「AIとCGで“人間っぽい”ものを作るだけではつまらない」ヴァーチャルアーティスト・KOEが生まれるまで

「AIとCGで“人間っぽい”ものを作るだけではつまらない」ヴァーチャルアーティスト・KOEが生まれるまで

映画「百花」より_Ⓒ2022「百花」製作委員会

 9月9日に公開された菅田将暉、原田美枝子主演の感動作『百花』。映画の公開に先駆けヴァーチャルアーティスト・KOEによる主題歌「Hello, I am KOE」が収録されたデビューEPとオリジナルサウンドトラック、さらにはKOEのデビューEP、サウンドトラックとオリジナルカバー仕様となった単行本がセットとなった生産限定BOX『百花-Complete Edition』が9月7日にリリースされた。

『百花 -Complete Edition-』に封入されたブックレットより、原作者でもある川村元気監督とサウンドトラックを担当した網守将平氏、KOEのプロデューサーを務めたYaffle氏の特別鼎談の一部を、KOEのデビューを記念して文春オンラインで紹介する。

■主題歌「Hello, I am KOE」はなかなかアイデアがまとまらず

――KOEというキャラクターが完成するまで、1年以上の時間を要したそうですね。

川村 世界中からさまざまなアーティストの顔を集めてモンタージュを作成し、どういうヴィジュアルだったら日本の音楽レーベルから発表して違和感がないかを模索していました。音楽に関しては、Yaffleさんに一任しました。劇中音楽を依頼した網守将平さんには、1曲に対して20テイク以上やり直しをお願いしてしまいましたが(笑)。

Yaffle 主題歌の「Hello, I am KOE」は、締切を過ぎてもなかなかアイデアがまとまらず、ほかの楽曲はとっくに出来上がっているんだろうなと思いながら、作業していました……。初めは「機械」を主軸にして作っていたのですが、ちょっと違うという話をいただき、エレクトロニカと人間の関わり合いが、現在はどう変化しているのかを考えながら制作しました。網守さんがだいぶ苦労されているというお話を伺っていたので、どうなるか心配でしたが、すぐにオッケーをいただいて、胸をなでおろしましたね(苦笑)。

■物語にあう音を完成させるまでの過程はしんどかった

――網守さんはどんな思いでサウンドトラックの制作に挑まれたのですか?

網守 たいていの映画の場合、すでに撮影が終了していて、そこにあう音楽を制作するやり方が当たり前になっているのですが、『百花』の場合は真逆からのスタート。音楽が完成しないとストーリーが仕上がらないというものでした。だから、物語で表現されている感情に彩りを与え、シーンを盛り上げるだけの音楽を作るのでは、意味がない。そういう楽曲を制作しても、却下されてしまうなって。

 物語にあう音を完成させるまでの過程は、今思い出しても身体の具合が悪くなってしまうほど、しんどいものでした……。アニメ『NARUTO』における中忍試験みたいなものを何度もやらされたような感覚でしたね。川村さんとは思い出したくもないくらい、相当やり取りを重ねました(苦笑)。

川村 今回、劇中で使用している音楽は『トロイメライ』『プレリュード』など、曲名は知らなくても、誰しもがどこかで耳にしたことがあるクラシックをベースにしたものなのです。その耳馴染みのあるメロディが記憶を喪失していくなかで瓦解して別のメロディとして再構築されていく。クラシックの知識があり、かつ現代的なものに解釈してくださる方として適任だと思い、網守さんに制作をお願いしました。

 今回の音楽において大切にしたのは、ストーリーとの距離感でした。あまりに寄り添いすぎてしまうとメロドラマのようになってしまうし、離れすぎてしまうと観る人の心が離れてしまう。そこのバランスをとっていただく作業が本当に難しくて。だから網守さんは、何度もこの仕事を辞めたいと思ったことでしょう(笑)。

■音楽制作をするときに気を付けていたこと

――KOEの音楽制作を担当されたYaffleさんは、どんなことに気をつけて制作されたのでしょうか?

Yaffle 制作する側からすると、AIでただ情報が集積されて人間っぽいものを作るのでは、過去のクリシェをそのまま踏襲させたものになってしまう。でも、その流れを受け継ぎながらも、これまでのカルチャーにはなかったものを導き出していこうと思いました。

川村 Yaffleさんの作られたものは、最初から素晴らしかったです。ミックスの段階で細かい調整はしていただきましたが。特に映画のエンディングに流れる「Hello, I am KOE(Ending)」は素晴らしくて。ピアノとストリングスのシンプルなサウンドで構成されたアレンジを聴いた時、KOEというアーティストに人間性が生まれたような気がしました。それが「いろんなものを引かれた時に何が残るのか?」という、映画を通じて最後に伝えたかったことに通じると思ったので、エンディングとして使用させていただきました。

■100あるものをゼロにすることは簡単

――KOEの「声」も印象的でした。機械的でありながらも、不思議な温かみがあって。

川村 個人的には大貫妙子さんの声を聴いた時と同じ感覚がありました。感情を声にのせていないように聞こえるのですが、とてもエモーショナルでもあるという。KOEは、歌詞の意味を理解している訳ではないのに、聴いていると自然にいろんな感情をそこに重ねられるのです。ただ「歌わされている」だけなのに、こんなに感情を揺さぶられる声はすごいなと思いました。

Yaffle 100あるものをゼロにすることは簡単なんです。いろんなものを削ぎ落とせばいいだけで。でも、そこには到達しない「ニアゼロ」に止めることが、一番難しかった。それは今までの音楽制作にはない面白さがありましたね。これまで手がけてきたプロデュース作品と違い、音楽的な背景のないアーティストの楽曲を作るというのは、この映画がなければできなかったことでした。

■この作品に関わり、時代を掴む感覚を磨けたような気がする

――今回の楽曲制作を通じて、何か収穫となったことはありましたか?

川村 これまで「音楽と映画をどう関係させるか」ということを考え続けてきました。その中で、それなりの知識を得たつもりでいたのですが、チームの組み合わせ次第でまだ未知のメロディを創造できることを発見できたのは、大きな収穫でした。

網守 人間って、忘れるものとずっと頭のなかに記憶として残り続けるものがあると思う。今回の制作に関しては、すべてを「記憶」しておきたい、自分にとって大切な経験になったと思います。

Yaffle 原田美枝子さん演じる葛西百合子が階段をループしているシーンで流れている網守さんの音楽はすごくいいと思いました。KOEとは異なる奥行きを感じるサウンドになっているなって。僕自身はとても実験的なことをさせていただきましたね。今回の制作は、いろんな分野にセンスのアンテナを張り巡らせていないとできない作業だったと思います。この作品に関わってみたことで、時代を掴む感覚を磨けたような気がします。とても面白いプロジェクトでしたし、もし次が派生するのであれば、また参加させていただきたいですね。

■音楽・衣装・撮影すべて細かい計算をしながら完成させた作品

――主演の菅田将暉さん、原田美枝子さんは、映画の音楽にどう反応されていましたか?

川村 菅田さんはミュージシャンとしての顔も持っていますので、レコード会社の仕事の雰囲気も良く理解してくれていて、衣装のアイデアなども出してくれていました。KOEの楽曲をYaffleさんにお願いするというチョイスについても面白がってくれました。原田さんは、トロイメライもプレリュードもとても美しい曲で、「演奏していて気持ちがいい」とおっしゃっていました。この役をきっかけにピアノの演奏にすっかりハマられたようで、ご自身でグランドピアノを購入し、今も練習を続けられているそうです。

 この作品は、音楽を含め衣装も撮影も、すべて細かい計算をしながら完成させたものではありますが、それは観客のみなさんにとっては感覚としてだけ残ってくれたらいいと思っています。ただ、スマホや外部の情報を遮断した<映画館>という空間だからこそわかる、面白さがある仕上がりになっている。余計な化学調味料を配合していない京都の出汁のような深みを味わっていただきたいですね。

(川村 元気,網守 将平,Yaffle)

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