長澤まさみとプロデューサー 彼女らの姿が重なる凄いドラマ――亀和田武「テレビ健康診断」

長澤まさみとプロデューサー 彼女らの姿が重なる凄いドラマ――亀和田武「テレビ健康診断」

長澤まさみ ©文藝春秋

 冤罪がテーマのドラマというと、いわゆる良心的な社会派ドラマを思い浮かべる人も多いだろう。

 しかし長澤まさみ主演の『エルピス─希望、あるいは災い─』が描くのは、冤罪と無実の死刑囚の悲劇に止まらない。無辜の人間を逮捕、拘束した警察発表を疑わず加担した、マスコミの「冤罪報道」の在り方までが容赦なく晒される。

 関西テレビ、よく放映したなあ。カンテレ、偉い。

 大洋テレビの看板アナ、浅川恵那(長澤まさみ)は局員との路上キスを撮られ、ニュース番組のサブキャスターを降ろされる。

 浅川の新たな配属先は、深夜の情報番組。ダメな社員の吹きだまりだ。心身ともに最悪の状態から脱せそうにない浅川に新人ディレクターの岸本拓朗(眞栄田郷敦)が接近する。

 頭はカラッポの岸本Dが浅川をじっと視(み)つめる。「その目力、どうにかして」と浅川がたじろぐ程だ。岸本が持ちこんだのが、神奈川県の八頭尾山で十数年前におきた連続少女殺害事件だ。最高裁で死刑が確定しているが、この人は無罪だと訴える岸本。

 岸本の哀願する目力に負け、協力することになった浅川だが、壁は厚い。

 岸本は番組に出ている若いタレントを口説いた様子を収めたテープを持つヘアメークの大山さくら(三浦透子)から、冤罪事件の再検証を依頼され、断ればテープを公表すると脅された。しかし国家権力とは闘えませーんと、早々に抜ける。

 その直後に八頭尾山で女子中学生の遺体が発見される。真犯人は野放しになっていた。乗りかかった船だ。浅川は一人で事件を追う。そう決意した長澤まさみの表情が清々しく美しい。ストレスがかかるたびに、彼女の嘔吐シーンが映されるが、死刑判決を覆すという気概を持った彼女は吐き気も克服していく。

 浅川は人気、実力を備え、揺るぎない真実を伝えていると思っていた自分をいまでは恥じていた。バックに、福島の原発事故や、五輪誘致に成功したときの安倍元総理の演説が映る。

 凄いだろ。プロデューサーの佐野亜裕美は、TBS放映の『カルテット』を演出した。その後『エルピス』の企画を出したがTBSでの制作はかなわず、彼女は関テレに移籍して『エルピス』を作る。

 ドン底から這い上がってゆく長澤まさみの姿と、佐野たちの姿が重なる。

“報道のTBS”へ。自局幹部による伊藤詩織さんへの性暴力犯罪疑惑を徹底検証しない限り、局の信用は回復できないですよ。

 妙案がある。低視聴率に喘ぐ『news23』だが、小川彩佳さん、あなたがスタッフを動かし伊藤詩織さんへの犯罪を暴いて伝えたら、番組と局は信頼を取り戻す。そこまでしないと低空飛行のままだ。

INFORMATION

『エルピス─希望、あるいは災い─』
フジテレビ系 月 22:00~
https://www.ktv.jp/elpis/

(亀和田 武/週刊文春 2022年11月17日号)

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