草野球で対戦した選手がまさかのプロ入り!? ソフトバンク2位ルーキー・大津亮介との“特別な縁”

草野球で対戦した選手がまさかのプロ入り!? ソフトバンク2位ルーキー・大津亮介との“特別な縁”

ハービーズ福岡の皆さんと試合後に撮った写真。大津投手は右から2番目。筆者は左から3番目 ©上杉あずさ

 球春到来——。2月1日、プロ野球のキャンプが始まった。我らがホークスは昨季の悔しさを晴らすべく、例年以上にチームとして“日本一”への思いは強い。優勝以外許されなくなるような大補強もあった。既存の選手たちも年々レベルアップを続けている。魅力的な選手が数多くいるが、1軍の椅子は限られている。誰がこの競争を勝ち抜いていくのか、キャンプ初日からドキドキとワクワクが待ち受ける。新戦力の一角として、昨秋のドラフトで指名されたルーキーからは3選手が今キャンプA組に抜てきされた。即戦力としてチームに食い込んでいけるのか、奮闘する姿を見届けて行きたい。

■草野球界に居てはいけない系ピッチャー

 その中に、“特別な縁”を感じ、ひときわ応援したい選手がいる。その選手がドラフト指名を受けた瞬間は今まで感じたことのない感動を覚えた。というのも、まさかの「対戦したことのある選手」のプロ入りだったからだ。一野球ファンとして、これは何とも言えない貴重な経験だった。

 その選手とは、ドラフト2位ルーキーの大津亮介投手だ。福岡県志免町出身の24歳。社会人・日本製鉄鹿島から即戦力として入団した右腕は、最速152キロの伸びのある直球と抜群の制球力が持ち味。あらゆる変化球を操り、緩急も自在だ。大津投手は1年目から「開幕ローテ入り」を目標に、静かに闘志を燃やしている。

 “特別な縁”、「対戦したことのある選手」というのは一体どういうことかというと……。それは今から2年ちょっと前のことだ。2020年秋、福岡市東区にある汐井公園野球場で草野球をした時の話だ。私は「福岡ハードバンクポークス」という軟式野球チームで総監督を務めている。この日、我がチームは「ハービーズ福岡」さんとの試合が組まれていた。所属している新日本スポーツ連盟の公式戦だった。さらに、ハービーズ福岡は全国大会出場歴もあるチーム。"草野球"とはいえ、負けられない戦いとして我々も挑んだ。

  細かい試合内容については割愛するが、5回が終わった時点で2-2の接戦だった。何とか勝利したい我々ポークスだったが、ハービーズ福岡はとんでもないピッチャーをリリーフで送り込んできた。細身の右腕で、オリックス・山本由伸投手を彷彿とさせる投球フォーム。球も速い。見るからに、草野球界に居てはいけない系ピッチャーだった。彼はバッタバッタと三振を奪い、我々の戦意を喪失させた。試合は6-3でハービーズ福岡が勝利した。

■「もしかして、九州高校にいたあの大津くんですか?」

  負けたとはいえ、好投手を前にして興奮冷めやらぬままグラウンド整備に向かった。私は、相手の監督さんに声を掛けた。「いや~。すごいピッチャーがいらっしゃるんですね。お名前何っていうんですか?」。監督さんは「大津です」と教えてくれた。

 その時、私は心の中でピンと来た。「ん? 大津? このへんで大津って言ったら、九産大九州が選抜出た世代にいたよなぁ。年齢もこれくらいだし、もしや……」。本人に話し掛けてみた。「もしかして、九州高校にいたあの大津くんですか?」。すると「はい」と答えが返ってきた。その瞬間、私は不思議な高揚感に包まれた。

 高校野球ファンでもある私は2015、2016年頃から九産大九州高校の野球に魅了されて、試合に多く足を運んでいた。当時の九産大九州は、左は現在・阪神タイガースの岩田将貴投手、右は舩越孝志朗投手(現・日本生命)と左右の好投手がいた。全体的にも戦力バランスが整った良いチームだったと記憶している。高校野球を見ながらスコアを付けていた私は、その世代の選手の名前は何度もスコアに書いたので割と憶えている。だから「大津」と聞いてハッとせずにはいられなかった。ただ、高校時代は野手でしか見たことがなかったからすぐにはピンと来なかったし、驚いた。聞くと、高校卒業後は帝京大学に進学し、投手一本でプレーしているということだった。翌春からは社会人野球の名門・日本製鉄鹿島でプレーすることが決まっていると言っていた。どうりでとんでもないピッチャーだ。

 でも、なぜそんな選手がここに!? なぜ草野球の試合に出ているのか!? 疑問に思ったのだが、私が声を掛けた先程のハービーズ福岡の監督さんは、なんと大津投手のお父さんだった。つまり、大学野球引退後、地元福岡に帰省している際に、父が監督を務めるチームに参加していたのだった。

 ものすごいタイミングだ。高校時代にも応援していた選手と、後々ホークスに入団することになる選手とグラウンドで会うことになるなんて、どんな世界線なんだ。もっと言うと、私はこの試合にショートスターターとして先発していた。1回を持たずにノックアウトされたので、大きな声では言えないが、「大津亮介と同じ試合で投げ合った」ことをいつか控えめに自慢したいと思った(笑)。

■今のホークスにはいないタイプのピッチャー

 それから、大卒社会人選手のドラフト解禁となる2年が経った昨秋。既に「大津亮介」の名はしっかりとドラフト候補として雑誌や新聞で取り上げられていた。あのとき、「2年後楽しみにしてるね」「大津くんと対戦したこといつか自慢するからね」などと大津投手にエールを送った我がポークスのチームメイトもその時を楽しみにしていた。

 ドラフト会議当日。歓喜の瞬間が訪れるのは早かった。地元・福岡ソフトバンクホークスから2位指名を受けたのだ。思わず声が出た。喜びとか驚きとか何と表現したらいいのか、飛び上がりたい気持ちだった。即戦力として、早い段階でどこからか呼ばれるのではないかと期待はしていたが、2位で! しかもホークス! 大興奮だった。

 年が明けて新人合同自主トレが始まった今年1月。私も例年のごとく取材に行った。そこで大津投手と念願の再会を果たせた。何だかすごく嬉しかった。大津投手のクールな印象は当時から変わらない。でも、取材していくと、クレバーで野心的で、秘めたる闘志がメラメラ燃えているのが分かった。「負けてられない」「結果で示したい」「開幕ローテは目標」などと“強気”も冷静に言葉にする。この世界で戦いを勝ち抜くためにはどうしていくべきなのかをしっかり考えながら、目の前のことに一生懸命取り組んでいた。

 大津投手はキャンプイン前、「常に平常心で制球力重視のピッチングをしたい。ホークスにはスピードが速いピッチャーはたくさんいると思うんですけど、自分はコントロールの部分で少しでも戦力になれたらいいなと思います」と話していた。今のホークスにはいないタイプのピッチャーだと感じる。大津投手の持ち味、個性を生かしてアピール出来れば、チームの新たなピースになれるのではないだろうか。勝負のキャンプが始まった。まずは目標の「開幕ローテ」を掴むために奮闘する姿を見守りたい。そして、「大津亮介と同じ試合で投げ合った」ことが伝説的な思い出になるくらい、プロの世界で大きく羽ばたくことを願っている。

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(上杉 あずさ)

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