《再試合が実現》「負けた側はどれほどの地獄か」甲子園に行けなかった奈良・生駒高監督が涙した天理の”誠意の整列”と万雷の拍手

《再試合が実現》「負けた側はどれほどの地獄か」甲子園に行けなかった奈良・生駒高監督が涙した天理の”誠意の整列”と万雷の拍手

提供 朝日新聞社

《再試合が実現》「0-21 生駒高校の夏」あと1勝で夢の甲子園 その時、チームをコロナが襲った から続く

9月11日、この夏の「甲子園行き」を懸けて全国高校野球選手権奈良大会の決勝を戦った、天理高校と生駒高校の“再試合”が実現した。

 準決勝で智弁学園を破って奈良大会の決勝に進んでいた生駒高校は、前日にベンチメンバーの半数以上に新型コロナ感染が発覚。1年生を含む12人を入れ替えて戦うことを余儀なくされた。結果は0-21の大敗だったが、この時に話題になったのが、勝利した天理高校がグラウンドで優勝を喜ばない姿だった。今回の再試合も、ベストメンバーで決勝を戦えなかった生駒高校に、天理高校の中村良二監督が提案したことで実現したという。感動の決勝を伝えた 「週刊文春」 の記事を再公開する(初出:2022年8月11日号、肩書きなどは当時のまま)。

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 全国13万人に及ぶ高校球児たちの夢、夏の甲子園がいよいよ開幕を迎える。今年の夏、猛威を振るう新型コロナウイルス・BA.5は高校球児たちを翻弄した。

 0-21。奈良県大会決勝は、決勝ではほぼ見ることのない大差となった。勝者は夏2度の全国優勝を誇る名門・天理高校。敗れたのは、県立生駒高校。大差がついたのは、生駒がスポーツ推薦もなく、春夏ともに甲子園出場経験もない、まったく無名の県立高校だったからではない。BA.5によって、ベンチ入りメンバー12名の変更を余儀なくされたからだった。「生駒高校の夏」は、どう終わったのか。監督、選手に聞いた(全2回の2回目/ #1「0-21 生駒高校の夏」あと1勝で夢の甲子園 その時、チームをコロナが襲った から続く)。

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■1年生ピッチャーが登板「何本打たれてもいいから逃げるな」

 始まった決勝戦、初回から天理打線が火を噴いた。3回が終わった時点ですでに10点を奪われていた。

 センターを守る熊田主将に、何度も打球が飛んだ。

「天理さんは本当に強いなと。『もう何点取られてもいいから、アウトを一つずつとっていこう』とメンバーに声をかけました。ピッチャーには『ナイスピッチ、ナイスピッチ』と声をかけ続けました。最後まで笑顔でプレーすることだけでした」

 1年生ピッチャーは、決勝が初登板だった。北野監督はこう声をかけた。

「『何本打たれてもいいから逃げるなと。とにかく投げぬけ』と伝え続けました。ただ、投げているフォームが普段と全然違って……やっぱり緊張と背負うものが大きすぎましたね。選手たちの緊張感が解けた時が怖かったです。緊張の糸がプツンときれてしまわないように、選手たちの気持ちを奮い立たせることに集中しました」

 4回にはチーム初ヒットも記録し、広がる点差が噓のように全員が最後まで戦いぬいた。

 結果は0-21の大敗。試合後に観客席に挨拶に行った時、笑顔で戦ってきた熊田主将の目に涙が溢れた。

■天理高の誠意と、会場からの万雷の拍手

「外野を守っていると声援が間近に聞こえるんです。それで最後、挨拶に行って拍手してくれている保護者さんの顔を見るともう……。私の母からは『ほんとによう頑張ってくれた』と言われました。それと最後のバッターになった筒井大翔選手(3年)のお母さんから『あの子が成長したのは熊田君がおったからや』と言ってもらえて。ものすごく感動しました。

 決勝戦は楽しかったです。最後に1点取れるチャンスでフォアボールを選んで、次の3年生に繋げたこと。このシーンが印象深いです」(熊田主将)

 出られなかったチームメイトとも試合後にテレビ電話を通じて言葉を交わした。「お疲れ様」「やっぱり天理は強かったな」。生駒高校の快進撃は、甲子園までは続かなかった。

 対戦校である天理は、生駒への最大のリスペクトを示した。甲子園行きが決まった瞬間もマウンドに集まらず、すぐに整列したのだ。

 この時のことを聞くと、北野監督は「天理高校の生徒も本当に立派でした。本当に、本当に……」と言うと、涙を滲ませた。

 試合が終わり、生駒の選手が送り出される時、球場には万雷の拍手が鳴り響いた。

「これまでいろいろなチームで監督をしてきましたが、あんな拍手はこれまで聞いたことがなかったです。私は監督人生で、過去に夏の県大会決勝で2度負けたことがあるんですが、負けた側はどれほどの地獄か……。相手の喜びを見るのは、傷口に塩を塗り込まれるくらいキツい。ここまで子供たちが苦しい思いをするのかと思ったこともあります。だから、天理側の応援席からも拍手をいただいたことには本当に感謝しかないです」(北野監督)

 悲願の優勝はならなかった。快進撃から一転、コロナによる大敗。北野監督は、何を感じたのか。

■生徒が苦しみながらも身に付けてくれた“2つのこと”

「やっぱり、人生においては受け止めて前を向くことがとても大切だと思うんです。『すべてを受け止める』という姿勢をかねてからチームに浸透させてきました。 今回は『これが最後の試練か。ここまできたか』と正直思いましたね(笑)。みんなとこれを乗り越えよう。それしかなかったですね」

 生駒は、北野監督の母校でもある。

「赴任した時から、先々へ受け継がれる伝統を作りたいと常に思っていました。代々、受け継がれるような一本通った芯を作りたかった。それが、『逃げないこと』『試練を受け入れること』の2つです。特に、このチームには強く求めてきて、この子たちは苦しみながらも身に付けてくれたと思います」

 熊田主将は後輩たちにこう伝えた。

「今の後輩たちは一人一人、他人への思いやりがすごくある。苦しい時でも助け合えると思っています。ですが、それが甘さを生まないように引き締めようと話しました」

 北野監督は、こう前を向く。

「あとは甲子園という山だけ。後輩たちが必ず越えてくれると信じています」

〈#1から続く〉

撮影:杉山拓也

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年8月11日号)

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  • 1

    文春が存在するだけで地獄なんだってば

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