映画の王子千晴を見て、中村倫也を主演で起用したいと考える映画監督はさらに増えるだろう。

 実は演劇ジャンルでは、中村倫也は以前から多くの作品に主演している。2014年には『ヒストリーボーイズ』の主演で第22回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞している。

 筆者は、舞台公演を鑑賞することができなかったため、劇団☆新感線の 『狐晴明九尾狩』を映画館で映像上映する「ゲキ×シネ」を観覧したのだが、映画やドラマの柔らかな演技とはまた違う、よく通る声とキレのある動きで見事な舞台の演技を見せていた。有村架純が『石子と羽男』の前宣伝番組で語ったように、いくつもの豊かな引き出しを持つ俳優なのだ。

 しなやかに人の心に踏み込むような中村倫也の演技を見ていると、彼とは親子ほど歳の離れた名優、火野正平の芝居を思い出すことがある。ナチュラルでリアルに、それでいて自由なその演技のスタイルは、『新・必殺仕置人』など時代劇から現代劇に至るまで、多くのファンを魅了した。バイプレイヤーから主演俳優へとまたひとつ変化の時期を迎える中村倫也という俳優は、この先も長く日本の映画、ドラマ、演劇を支える役者になってくれるかもしれない。

(CDB)

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