最終話で人がつながり、物語がつながる…特別にはなれない“普通”の人々の苦悩を描いた連作短編集

最終話で人がつながり、物語がつながる…特別にはなれない“普通”の人々の苦悩を描いた連作短編集

『空をこえて七星(ななせ)のかなた』(加納朋子 著)集英社

 1週間の曜日をタイトルにした連作短編集『月曜日の水玉模様』、虹をモチーフにした『レインレイン・ボウ』、小学校のPTAが舞台の『七人の敵がいる』『我ら荒野の七重奏(セプテット)』など加納朋子には〈七〉にまつわる作品がいくつかある。そのラインナップに、今度は北斗七星が加わった。

 父と娘で石垣島ツアーに出かける「南の十字に会いに行く」で始まり、同級生に一生背負っていくケガをさせられた子どもの他罰感情と保身を描いた「星は、すばる」、高校の弱小文化部と生徒会のスーパー副会長がタッグを組んで共通の敵を排除する「箱庭に降る星は」、アパートに越してきた絶世の美女を巡るドタバタを描く「木星荘のヴィーナス」、事故にあった宇宙船からコールドスリープの状態で脱出したと思しき少年の「孤舟よ星の海を征け」、有名人の親に振り回される子どもの葛藤がテーマの「星の子」。

 最後の一編は後にまわすとして、まず、一作ごとに趣向を変えたバラエティ豊かなラインナップに驚かされた。

 童話っぽいもの、児童文学風味、ライトノベルの味わい。コミカルな話から深刻な話、親子の話に恋愛の話などなど、実に多彩だ。そのすべてに、思いがけない展開やあざやかな逆転が仕込まれ、心あたたまるミステリとしても実に上質なのだ。特に子どもの心理を書かせると、加納朋子は抜群に上手い。

 ただ、星にからめて物語が展開するという共通項こそあれ、この多彩さゆえにばらばらの短編の寄せ集めに見えるかもしれない。

 しかし、そうではない。読み進めるうちに気づくはずだ。収録作はいずれも、身近に星のように輝く特別な人物がいて、そうはなれない〈普通〉の人々の苦悩を描いているのである。

 そんな人たちに加納朋子は決して「がんばれ」とは言わない。辛ければ離れていいのだと、戦って心をすり減らすより自分のままで輝けることのほうが大切なのだと、そっと肩を抱いてくれる。そんな優しさに満ちた短編集なのだ。

 ばらばらに見える各編は北斗七星を構成する七つの星だ。それぞれ別々の星がつながってひとつの星座になる。北極星という唯一無二の星の周囲を回る北斗七星は、自らが北極星になることはなくても、七つの星がつながることで他のどの星座にも負けない豊かな物語を湛えるのである。

 それがわかるのが、すべての話の後日談であり未来への旅立ちの物語でもある最終話「リフトオフ」だ。星がつながるように人がつながり、物語がつながる。なぜ星なのか、なぜ北斗七星なのかが、最後の一編で明らかになる。実に見事。

 他者と自分を比べて劣等感を抱いたり、何者かにならねばと焦ったりしている人に、ぜひお読みいただきたい。乾いた心に沁み込む連作短編集である。

かのうともこ/1966年、福岡県生まれ。92年「ななつのこ」で鮎川哲也賞を受賞し作家デビュー。95年「ガラスの麒麟」で日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を受賞。著書に『二百十番館にようこそ』『無菌病棟より愛をこめて』など。
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おおやひろこ/1964年生まれ。書評家。著書に『読み出したら止まらない! 女子ミステリー マストリード100』など。

(大矢 博子/週刊文春 2022年8月4日号)

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