マウンドでもお立ち台でも炎上を回避する“常識破りの常識人”巨人・戸郷翔征の魅力

マウンドでもお立ち台でも炎上を回避する“常識破りの常識人”巨人・戸郷翔征の魅力

自己最多の10勝目をあげた戸郷翔征

 もしこの選手がいなかったら、今年はどうなっていたんだろう……。

 想像するだけで、背筋が寒くなります。一時5位まで沈んだジャイアンツですが、今季はプロ初勝利を挙げた投手が7人(球団新記録)も出現。新戦力が台頭したともいえますし、計算していた戦力が機能しなかった裏返しともいえます。

 そんななか、チームトップの10勝をマークする戸郷翔征投手は、なんと頼りになる存在なのでしょうか。一昨年、昨年は9勝と惜しくも2ケタ勝利に到達できませんでしたが、今季は壁を越えた感があります。

 考えてみれば戸郷投手は高卒4年目の22歳で、大学生なら4年生になる年齢。その若さで、すでにプロ4年間で29勝もマークしているのですから驚きです。

■マダムの「戸郷認知度」は10%くらい?

 これだけの実績を残しているにもかかわらず、戸郷投手はまだ野球ファンの間でしか認知されていないように感じます。純烈ライブに来てくださるマダムにアンケートを取ったとしても、戸郷投手を知っている人は10パーセントくらいでしょう。

 もっともっと多くの人に戸郷投手の魅力を知ってもらいたい。そう願わずにはいられません。これほど巨人の常識を覆してきた投手は珍しいのですから。

 巨人の歴代先発投手を見ると、ある共通点に気がつきます。それは圧倒的に「ドラフト1位」が多いことです。堀内恒夫さん、江川卓さん、槙原寛己さん、斎藤雅樹さん、桑田真澄さん、上原浩治さん、高橋尚成さん、内海哲也投手(現西武)、菅野智之投手……などなど。逆指名(希望入団枠)での入団を含め、エース格になった投手は「これでもか!」とドラフト1位のエリートです(江川さんは正確には阪神のドラフト1位なのですが、ご了承ください)。

 一方、戸郷投手は2018年のドラフト6位。巨人が同年に支配下選手として獲得した新人6人のなかで最下位の指名でした。

 下位指名の投手で3年以上も先発ローテーションを守った投手と言えば、東野峻さん(2004年ドラフト7位)までさかのぼらなければなりません。レジェンド級に活躍した投手であれば、1974年ドラフト外入団ながら165勝を挙げた西本聖さんくらい。

 東野さんは原辰徳監督から禁煙を勧められた逸話があったように、ワイルドなイメージ。西本さんは1学年上の江川さんに強烈なライバル意識を燃やしたと聞きます。でも、戸郷投手の涼しげな表情からは、下位指名選手特有の無骨さやヤンチャさは感じられません。

 僕自身、戸郷投手と物理的に接近した印象的な出来事がありました。

 今から3年前、仕事で大阪に行っていた僕は東京に帰るため、新幹線に乗っていました。すると、名古屋駅で大柄の3人組が乗り込んできたのです。巨人ファンの僕はすぐにピンときました。ナゴヤドーム(現バンテリンドーム)での登板がなく、先に上がった巨人の投手たちだと。

 高橋優貴投手と桜井俊貴投手は顔を見て、すぐにわかりました。二人ともドラフト1位指名を受けたホープですから、ファンとして声をかけたい欲求にかられました。でも、いくらファンあってのエンタメ業とはいえ、移動中は数少ないリラックスタイム。「すみません、ジャイアンツファンなんです」と僕が話しかけることで、選手が明日に疲れを残してしまう可能性だってある。1席前の桜井投手の背中越しに悶々としているうちに、新幹線は東京に到着しました。

 ところで、高橋投手と桜井投手の存在はわかったものの、もう一人の存在がわかりません。面長であどけない顔立ちに、ひょろりと細身なスタイル。その場では「付き添いのマネージャーさんだろう」と結論付けました。

 ところがその年の秋、勝てばリーグ優勝が決まるという大事な一戦で僕は仰天しました。すっかりマネージャーと思い込んでいた若者が、巨人の先発投手としてマウンドに立っていたからです。当時高卒ルーキーでプロ初登板だった戸郷投手でした。

 身長187センチ、体重80キロと立派な体格を誇る戸郷投手ですが、あまりの素朴な雰囲気にアスリートの匂いが香ってこなかったのです。

■「噛ませ犬」なのにエリートに全力で?みつく

 その日、戸郷投手には勝ち星はつきませんでしたが、6日後には阿部慎之助さんの引退試合で戸郷投手にプロ初勝利が転がりこみます。優勝決定試合でプロ初登板、偉大な選手の引退試合でプロ初勝利。戸郷投手がいかに「持ってる選手」か、伝わってきます。ここぞの試合で登場するのは、スターの宿命です。

 そもそも、戸郷投手はプロ入りの過程にも「持ってる」エピソードがあります。2018年の侍ジャパンU-18高校日本代表は、甲子園のスターである根尾昂選手(中日)、藤原恭大選手(ロッテ)、小園海斗選手(広島)、吉田輝星投手(日本ハム)といった逸材が名を連ねるドリームチームでした。

 その代表の壮行試合で対戦した宮崎県選抜に、戸郷投手は入っていました。ドラフト1位候補を向こうに回し、戸郷投手は5回1/3を投げ9奪三振の快投を披露します。失礼ながら、宮崎県選抜の役回りは「噛ませ犬」に近いものがあったはずです。日本代表にほどよく活躍してもらって、気持ちよく国際大会に出てもらおう。……そんなぬるい予定調和を戸郷投手はぶち壊してくれました。

 僕はすごい選手ほど「空気を読まない」と考えています。佐々木朗希投手(ロッテ)など、NPB28年ぶりの完全試合を達成しながら、翌週の登板で8回までパーフェクト投球。完全試合の“非日常感”を“日常”にしてみせました。大谷翔平選手(エンゼルス)だって、104年ぶりの2ケタ勝利&2ケタ本塁打をクリアしましたが、「今までの歴史は何だったの?」と思わせる快挙を次々と成し遂げています。

 そう、つまり超一流の選手は「空気を読まない」というよりは、「常識をぶち壊す」存在なのでしょう。僕は戸郷選手にもそんな素養が備わっていると感じます。

 変則的なフォームから「すぐに壊れる」と評された時期もありました。おそらく野球人生のなかで「投げ方を直したほうがいい」と何度も言われたはずです。それでも、戸郷投手は自分の投げやすいフォームにこだわり、結果を残し続けています。その意味でも常識を打ち破ろうとしています。

 そんな常識破りな選手が、インタビューの受け答えはずば抜けて常識的というのも皮肉なものです。20代前半の天真爛漫さとは無縁の、自分の脳内で冷静に考えをまとめて話せるクレバーさ。ちょっとした軽口が火種となって大炎上するネット社会にあって、戸郷投手は炎上回避センサーでも搭載されているかのごとくソツのない受け答えができるのです。これぞ「令和のアスリート」なのでしょう。

 マウンドでもお立ち台でも炎上を回避する常識破りの常識人・戸郷翔征投手。ドラフト下位指名のエースとなって、ジャイアンツの球団史に輝く存在になってほしいと願っています。

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(後上 翔太(純烈))

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