「いまの気分」を最も鋭く切り取る写真家 佐内正史が他ジャンルに越境して見せる“世界”

「いまの気分」を最も鋭く切り取る写真家 佐内正史が他ジャンルに越境して見せる“世界”

佐内正史(左)、曽我部恵一(右)©佐内正史

 だれもが容易に発信できたり、趣味がかぎりなく多様化している時代の影響か。ジャンルの壁を軽々と飛び越えて、多彩な創作やコラボレーションをする表現者が増加中だ。

 たとえば、小説作品のストーリーや世界観をもとに音楽を紡ぐYOASOBIとか。演技派として名を馳せる俳優の永山瑛太が、名機ライカで撮った写真作品の個展を開いたり。

 アート分野で、そうした幅広い活動を際立たせているのは、写真家の佐内正史である。

 佐内は1990年代にデビュー、97年に写真集『生きている』を刊行して大いに注目を浴びた。以来、写真表現の第一線で活動を続けている。

 道端のガードレールや電柱。食堂の卓にのった食べかけのカツカレー。現代の日本で暮らしていればよく目にする事物や光景を、作為やよけいな情感など入れ込まず、まっすぐありのままに切り取るのが佐内写真の特長だ。

 分類するなら「日常を撮ったスナップ写真」ということとなり、感性と雰囲気に頼った作風かと思われがちだが、そうじゃない。日に照らされたアスファルトや、冷たい水の入ったグラス表面の手触り、質感まで画面から伝わるのは、たしかな技術と表現力があればこそ。無作為にシャッターが押されているようでいて、じつは光の射し具合や構図もよくよく吟味されている。

 だからこそ、画面の中にあるものすべてが、観る側の目に異様なほど新鮮に映るのだ。日常のあらゆるモノや場所は見るに足ると教えてくれて、世界を肯定する表現であるところが、佐内作品の色褪せぬ人気の所以だろう。

■他ジャンルとの斬新コラボレーション

 佐内正史はかねて、他分野のアーティストとのコラボレーションを盛んにおこなってきた。作家の角田光代の文章に写真を組み合わせた書籍『だれかのことを強く思ってみたかった』や、ファッションブランド「シナ スイエン(SINA SUIEN)」のショー撮影などなど。

 このところ注力しているのは、写真作品を大きくあしらったTシャツの製作。スタイリスト伊賀大介、ファッションブランド「タンタン(TANGTANG)」デザイナー丹野真人と組んで、レーベル「ガサタン(GASATANG)」を立ち上げ、続々と新作を発表している。

 岡本太郎の《太陽の塔》をドンと撮影した写真が用いられていたりと、洒落ていながらインパクト絶大なTシャツは、男女を問わず人気を呼ぶ。ただ、写真家としてはどうなのだろう、自身の作品が衣類の一部になってしまうことに抵抗感はないものなのか?

 そのあたりを佐内正史本人に問うと、

「展覧会会場の壁に写真が飾ってあったりすると観る側も構えてしまうけど、Tシャツに写真がのっていれば、動いたりよれたりしていろんな見え方がするだろうし、街で偶然見かけたりすることもあって、楽しくていいんじゃないかな」

 と気負わない。街のあちらこちらで「動く写真の展覧会」が開かれるなら本望だ、といったところのよう。

 さらに佐内は2021年、ミュージシャン曽我部恵一と組んだ音楽ユニット「擬態屋」名義で、ファーストアルバム『DORAYAKI』をリリースした。

 佐内が詞を書き、朗読し、そこに曽我部が音を合わせていく。写真と音楽、それぞれの領域で確固たる独自のスタイルを確立しているふたりが個性をぶつけ合うことで、従来のジャンルに収まらないまったく新しい表現が生み出されている。

「蛇口から水を飲む 少しクセになってる」
「いい土器あった どんぶり買ってきた とろろを食べた」
(『ギタイヤ』)

 佐内の書いたこんな歌詞を、口の中で転がしたり、音楽に合わせて聴いたりすると、意味も理由もわからぬがなんとも快い。佐内写真を虚心に眺めているときの心地よさと、どこか似ている。

■福岡でジャンルを越境した表現に触れる機会が

 佐内正史の写真をナマで観られたり、さらには擬態屋のパフォーマンスを体験できる機会がある。

 11月23日に福岡のホテルSO SUMIYOSHI を会場にして開かれる、「群日」と名付けられたイベントだ。ホテルの各室をオープンにして、インテリア・洋服・レコードショップが店を開いたり、地元のレストランやカフェがその日かぎりのメニューを提供したりと、ジャンルを超えたカルチャーの祭典が繰り広げられる。

 そのなかに、佐内正史写真展「体毛の床」があり、また擬態屋公演「Radiation-blue」が開かれる。

 ジャンルを超越した自由な表現を浴びるように体感して、いまの世を肯定的に眺めてみたいところだ。

INFORMATION

「群日」                 
11月23日
ホテルSO sumiyoshi
www.takuramacan.com

(山内 宏泰)

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?