33年前の優勝争いの頃とは違う、オリックスの若手に力を与える指導者の言葉

33年前の優勝争いの頃とは違う、オリックスの若手に力を与える指導者の言葉

33年前の優勝争いの頃とは違う、オリックスの若手に力を与える指導者の言葉の画像

 5月以来、2度目の登場になる小川です。いよいよシーズンも大詰めですが、まだどんな決着が待っているのか、わからないですね。17日からのソフトバンク3連戦で3連勝。ゲーム差なしとして、一気にオリックスに流れが来たと見えました。僕も2戦目はテレビの解説で京セラドームにいましたが、お客さんの熱気にホームのアドバンテージをまざまざと感じる中、今年の戦いを支えてきた投手陣が改めて力を示しての3タテ。見応えのある素晴らしい戦いでした。

 しかし、その時でも、必ず最後までもつれる、と思っていました。優勝争いの相手はソフトバンク。これまで長くリーグを引っ張ってきたチームで経験も地力もあり、その上、残り試合数もオリックスより多い。両チームにとっての最終戦となる10月2日までもつれての決着。そんなラストも浮かんでいます。

■129試合目でロッテに敗れ、優勝を逃したプロ1年目

 白熱のシーズンを見ながら時々プロ1年目、近鉄、西武との3球団により大混戦となったペナントレースを思い出すことがあります。130試合制の時代に3球団揃って129試合終了時に近鉄の優勝が決定。全日程が終わった時の近鉄とオリックスの差はわずか1厘、近鉄と3位西武の間も0.5ゲーム差、まさに球史に残る大熱戦でした。僕たちは129試合目でロッテに敗れ、計算上の可能性は残っていましたが、実質的にはそこでシーズンが終わりました。その試合後、上田監督から「ご苦労さん」と言葉をかけられたことは今も覚えています。それまではとにかく厳しかった監督からの労いの言葉に、これで1年が終わったんだ、と深く実感してジンときました。

 当時のことを時折思い出していたところ、懐かしい記事にも出会いました。当時、球団がファンの人へ向け発刊していた「The Braves」というフリーペーパー(8P)をたまたま目にしたんです。オリックスは球団譲渡から最初の2年は、阪急時代の名称「ブレーブス」をチーム名に使用していました。だから「The Braves」のタイトルを見て、すぐにその頃のものとわかりましたが、見ると、1989年の8月号。オリックス初年度のまさに激しいペナントレースを戦ったあのシーズン中のものでした。

 カラーの表紙にはベテランファンの方なら覚えているでしょう、当時在籍の外国人サウスポーホフマン。ページをめくると門田さんとブーマーの記事があり、そして、なんと裏表紙には僕と中嶋……監督、先輩外野手南牟礼さんによる座談会も。

 いやあ、懐かしかったですねえ。とにかく、わっかい!(笑)思わずこの頃に戻りたい!と口走っていましたが、当時のまま呼ばせてもらうと、中嶋もメチャクチャ若い。今や監督の貴重な写真、ファンの人も必見でしょう。僕はこの時、高校から社会人のプリンスホテルを経て入団の1年目、中嶋は高校からプロに入って3年目。年齢的には僕が2つ上で、中嶋はキャッチャーとしてこの年からレギュラー。僕もショートのレギュラーで使ってもらって、打順も中嶋8番、僕が9番でした。

■褒められることもアドバイスも送られることもなかったあの頃

 機関紙は8月号とあるので7月あたりに取材があったのでしょう。あの年のオリックスは開幕から7連勝で飛び出し首位を独走。それが夏場から一気に調子を落とし、以降は3チームによる大混戦。まだこの取材の頃は余裕のある顔をしていますが、本音はクタクタだったと思います。

 僕も1年目でとにかく毎日必死。野球のこと以外思い出せないですね。終盤の負けられない戦いが続く中では、寝る、食べる以外は、ひたすら野球。自分のワンプレーで試合の勝ち負けが決まるかもしれない、ペナントレースの行方が決まるかもしれない。その重圧に、周りを見れば、サードに松永さん、セカンドに福良さん、レフトには門田さんや石嶺さんがいて、ピッチャーにも大ベテランのヨシさん(佐藤)や今井さん……。思い出すだけで当時のピリピリとした空気が蘇ってきます。あの頃はCSもなく、優勝できなければ2位も6位も一緒という時代。1つの勝ち、1つの負けによってまさに天国と地獄でした。

 肉体的にもしんどかったですけど何より精神面がきつかった。今とはプロ野球を取り巻く環境も社会の空気も何もかも違っていましたし。もちろん、勝負の世界、プロの世界はいつの時代も厳しいですが、当時はまだ昭和の“当たり前”がいいも悪いもあちこちで続いていた時代。

 打ったからといって褒めてくれるわけでもなく、ミスをしたからといってアドバイスや改善点を丁寧に教えてくれるわけでもない。もちろん、励ましてなんてくれません。グラウンドで少しでも笑い声が上がると、歯を見せるな! とすぐに声が飛んできた。試合が終わってからも、新人は風呂に入るのも最後にしか入れない雰囲気で、帰るのはいつも最後。ひたすらグラブやスパイクを磨いていました。

■指導者と選手の信頼があるから力を発揮しやすくなる

 そんな時代を思い出すと今の若い選手たちが伸び伸び物怖じせずプレーしている姿に改めて時代の流れを感じます。今年の戦いを支えている強力リリーフ陣を見ても、経験の浅い投手たちが今では勝ちパターンの継投を担っています。

 40試合を超えて投げ、防御率が0点台の阿部は社会人から28歳でプロ入りし2年目。去年はリリーフで4試合にしか投げていません。宇田川も育成枠から7月に支配下登録されたばかりで、去年はファームでもわずかの登板のみ。本田もそうですし、山崎颯一郎も去年は先発で投げて今年途中からリリーフ。

 そうした面々がシーズン終盤の大事な試合、厳しい局面で委縮することなく、しっかりと投げています。みんな150キロ超えのボールを持っていますが、自分の力を信じ、自信を持って投げ込んでいますよね。

 選手が力を発揮しやすい環境が昔より整ってきたのは確かです。その上で大事だと思うのが、指導者と選手との間の信頼です。指導者が、俺はお前を信じて使うから思い切っていってこい! あとの責任は取ってやるから、と腹を決めて送り出しているか。

 ベンチの信頼が伝われば選手は意気に感じてプレーしますし、迷いも消えます。

 昔の首脳陣もそう思って選手を使っていたとして、そこに言葉がなかった。言わなくてもわかっているだろう、という世界です。

 でも、今は普段からコミュニケーションをしっかり取って、監督やコーチも自身の考え、思いをしっかり言葉にして伝えます。選手というものは常に不安を抱え、結果が出ないと代えられるんじゃないか、と消極的な思考にもなりやすい。そういう時に信頼を感じる言葉をかけられたら救われ、よし! となります。

■不安も迷いもないから150キロ超のボールに力がこもる

 僕は今、ジュニアチームの指導にも関わり、年末に行われる12球団ジュニアトーナメントにはオリックスジュニアの監督として参加しています。小学生との関わりの中でも気持ちの部分が大切だと思うことが多々あります。

 去年のチームに抑えで期待していた投手がいたのですが、本大会前の練習試合で投げさせるとことごとく打たれて結果が出なかった。本人は代えられるんじゃないか、監督はどう思っているだろう、と不安な気持ちになっていたと思います。

 だから、その子には「どれだけ打たれても俺はお前を使うから、逃げずに行け」と繰り返し伝えました。すると本選で1イニングでしたが力通りの投球でしっかりと抑えてくれて。本人はもちろん僕も嬉しかったですね。あとになって「監督の言葉が大きかった」と本人が言っていたと聞きましたが、小学生もプロも一緒です。

 常に不安を抱え、時には逃げてしまいそうにもなる選手の背中をどれだけ押してやれるか。特に今の子供たちは僕らの時代より野球に関しての経験値も高く、情報量も多い中で育ち、しっかりと伝えてやれば理解します。そういう子供たちが成長し、続々とプロの世界にも進んできているわけですからね。コミュニケーションを取り、信頼を伝える言葉は欠かせません。

 オリックスの若手選手たちの活躍を見ていると、中嶋監督やコーチ陣と選手の間でこのあたりがうまくいっているのだろうと思います。不安も迷いもなく、投げることに気持ちを集中させ、腕も振れているので150キロ超えのボールにさらに力がこもってくるのでしょう。

 さて、24日の楽天戦を山本できっちりと勝ち、残りは3試合。日程が飛び飛びのため山本にもう1試合先発を任せられるのは大きいですね。山本以外の2戦をリリーフ陣も総動員して何とか白星を掴み、あとはソフトバンクの結果次第。そこまで持っていってどうなるか。残り3試合の内訳はロッテ1の楽天2。今シーズン負け越している楽天との2試合もすんなりとはいかないでしょうが、30日のロッテ戦も気になります。当初、2軍調整中の佐々木朗希がもう1試合1軍で投げるというので、どこで投げるのか、オリックス、ソフトバンクの関係者もファンも大いに気になっていたことでしょう。結果、26日のソフトバンク戦になると報道がありました。

 ただ、それでも気を抜けないのがロッテ。33年前、オリックス優勝の可能性を実質的に消したのがロッテ。何年経ってもあの悔しさは忘れられないですし、シーズン終盤にロッテと戦うやりにくさは僕の中にずっと残っています。あの年は最終戦前の129試合目で、今年も142試合目のロッテ戦。重なって来るものもあります。しかし、今の選手たちはそんなことは知りません。ベンチの信頼もしっかりと感じながら、最後まで思い切りプレーし、全力でシーズンの優勝を勝ち取って欲しいですね。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/57490 でHITボタンを押してください。

(小川 博文)

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?