叫べ、吠えろ、シャウトしろ! ヤクルト・木澤尚文の豪快な荒れ球が今日も僕を魅了する

叫べ、吠えろ、シャウトしろ! ヤクルト・木澤尚文の豪快な荒れ球が今日も僕を魅了する

木澤尚文

■木澤尚文は面白い

 9月9日、神宮球場で行われた東京ヤクルトスワローズ対広島東洋カープ22回戦。6回裏、得点は4対4、ブルペンでは木澤尚文が投球練習をしていた。同点のままなら、7回表からは木澤にスイッチするのだろう。しかし、もしスワローズがこの回に得点を挙げ、リードをした上で逃げ切り態勢を図るとしたら継投はどうなるのだろう? そんな思いとともに戦況を見つめていた。

 すると、この回のスワローズは長岡秀樹の2ランホームランなどで3点を挙げてカープを突き放すことに成功する。ブルペンでは、そのまま木澤が投げ続けている。間違いなく、彼が三番手としてマウンドに上がるのだろう。勝利の方程式から言えば「8回・清水昇、9回・マクガフ」が登場するとして、問題は7回だった。ベンチには昨年序盤までクローザーを務めていた経験豊富な石山泰稚もいる。今季途中までは7回を託されていた今野龍太も控えている。こうした状況下でマウンドに上がったのは、やはり木澤だった。

■昨年は一軍登板が1試合もなかった男

 ルーキーイヤーとなった昨年は一軍登板が1試合もなかった。二軍でも痛打を浴びるケースが目立ち、2勝8敗、防御率6.07に終わった。秋のフェニックス・リーグでは5回途中15失点という試合もあった。そんな木澤が、ここまで47試合に登板し、優勝を目指す大事な試合のリードした場面で7回を任されるまで急成長を遂げたのだ。

 神宮球場にはサザンオールスターズの『希望の轍』が流れる。実に感慨深い思いで、その光景を眺めつつ、一方では「大丈夫かな……?」とか、「とにかく先頭打者だけは出さないでくれよ……」と、不安な思いも隠せなかった。そして、その不安は現実のものとなる。

 この回の先頭打者、上本崇司への初球はキャッチャーも捕球できない大暴投となった。そして、上本にセンター前に運ばれてしまい、代打・大盛穂にはライト前ヒットを喫する。3点リードがあるとはいえ、ファンとしては気が気でない。続く堂林翔太にもキャッチャーが捕れない大暴投。何とか三振を奪ったものの、一死2、3塁というピンチを作ったまま、ここで木澤は降板した。

 抑えるときには150キロを超えるボールで相手打者を圧倒するけれども、本調子でないときにはフォアボールを連発したり、この日の試合のように信じられない大暴投でヒヤヒヤさせたり、本当に「木澤尚文」という投手はわけがわからない。……でも、だからこそ木澤は面白い。木澤から目が離せない。

■知性と品性と野性を兼ね備えた泥臭い慶応ボーイ

 慶応高校から慶応大学に進んだ。経歴だけを見ると、典型的なエリートコースを歩んでいるのは間違いない。入団時には「向井理似のイケメン」と騒がれもした。インタビューの受け答えは如才がなく、会話の端々に知性が垣間見える。Wikipedia情報によると、入寮時には「ドラセナ・コンシンネ」という観葉植物を持ち込んだという。その花言葉は「真実」。……絵に描いたような慶応ボーイであることは間違いない。

 しかし、2年目となった今シーズン。キャンプからオープン戦、開幕に至るまでの彼の言動を見ていると、そんなステレオタイプとは違った一面が見えてくることに俄然興味を持った。神宮球場では彼の登場時に「泥臭く」というフレーズがバックスクリーンに映し出される。それは、僕が勝手に抱いていた彼のイメージとはまるでそぐわないものだった。

■この言葉を読んで、僕は完全に木澤に魅せられた

 さらに、彼はとにかく叫ぶ。一球、一球、吠えまくるのである。「向井理似のイケメン」と称された木澤が「ウォリャ」とか、もはや聞き取り不可能な「◎☆△◇□!」とか、とにかく大声でシャウトしているのである。そのくせ、アンパイアからボールを受け取るときにはきちんと脱帽し、サラサラヘアをなびかせながら一礼する礼儀正しさも兼ね備えている。知性と品性と野性の同居。それもまた木澤の魅力なのである。

 こうして、徐々に彼の魅力に取りつかれ、「木澤はどんなことを考えているのだろう?」と関心が募りつつあった頃、『週刊ベースボール』(22年6月20日号)に彼のロングインタビューが掲載された。このインタビューで印象に残ったのはこんな言葉だ。ピンチを切り抜けた後のガッツポーズについて問われた木澤は言う。

 伊藤コーチからも「10点負けている場面でマウンドに行っても、ほえて帰ってこい」と言われているので(笑)。チームに勢いをもたらす投球というのも仕事の一つ、自分のスタイルと思ってやっていきたいと思います。

 この言葉を読んで、僕は完全に木澤に魅せられた。それ以来、彼が登板するたびに、その闘争心あふれるピッチングに魅了されている。「叫んで、吠えて、シャウトしろ!」、僕はいつもそんな思いで彼の登板を見つめているのだ。

■木澤よ、叫べ、吠えろ、シャウトしろ!

 連覇を目前に控え、ここ最近はスワローズOBへのインタビューが続いている。先日お話を聞いた五十嵐亮太さん、館山昌平さんは、いずれも「今年の木澤はすばらしい」と絶賛していた。コントロールの定まらぬフォーシームを捨て、多少アバウトでもいいから、力いっぱい腕を振ってシュート、ツーシームを投げ込むことで、本来の持ち味を発揮することになった。そのアドバイスをしたのは伊藤智仁ピッチングコーチだという。

 今年5月8日の対読売ジャイアンツ戦では2対3と、1点ビハインドの場面で登板し、四番・岡本和真、五番・ポランコ、六番・湯浅大をわずか6球で仕留めた。9回表にチームは逆転して、木澤は待望のプロ初勝利を挙げた。そこからは勝ち運にも恵まれ、早くも8勝をマークしている。現在すでに48試合に登板。シーズン終了までには、間違いなく50試合以上の登板を記録することだろう。

 9日のカープ戦では大事には至らなかったものの、見ている者をハラハラさせるピンチを招いてしまった。いいときも、悪いときも含めて、それが木澤尚文なのだ。もちろん、「安定感」は今後の課題ではあるけれど、今はまだまだ粗削りでいい。かつて、伊藤コーチも背負っていた背番号《20》が神宮のマウンドで躍動する。今はそれだけで十分だ。

 常に全力、常に半袖。「泥臭く」をモットーとする慶応ボーイに、僕は完全に魅了されている。ペナントレース制覇まで、あとわずかだ。彼の右腕に対する期待も、その役割も大きい。豪快な荒れ球で、今日も僕たちを魅了してくれ! さぁ木澤よ、今日も叫んで、吠えて、シャウトしろ! 

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(長谷川 晶一)

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    どんな記事にしてもキモくなるな。文春は。怨念まみれすぎて。

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