新人で36勝 今村聖奈18歳を育てた競馬新聞と“チャリ通”

新人で36勝 今村聖奈18歳を育てた競馬新聞と“チャリ通”

笑顔とは裏腹に負けん気も強いという

「晩御飯の食卓で『本当に騎手になりたいんか?』と尋ねたら、『やってみたい』と初めて明確に意思表示したんです。妻は事前に気持ちを聞いていたようでしたが(笑)。あの子が中学1年になる時でした」

 そう語るのは、元JRA騎手で現在は調教助手の今村康成さん。競馬界の歴史を次々塗り替えるシンデレラ、今村聖奈(18)の父親だ。

◆ ◆ ◆

■いつも外で男の子に混じって遊ぶ活発な子だった

 今年3月にデビューした新人騎手・今村の勢いが止まらない。競馬リポーターの大恵陽子氏が解説する。

「7月3日のCBC賞で逃げ切り勝ちを収め、重賞初騎乗初制覇を果たした。8月20日には通算31勝目を挙げ、GⅠ騎乗の条件をクリアしました。現行規定の96年以降では、三浦皇成、福永祐一に次ぎ史上3番目のスピード。8月29日現在、36勝を挙げており、女性騎手の先輩・藤田菜七子の5勝を大きく上回っています」

 今村は2003年11月生まれ。一体、どのようにして育ってきたのか。

 康成さんが振り返る。

「聖奈は4人きょうだいの長女。小さな頃から家でジッとしていることがなく、いつも外で男の子に混じって遊ぶ活発な子でしたね」

 騎手だった父の影響で乗馬を始めた今村。康成さんが所属する厩舎の飯田祐史調教師が証言する。

「彼女が小5か小6だった頃、トレセン(栗東トレーニングセンター)での乗馬を見たんですが、『うまいな』と。我々の世界で『鞍ハマり』と言うんですが、パッとまたがった時のバランスが良かったですね」

■3年間の修業を終え、騎手デビューを果たす

 そんな今村が父の背中を追いかけるのは、自然なことだった。だが、決して女性に優しい世界ではない。

「でも、意志は強かったですね。実際、将来を見据え、中学の頃から走りこんでいた。放課後は栗東の厩舎まで来て、帰りはトレーニングになるからと自転車で30分以上かけて帰宅していました」(康成さん)

 中学卒業後の19年、競馬学校に入学。実習期間中は誰より早く厩舎に寄っては、馬に乗っていたという。3年間の修業を終え、騎手デビューを果たした。

 今村が所属する厩舎の寺島良調教師が言う。

「女性騎手はどうしても腰高になりがちですが、彼女は違う。下半身がしっかりしていて、安定感があります。腕も太腿も僕より太いくらいですから」

■小さい頃から競馬新聞や雑誌を熟読

 “あの一流ジョッキー”のサポートもあるようだ。前出の飯田師が続ける。

「エージェント(騎乗依頼仲介者)が同じという縁もあって、(福永)祐一がトレーニング方法などの面倒を見てくれているようです。減量の苦労も見せない。『今週は(騎手の体重を含む負担重量が)49キロだけど大丈夫か』と聞いて、『大丈夫です』と答えたら、私もそれ以上は言いません。彼女もプロなので」

 もう一つ、彼女の特徴がある。「言葉力」だ。

「インタビューをしていても話すことが正確で、自分の考えを『伝える力』が非常に高いと感じます」(前出・大恵氏)

 その力はどうやって培われたのか。今村自身は競馬サイト「netkeiba.com」の取材でこう語っている。

〈小さい頃から競馬新聞や雑誌をたくさん読んでいて、ジョッキーのコメントはいつも見ていました〉

 それゆえ、自らも勝因や敗因が伝わりやすい表現を考えているという。こうした「分析力」も今村の強みだ。前出の寺島師が言う。

「比較はおこがましいですが、武豊さんと似ている印象があります。豊さんは地方競馬や海外のレースにも精通していますが、彼女も良く見ている。騎乗前は競馬新聞を穴があくほど読み、一頭一頭の特徴やレース展開を想定しています」

■今は仕事一本だがいずれは…

 今村は現在、栗東の寮で1人暮らし。ターフを離れれば、普通の女の子だ。前出のnetkeibaでは、オフの過ごし方も明かしている。

〈いまは“美”を追い求めています。休みの日はハーブピーリングという、内面から肌を綺麗にするエステに行ったり、眉毛サロンに行ったり〉

 となると、恋人も? 康成さんに尋ねたところ、

「ハハハ、いずれはあると思いますが、今は仕事一本じゃないでしょうか。あと半年、怪我する事なくレースに乗って欲しい。1年継続して乗り続けることで競馬に必要な体力もつきますし、実戦から学ぶものはたくさんあるはずです」

 今村の騎手人生、まだゲートが開いたばかりだ。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年9月8日号)

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