「法人化したら万事解決、というわけではないらしいです」漫画家・服部昇大が『恋はインボイス』を描いたワケ

「法人化したら万事解決、というわけではないらしいです」漫画家・服部昇大が『恋はインボイス』を描いたワケ

©服部昇大/ホーム社

『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(ホーム社)を連載中の漫画家・服部昇大さんによる「インボイス制度」を解説したラブコメマンガ『 恋はインボイス 』が大きな反響を呼んでいます。

 インボイス制度とは、2023年10月から始まる「適格請求書」制度のこと。これまで原則、納税が免除されていた、年間売上高1000万円以下の事業者にも消費税の納入が課されるようになり、フリーランスや個人事業主の間で、制度導入に賛否両論が巻き起こっています。作者の服部さんに、お話を聞きました。(全2回の1回目/ 後編 に続く )

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──なぜ、一般のサラリーマンや企業にとってはあまり馴染みのないインボイスをテーマにしようと思ったのですか?

服部昇大さん(以下、服部) 「COMIC OGYAAA!!」という新しいコミックサイトオープン記念として、お祭り感のある作品を描いてほしいと頼まれたときに、ちょうど自分のまわりのフリーランスや小規模事業者の間で「インボイス」が盛りあがっていたからです。これはマンガにできるかも、とテーマに選びました。

──編集部の反応はいかがでしたか?

服部 はじめは、担当編集さんから「かなり読者を選ぶ内容になりそうですね……」みたいな塩対応をされました(苦笑)。世間のサラリーマンとフリーランスとの温度差を感じましたね。

 でも、絶対に関心のある人はいるはずだし、制度が始まるといわれてもまだ他人事のように感じている人も多いので、具体的に何をどうすればいいのかをマンガでわかりやすく説明できたら、たくさんの人から反響があるのではないかと強くアピールして、描かせていただくことになりました。

■「個人事業主BtoBギャグ」とは?

──扉に「個人事業主BtoBギャグ」と描かれていますよね。これはどういう意図があるのですか?

服部 あれは、あおり文句です(笑)。世の中でインボイスに興味を持つ層って絶対的マイノリティで、最初に提案したときの担当編集さんの反応がおそらく一般的なんですよ。でもあえて「これ、業界向けだから」みたいな一文を入れたら、逆に面白いかもと、狙って入れてみました。

──結果的にはTwitterで5.4万いいね、2.1万リツイートのバズ投稿となり、インボイスの周知にも、「COMIC OGYAAA!!」の認知向上にも大きく貢献されたので、狙いは成功しましたね。

服部 ありがとうございます。担当さんにも「編集部の読みが甘く、大変失礼しました」と言っていただきました(笑)。

──インボイス制度に関しても「すごいわかりやすい」「理解できました」と感謝のコメントが、Twitter投稿にたくさん寄せられています。ここまでわかりやすく解説マンガを描くためには、服部さんご自身も制度について、かなり勉強されたのでは。

服部 日頃仕事でお世話になっている税理士の先生にお聞きしたり、税理士サイトで調べたりはしました。でも、もともと商業高校出身なので数字には強いのかもしれません。簿記関連の授業も受けたので貸借対照表も書けますし、税務関係の専門用語もある程度ならわかるので、何も知らない人よりはハードルが低かったかもしれません。

■難しいことをわかりやすく

──専門知識があると、逆に専門的になりすぎる場合もあります。そうならないために、どのようなことを意識されましたか?

服部 インボイスは消費税に関する請求書や納品書が新しくなる制度です。制度を理解するためには法律の知識も必要ですが、「法律」も「税金」もと欲張ってマンガに入れてくと、それこそワケがわからなくなります。

 でもみんなが本当に知りたいことって、実はそんな難しいことではなく、「制度が始まるとなぜフリーランスは不利になると思われているのか」「制度開始までに、何をしなくてはいけないのか」というところだと思うんですよね。なので、制度のしくみをわかりやすく解説することと、そのために準備すべきことは何かを具体的に描くよう、心がけました。

──「難しいことをわかりやすく」と言うのは簡単ですが、実際にやろうと思うと、なかなか大変ですよね……。

服部 そうですね。でも、一昨年Twitterで公開した『副業魔法少女』というマンガも、社会問題をテーマにしたギャグマンガだったので、同じようにできるんじゃないかという自信みたいなものはありました。

 コロナ禍で多様な働き方が見直され、副業も認められるようになってきたなかで、「副業×魔法少女×ヤンキー」という組み合わせで描いたマンガが結構反響があったんです。だから、今回もとにかく「ギャグマンガ」として描くことを意識しました。

■ギャグマンガに時事ネタを入れる理由

 ──がくぶんが実施するボールペン習字通信講座の広告マンガ『日ペンの美子ちゃん』も描かれていますが、時事問題を絡めたエピソードが多いですよね。これも「ギャグマンガ」であることを意識していますか?

服部 はい、あれも基本的にギャグマンガです。ただ、『日ペンの美子ちゃん』の場合は、毎週更新しているので、時事ニュースを入れないとネタが尽きてしまうという理由で、時事ネタが多くなっています(笑)。

 ここ数年は、新型コロナウイルス関連のニュースばかりで、明るい話題が少ないですよね。それに、気候変動による自然災害や、ロシアのウクライナ侵攻、政治関連の話題など、笑いにはしづらいニュースも多く起こっています。ギャグマンガ家としては、そんな世の中でも読んでくださった方が少しでも明るい気持ちになり、笑顔になれる作品を描けたらいいなと思っています。

──『恋はインボイス』でもあくまで「笑い」を大事にされているのがわかります。

服部 僕がこの作品を描いた目的は、インボイス制度が大体どういうものか知ってほしいということと、それを真面目に描いても仕方ないのでちょっと笑ってほしいということですね。もちろん、制度への賛否は読者各々であっていいと思います。

 あえて70〜80年代の少女マンガ風なタイトルをつけたのも、笑ってほしかったからです。スクリーントーンの使い方なども、少女マンガをかなり意識しているので、よかったらぜひ見てください。

■「法人化したら万事解決」ではない?

──『恋はインボイス』は、いかにも続編があるような終わり方も印象的でした。「続編が気になる」「ぜひ続きを描いてください」というリプライもかなり多くありましたが、いつか続編を描く予定はあるのでしょうか。

服部 ありませんね。最後のページにも「つづく」ではなく「つづかない」と描きました(笑)。そもそも、あのオチは税務ジョークのつもりなんですよ。

 女子高生個人事業主の主人公・業合花(なりあいはな)に、ライバルの事浦計士(ことうらけいじ)が「2人で一緒に…法人化しねーか?」と誘いかける場面で終わっていますけど、あの描き方だと、法人化したらインボイス問題が解決しそうに見えますよね。でも実は法人化したら万事解決、というわけではないらしいです。

 インボイス発行(「適格請求書」を発行できる)事業者になれるのは、消費税を納めている課税事業者だけで、法人化してもその制度は変わりません。法人化して最初の2年間は消費税の納税が免除される特別ルールもありますが、免除されている間はインボイスが発行できないため「事業者から選ばれなくなるかもしれない」という不安は払拭されず、インボイス発行事業者になるかどうかの選択をしなくてはいけないので「解決」にはならない、という話を聞きました。あくまでギャグマンガなので、そのあたりはジョーク気味にまとめてます。

──そうだったんですね。続編、読みたかったです。

服部 続編はありませんが、この作品を発表したあと、企業や税理関係の方からも「この作品を研修で使わせてほしい」「続編や書籍化の予定はないのか」とお問い合わせを多くいただいたので、「BtoBギャグマンガ」は今後も描くかもしれません。

 社会的に分かりづらい制度や利用しづらい仕組みをマンガ解説するニーズがあれば、ぜひご依頼ください(笑)。

(監修:脇田弥輝税理士)

「いまは『笑い』だけでギャグ漫画は読んでもらえない」 『邦キチ! 映子さん』作者が“社会派ギャグ”を描く理由 へ続く

(相澤 洋美)

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