「留守番中だった2歳の僕が、突然家からいなくなった理由」森山未來と“ホヤ”の衝撃の共通点

「留守番中だった2歳の僕が、突然家からいなくなった理由」森山未來と“ホヤ”の衝撃の共通点

東京2020オリンピックの開会式で圧巻のダンスパフォーマンスを見せた森山未来さん。

 脳科学とコンテンポラリーダンスを融合した異色のパフォーマンスをこの秋に計画中の、中野信子さんと森山未來さん。幼少期の体験を基にした森山さんの人生相談を皮切りに始まった二人の対談を『 週刊文春WOMAN2022秋号 』から一部紹介します。

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森山 ご相談したいのは、「自分の行動原理がわからない」ということです。僕は自分でも説明のつかない行動をとることがあって、どうしてそんなことをしたのか、何かしら理由の後付けをしようと思えばできるけど、突き詰めれば、ただそうしたかったから、としか思えない。遡れば2歳ぐらいからそんな感じだったような気がして。

中野 きっとそれは正しい記憶ですね。記憶を司る脳である海馬は3歳頃までは不完全にしか機能しないと考えられていますから。

森山 2歳の僕が何をやらかしたかというと、9つ年上の姉とふたりで留守番をしていた。姉がうたた寝をしていた。両親が帰宅すると、僕がいなかった。探しに探し回ってもいない、これは大変やということで通報した。すると、まさに電話した先の警察署で保護されていて、僕ときたら泣くでもなく、お巡りさんからお菓子をもらって食べていたんです。

 僕にはそういう突発的な行動というか、理由は特にないけど安心な場所から飛び出してしまうということが、今も変わらずある。

中野 警察署で泣くでもなく、お菓子をもらって食べていた……。人見知りしなかったんですね。

森山 まず、そこですか!?

中野 実は重要なポイントなんですよ。

森山 人見知りしますって、僕。

中野 いやいや。ご自身でそう思ってはいても、他の人と比べればオープンだということがあるかもしれません。お悩みへの回答の前に、少し未來さんの脳の話をしましょう。ちょっと変わってます。

森山 今年1月に初めて僕の脳波を測定してもらったときは、ちょっとではなく「だいぶ、おかしい」と言われました(笑)。

中野 すみません(笑)。普通は少し緊張していることを示すような脳波が見られるんだけど、未來さんはガンマ波がずっと見られて、珍しいな、壁をつくらない人なんだなと思った。それで、人見知りしないのは2歳の頃からずっとそうなのかと思って。

森山 僕の社交性は後から身に付いたもので本来は人見知りだと思っていたけど、そうではないと。

森山 信子さんとの出会いは2~3年前のことでしたよね。

中野 共通の友人がいて、偶然会って紹介され、その場で話が弾みましたね。

森山 著書も多くメディアにもよく出られていたのに、失礼ながら僕はよく存じ上げなかった。信子さんは、自分とは何なのか、人間とは何なのかということを命題として、人間の行動、言葉、創造、集団で生きている意味を追究されているのかなと感じました。

 驚いたのは、東京藝大の大学院でアートも研究されていたことです。僕は身体を使って表現してきたけど、信子さんは科学的な説明だけでは収まり切らないところを表現で解放しようとしているということだった。

 そこで一緒に新しい作品を生み出せないかと、信子さんと、僕の友人であるイスラエルの振付家・ダンサーのエラ・ホチルドに声をかけ、対話を重ね、滞在制作もして、まもなく作品をみなさんにお見せできるわけですが、その過程で試したのが、脳波を測定しながらのダンスです。

 集団で生きていくことが宿命づけられている人間には、自分という境界線から解き放たれ、人とかかわりたいと感じる瞬間に出る脳波がある。その脳波が出せるパフォーマンスができるかどうか、というものでした。

中野 見事にその脳波が優位に出ていましたね。最も周波数帯域の高い脳波で、普通はあまり見られないのだけど。

 そこで、未來さんの「理由は特にないけど安心な場所から飛び出してしまう」問題ですが、やはり未來さんは普通ではないのか。いや、人間は本来、そうあるべきだと私は思う。例えば、ホヤを考えてみましょう。

森山 食べられるホヤ?

中野 珍味のホヤ。あれは岩にへばり付いているけど、幼生のときは浮遊して固着先を探しています。そのときは脳のようなものを持っているんですが、岩に固着すると脳を食べてしまうんです。

森山 えっ、自分の脳を食べちゃう!

中野 なぜだと思う?

森山 要らないから。

中野 そうなの。正解。

森山 ホヤには考える必要がないのかな。

中野 うん、成体になると必要ないということになるよね。むしろ捨てなければならない。というのも、脳って維持するのにすごくコストがかかる。人間も脳だけで人体の4分の1の酸素、5分の1のカロリーを消費している。ホヤは、脳を維持するには負担が大き過ぎるといって、自ら消化、分解してしまうの。それでもちゃんと生きている。生命の維持を優先するのであれば、実はそれぐらい脳というのは、本質的にはあまり要らないものだったんです。

森山 人間も脊髄反射みたいな反射性で生きることもできる。

中野 そうだね、呼吸と消化管さえ機能していれば脳死の状態になっても生きていられるよね。ということは反射的、突発的に何かしてしまうということのほうが生物としては重要なのであって、そこに意味をつけるのは生存戦略上、何のためなのだろうかと脳を研究する者としては考えてしまうわけ。

森山 なるほど……って、ちょっと待ってください。僕の話をしていて、そのホヤの例を挙げたということは、僕は……。

中野 未來さんだけではないよ(笑)。体重比でいえばいかに巨大な脳を持つ人間であったとしても、誰しもホヤと同じ側面を持っているということを言いたい。

森山 そうか、反射的、突発的に何かしてしまうというのは、いかにもホヤ的だと。僕は脳を食べてないはずですが(笑)。

中野 生命を維持するだけだったら脳はあまり重要ではないけれど、我々は、ホヤのように固着していればそれで済むような生物でもないんだよね。肉体としては脆弱な上に、近しい人間同士でも殺し合う、つまり最も怖い天敵が自分たちと同じ種であるという、厄介な生物なんです。

 そうなると生存戦略としては密なコミュニケーションが必須になる。敢えて距離をとるというのもコミュニケーションのうちだけど、適切に振る舞うためには、記憶と、相手がどう思っているかを類推する能力が必要で、そうでないと死ぬ確率が上がってしまう。

 例えば、目の前にある資源を全部ひとり占めしてしまうと、いずれ周りの人間に攻撃され、協力が得られなくなる。だから、攻撃されずに済む最適な分量を、どれだけの時間間隔で自分のものにすればいいのか、瞬時に計算しないといけない。この計算を、私たちは「なんとなく」できるようになっているんです。わざわざ計算しているという感覚はないよね。1つ残しておくとか、自分の取り分を控えめにしておくとかいうことはかなり感覚的にやるでしょう。

森山 駆け引きの連続ですよね。

中野 また、集団を維持するための収量はどれぐらいかということも計算しないといけない。その計算を、計算していると感じずに無意識にやれるようにするためにこんなに脳が発達したと考えるのは妥当だといえる。とはいえ、それにも限界があって、人間の脳は2㎏ぐらいなんだけど、その大きさで自然に処理できるのは150人までの集団だと言われているよね。

森山 たったの150人。

中野 それを超えると、もう、記号として扱わざるを得なくなる。すると、共感性は働かず、傷つけてもいい、いくらでも叩いていいということになりやすい。

 それから、突発的に何かやってしまったときは、意味を後付けして周りの人間に言い訳しておかなければコミュニケーションがとりづらくなってしまう。時にはその後付けの説明が噓であることもあるね。

森山 以前、教えてもらった「詐話(さわ)」ですね。

中野 そうそう、話を作っちゃう。詐話というのは噓ではあるが、周りとうまくやっていくための戦術だともいえる。真実を言わないほうがいい場合もあるからね。相手を傷つけないようにするために。もちろん相手を傷つける噓は容認できないけれど、話を作る能力自体は人間が時間をかけて築いてきたものだし、この能力をひとつの基盤として創造性というものが生まれたともいえる。

text: Atsuko Komine photographs:Yusuke Abe illustration: Ayumi Itakura

※人はなぜリスクを冒してでも安心な地を飛び出してしまうのか、中野さんが今なぜアートに関心を寄せているのか、対談の全文は『 週刊文春WOMAN2022秋号 』に掲載されています。

なかののぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程終了。医学博士。2008年から10年、フランス国立研究所ニューロスピンに勤務。著書に『ペルソナ』『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『なんで家族を続けるの?』(文春新書)、『人生がうまくいく脳の使い方』(アスコム)など

もりやまみらい/1984年兵庫県生まれ。俳優・ダンサー。幼少期よりダンスを学び、99年に「BOYS TIME」で舞台デビュー。以来、映画・舞台・テレビと幅広く活躍している。10月15日から11月13日まで、東京藝術劇場 プレイハウスなど全国6都市で、森山未來×中野信子×エラ・ホルチドのパフォーマンス講演「FORMULA」を上演予定

[チケット発売中: https://formula.srptokyo.com/ ]

(「週刊文春WOMAN」編集部/週刊文春WOMAN 2022秋号)

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