ようやくオリックスにやってきた“大阪桐蔭出身ルーキー”池田陵真に期待せずにいられない理由

ようやくオリックスにやってきた“大阪桐蔭出身ルーキー”池田陵真に期待せずにいられない理由

池田陵真

 去年の今頃は東京五輪の終盤戦。ペナントレースはまだ中断中だった。その感覚が残っているのか、8月前半にして残り40試合と聞くと随分早い進行に思え、落ち着かない気分になる。

 7月23日からの5連勝でオリックスの貯金が一時、今季最多の4となり、8月2日からはゲーム差1に迫った西武との首位攻防3連戦を戦った。ここで一気に奪首となれば、僕の53回目の誕生日だった8月2日も、今季の命運を分けた1日!と記憶に残ったかもしれなかったが、娘セレクトの700円シャンパンを飲みながらテレビで見た初戦は山本で負け。この10日前、京セラで生観戦し連勝スタートとなったソフトバンク戦は8回4安打無失点。この夜も勝つイメージしかわかなかったが、リードしてつないだ救援陣が踏ん張れず逆転負け。何事も思い通りにはいかないものだ。

 それでも、残り2つを取れば……と気持ちを入れ直した2戦目は森に1カ月ぶりとなる一発、さらにもう一発を浴び、競り負け。せめて1つは勝っておきたい、と向かった3戦目は中村のサヨナラ弾を含む2発で3連敗。眠れる2人の主砲を起こしてしまい、西武とのゲーム差は4に。ただ、オリックスファンにすれば憎々しい2人にやられた、の思いだろうが、僕の中にはこう書くと読者に怒られそうだが、この2人なら……の気分が残った。

■中村、森、中田…大阪桐蔭のスラッガーとオリックスの縁のなさ

 2人にはアマチュア時代から関りがあった。共に大阪桐蔭出身で、中村は僕が脱サラ後、ライターとなり、初めて個別に取材したアマチュア選手。21年も前のことだ。正確にはドラフト博士として知られるライター小関順二氏の取材に同行させてもらったのだが、高校通算83本塁打。ナニワのカブレラとも評されていた中村本人とも話ができ、豪快な打撃の一方で醸し出してきたシャイな空気の中、オリックスに来てほしい、と心の中で願ったものだった。しかし、ドラフトの結果は2位指名で西武入り。

 森とはライター業にもすっかり慣れ、大阪桐蔭に詰めて通うようになっていた中で、度々話を聞いた。細かなことにこだわらない本人の性格もあり毎回ざっくばらんな雑談も交え、大いに楽しんだ。また、森は小学校の時に学童野球の代表選手たちが競う12球団ジュニアトーナメント大会でオリックスジュニアの一員として戦った経験も持ち、生まれ育ちも中村同様に大阪。ドラフトが近づく中でそれとなくオリックスの話題を出すと、球団にこだわりがなかった森は「オリックスですか? 全然いいっす。大阪ドームは打てそうなイメージです」と明るく語っていた。これまで約20年、アマチュア選手を取材し、打つことに関しては、高校生打者として間違いなく僕の中のナンバーワン評価。公式戦出場を始めた高校1年の秋から常に打ち、崩れた形での凡打は皆無。プロでも捕手をやめれば数年で三冠王を獲れる、と何度か記事の中で書いたものだった。

 頼む、獲ってくれ!とドラフト前から気合を入れて願った。しかし、結果は西武単独による1位指名。当時捕手を欲し、獲得していれば前年の藤浪との甲子園連覇バッテリーで人気沸騰間違いなしだったはずの阪神と、同じく捕手を欲し、大阪色を強めたかったはずのオリックス。それぞれ思惑はあったとは言え、ドラフト史に残るバッティングを誇る地元スラッガーをなぜ、1位で獲りにいかなかったのか。両球団の“低評価”が僕にはどうにも納得できなかった。

 プロ入り前から縁があり、その後も活躍を気にしてきた2人が近年、不振続き。今年は故障もあった森は3日の一発が1カ月ぶりで今季のホームランはまだ4本、打率も2割5分台。中村も4日が2カ月半ぶりの一発を含む連発でようやく6本。大いに苦しんでおり、常々、頑張れ、の思いがあった中での久しぶりの大暴れだったというわけだ。

 それにしても――。僕もこれまで最も多く通ってきた高校である大阪桐蔭からはその間、中村、西岡、平田、辻内、中田、浅村、藤浪、森、根尾、藤原……。幾多のスラッガー、剛腕たちが巣立っていったがこれらの面々とオリックスは見事なまでに縁がなかった。中田、藤浪は1位指名も抽選外れ。辻内は巨人と競合の末、くじを引き当てた!と思ったら当時の中村GMが当確印を見間違えてのぬか喜び。

 中田の時にもこんなことがあった。ドラフトが近くなり、本人と話していると「オリックスにいく夢を見たんです」と真面目な顔で言ってきた。当時の中田はこの前年に巨人からオリックスへ移籍してきた清原への憧れを強く持っていた。清原の現役生活は晩年に入っていたが、少しでも一緒にプレーをしたい……、そんな思いを感じる夢の話だった。

 中田については高校1年時から取材を重ね、2年の夏後からは雑誌「野球小僧」での定期連載も含め密着。大人と普通に会話が出来るタイプで毎回取材が楽しく、こちらの思い入れも深まっていった。オリックス入りとなれば履正社時代から僕が追いかけ、2年前にオリックスへ入団していた岡田との“ON砲”の誕生。そんな楽しみも広がっていた。ドラフト前夜には知り合いがやっていた飲み屋で濃紺、赤、黄のオリックスカラーが映えるカクテル「中田スペシャル」も作ってもらい、複数球団の重複が予想されていた1位指名での抽選的中を願った。しかしここでも願いは叶わず……。

■誰もが完璧に認めるザ・キャプテンだった池田陵真

 西武に3連敗を喫することになる4日の午後。ファームのソフトバンク戦(タマスタ筑後)を雑用を片付けながらBS放送で見た。ここで目を引いたのがオリックスの「元大阪桐蔭」、ルーキーの池田陵真だった。5月には佐々木朗希からヒットを放ち1軍でも話題になったのち、5月16日に降格。

 ファームではここまで73試合の出場で規定打席に達し打率.238、3本塁打、18打点。ライト来田、センター元と実に楽しみが詰まった面々と外野を守り、しっかり経験を積んでいる。杉本商事BSスタジアム舞洲や鳴尾浜で観戦した際も、1年目と思えない雰囲気でプレーし、打席ではしばしばバットが空を切ってもプロのストレートの速さ、強さに負けてないフルスイング。さすが大阪桐蔭の元4番の迫力を伝えていた。高校3年時、あまりの二の腕の太さに思わず、カブレラみたいやな、と言ったことがあったが、当時はその腕で金属バットを持っていたのだから打球は危険を感じるほど強烈。ショートゴロに相手野手のグラブが押されヒットになる場面を3年間で3度見た。三塁手ではなくショートの選手のグラブが押されるのだから、強さの程がわかるだろう。

 大阪生まれの大阪育ちで森と同じオリックスジュニア出身。地面にたたきつけるようにして伸びる外野からの返球も含め、池田は多くのものを持っている。その最たるものは、日本一が宿命づけられた集団の中でひたすら野球に打ち込み、チームを束ねながら培われたキャプテンシーであり、勝利への執念だ。中村、西岡、平田、中田、浅村、森、藤原、根尾の中で、主将を務めたのは森のみ。それも森は下級生の時に1番捕手として春夏連覇を経験。抜けた実力と経験があっての主将でもあったが池田の場合は野球への取り組み、生活面、すべてにおいての姿勢を評価され、選手、指導者の誰もが完璧に認めるザ・キャプテンだった。

「やめろというまでバットを振っている」。「3年夏の甲子園で負けて帰ってきたらウエートをやっていた」。この種のエピソードが大阪桐蔭時代の池田の周辺からはいくつも聞こえて来る。まさに姿で見せ、背中でチームを引っ張った。今はプロであっても強いチームには揺るぎない姿勢で野球と向き合うキャプテンがいる。池田はリーダーとして例えば、村上にも通じる資質を備えていると見る。その意味でもオリックスの大きな希望である。そこへもう1つ。

■追い込まれれば追い込まれる程、力を発揮する男のはず

 無類のキャプテンシーを秘める18歳は無類の勝負強さも秘める。1年前の夏、大阪大会準決勝(関大北陽)で1点ビハインドの9回表に起死回生の同点弾。高校野球の世界では滅多に見れない土壇場での一発には、直後、大阪桐蔭のコーチ陣らと顔を見合わせてもお互い「さすが池田……」としか言葉が出なかった。さらに決勝の興国戦では9回二死からレフト前へサヨナラヒットでチームは甲子園出場。まさに土壇場で決める勝負強さを続け様に見せられ、僕の中でまだ少し迷いのあった池田への評価がこの時はっきり定まった。間違いなくプロで働く選手になる、と。

 テレビ観戦のソフトバンク戦でも8月下旬に19歳となるルーキーはしっかりと振っていた。1、2打席目はスチュワートの150キロ超えの高めストレートに空振りが続き2三振も、3打席目には板東から逆方向へ返し、ライトフェンス直撃のツーベース。4打席目には一転、左腕田浦から痛烈に引っ張り、三塁手リチャードのグラブを跳ねのけるレフト前ヒット。まさに高校時代を思い出させる強烈な打球で4打数2安打。

 順調な成長ぶりを目にすると、ふと頭によぎってくるものがあった。混戦模様のペナントレース終盤戦にこのルーキーが大仕事をやってのけるのではないか、という、ある意味では途方もない予感だ。もつれあったまま進み、残り数試合。負けの許されない局面でこの男の磨き抜かれてきたメンタル、ひと振りが勝利を呼び込むのではないか。18歳のルーキーになんと過酷な期待を……と言われるのは承知の上。しかし、追い込まれれば追い込まれる程、力を発揮するのがおそらく池田陵真という男のはず。元大阪桐蔭のキャプテン、そして4番の底力を知らされる、そんな秋との出会いを密かに楽しみにしておきたい。

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(谷上 史朗)

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