間取り図が好きな『イニシエーション・ラブ』の著者が、不動産ミステリーを書いた

間取り図が好きな『イニシエーション・ラブ』の著者が、不動産ミステリーを書いた

新潮社 1400円+税

「僕はネット上の不動産情報を見るのが好きで、引っ越しの必要が無くてもいろいろな間取り図を眺めるのが趣味なんです。とくに売買物件は賃貸とはまた違った世界が広がっていて面白い。ミステリー本に間取り図が付いていると、もうそれだけでわくわくするんですよね。だから今回のこだわりとしては、各短編の扉に間取り図を入れました」

 大ヒット作『イニシエーション・ラブ』の乾くるみさんが放つ最新作『物件探偵』は、なんと不動産ミステリー。利回り12%の好条件物件に仕組まれた罠から、相場より安いのになぜか退去者が相次ぐアパート物件の怪まで、大興奮の6編が収められている。

「ミステリーファンにとってお馴染みの古典的なトリックのパターンを、人間同士ではなく不動産同士でやったら面白いかなと思って。たとえば島田荘司さんの『占星術殺人事件』の原理を使って蘇部健一さんが『六枚のとんかつ』という短編を書いたように、ある原理を応用してアレンジで勝負するって、ミステリーの大きな楽しみなんです」

 乾さんがネットで物件探索をしていたら、自分の住んでいるアパートが一棟売りに出ていたことも。そんな体験から生まれた短編もある。近年、全国的に不動産投資ブームが起きているが、投資の罠にはまっていく心理描写も実にリアルだ。

「僕は年に2冊本を出して印税200万円で、ようやく暮らせるという生活が長かった。ずっとカツカツだったのに、『イニシエーション・ラブ』が文庫で大きく売れて、2008年くらいからそれまで見たことのないようなお金が入ってきたんです。すると心配性なので、ハイパーインフレになって現金の価値が半減したらどうしようと(笑)。政府のインフレ政策をみても、現金で持っているより、半分は不動産で持つほうがいいんじゃないかといろいろ考えたんですね。そんな僕の不安が描写に滲み出てるのかもしれませんね」

 そもそも『イニシエーション・ラブ』は、当初「こんなものを書くとは思っていなかった」という。

「中高生の頃、横溝正史ブームの中で育って、本格のトリックとかロマンを味わってミステリーを志した世代なので、まさか自分が恋愛小説を書くとは思ってもみませんでした。でもやってよかった。なんだかんだで、僕が書くと同じネタでもいい化学変化が起きる――そう期待してくれる読者もいるので、今回もそうなっているといいな(笑)」

『物件探偵』
利回り12%の投資用物件に仕掛けられた思わぬ罠「田町9分1DKの謎」、新幹線の座席が残置されたマンション物件「表参道5分1Kの謎」など、トリックに思わず手を打つ珠玉の6篇。“物件の気持ちがわかる”不動尊子が怪しい物件を嗅ぎつけては次々と謎を解く、痛快無比のリアル不動産ミステリー!

(「週刊文春」編集部)

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