「スーパー戦隊VS.敵という境界線は引いていない」“異色戦隊物”に見る現代社会の“グレーな部分”《大人がハマった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』》
2023年02月05日 07時00分文春オンライン

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』 Ⓒテレビ朝日・東映AG・東映
スーパー迷(?)戦隊『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』が“お約束”を破りまくるワケ「嫉妬で“鬼化”する男性ピンク、指名手配中ブラック、宅配便バイトレッド…」 から続く
SNSでは毎週「頭おかしい」「狂気」「意味わからん」といわれつつ、気づけば熱狂的なファンを大量獲得したドラマがある。現在放送中のスーパー戦隊シリーズ『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(テレビ朝日系にて、毎週日曜午前9:30~放送中)だ。
怒涛の伏線回収によって多くの謎が解明されたとはいえ、このドラマは謎だらけだ。第44話では、戦隊チーム内で正体不明だったイヌブラザーが、実は指名手配され逃亡中の犬塚翼(柊太朗)だと発覚。また、この回で戦隊チーム6人全員が揃って変身したのだが、これは放送開始以降11カ月目で初(!)というトンデモ展開になっている。
【主な登場人物】
◆ドンブラザーズ
◆脳人(ノート)
ドンブラザーズの敵勢力のひとつで、人間には認識不能の高次元世界に住んでいる。過剰な欲望を持った人間の波動を受けると脳人の世界が揺らいでしまうため、そのような人間を排除するために人間界に派遣された。
ソノイ
リーダー格。優雅な物腰で、キザな性格。タロウが言った「おでん」に興味を持つ。
ソノニ
紅一点。人間の「愛」に関心を抱き、欲に溺れた人間を「可愛い」と言い、見守る。
ソノザ
粗暴だが仕事には誠実で、容赦なく敵を攻撃する職人気質。
◆獣人(ジュート)
脳人が住む異世界「イデオン」をかつて統治した一族・ドン王家が創った人工生命体。人間をコピーして成り代わり、世界を侵食する。人間と脳人の世界双方を滅ぼす存在と恐れられている。
しかも、雉野つよし(鈴木浩文)は“正義の戦隊”の一員・キジブラザーであるにも関わらず、愛する人を奪われた悲しみと怒りから、ヒトツ鬼(人間の欲望から生まれるモンスター)に闇落ちしてしまう。
一方で、ドンブラザーズの敵勢力だった脳人(ノート)3人衆は、今や「おでんに夢中」「恋愛に夢中」「漫画に夢中」と、人間界に馴染みまくり。人間以上に人間らしくなり、ドンブラザーズとも仲良し……。
その上、ここにきて新キャラが何人も登場。残り数回で話をどうまとめるのか。本作の東映プロデューサー・白倉伸一郎氏に、気になる疑問をぶつけた。(全3回の2回目/ 1回目 を読む)
■戦隊チーム内の不倫関係も臆さず描く
──『ドンブラザーズ』では、三角関係、四角関係、ともすれば不倫に見える恋愛が描かれています。これまでのスーパー戦隊シリーズでは、このような恋愛模様はあまり見かけないと思うのですが……。
白倉P シリーズ全体でいうと、『鳥人戦隊ジェットマン』(’91~’92)では、戦隊チーム内の三角関係や、敵幹部に元恋人が……というドロドロ恋愛を、延々とやっています。ただ、これはレアケースですね。
──今回は、1人の女性をめぐって、戦隊チーム内の2人が争います。
白倉P 人物設定の話になりますが、ドロドロ恋愛劇の要になるのは、戦隊チームの犬塚翼(イヌブラザー)です。
彼は逃亡者なので、基本的に単独行動です。でも、本当に勝手気ままに行動してしまうと、他の登場人物とは関係しないことになる。それは、さすがに我々も困るんです(笑)。
──話が回収できないですね。
白倉P ですから、犬塚と他のレギュラー登場人物とのリンクをつくっておく必要がありました。
ただし、単に仲がいいだけではドラマにならないので、恋愛要素を入れて、「犬塚翼の行方不明になった恋人・夏美」=「雉野つよし(キジブラザー)の愛する奥さん・みほちゃん」となりました。これは放送開始後、第5~6話あたりで追加された、後付けの設定です。
■戦隊メンバーの「妻」がストーリーを牽引
──物語が終盤に近づくにつれ、敵味方を超えた愛憎のもつれに発展しています。
犬塚と雉野、そして夏美とみほ。さらに、ソノニ(脳人の紅一点。人間の愛に関心を抱く)も加わって、5人の糸が絡み合うという。見ていると一瞬、スーパー戦隊シリーズであることを忘れそうになります(笑)。
【解説】戦隊チーム内のドロドロ三角関係、脳人を巻き込んだ四角関係
犬塚翼の元恋人・夏美と、雉野つよしの妻・みほ(いずれも新田桃子)は瓜二つだが、みほは犬塚のことを知らない。そこで雉野家を訪れた犬塚は、雉野夫妻の前で、かつて夏美と交わしていた合言葉のようなセリフ「……等(など)と申しており」を呟く。
その瞬間、みほの表情が一変。夏美としての記憶を取り戻し、犬塚と共に逃げ去る。残された雉野は心に闇を抱え、人形を「みほちゃん」と呼ぶホラー展開に。さらに、脳人(ノート)のソノニが登場。夏美に一途な思いを寄せる犬塚に関心を抱き、彼に近づくが……。
白倉P 確かに、彼らの恋愛パートは、当初の想定よりもだいぶ太い軸になっています。
普通のスーパー戦隊シリーズは、チームメンバーの5~6人がメインストーリーを引っ張っていくんです。でも、初めは「ピンク戦士の家族」というポジションだった雉野の妻が、話の中心になってしまうあたり、『ドンブラザーズ』の恐ろしいところですね。
■対立構造をあえてはっきりさせない
──もうひとつ気になったのが、スーパー戦隊シリーズの柱である「ヒーローVS敵」という善悪構造の描き方です。
『ドンブラザーズ』では話の中盤以降、ドンブラザーズのメンバーが、敵勢力だったはずの脳人とずいぶん仲良くなっていますね。
白倉P 脳人の世界は、人間の波動で成り立っている設定です。脳人は人間を家畜のように管理する立場である一方、人間がいないと生きていけない存在でもあります。
だから、脳人は人間を嫌ったり憎んでいるわけではありません。人間に対する“執着”が強いんです。
■脳人はどんどん人間臭くなっていく
──では、最初から「脳人=人間の敵」という対立構造を描くつもりではなかった?
白倉P そうですね。『ドンブラザーズ』では、「スーパー戦隊VS敵」というくっきりとした境界線を引いていません。
ソノイたち3人は人間界に派遣されますが、人間らしいモノの見方や、人間的思考をだんだん身につけていくんですね。これは、猫を飼っている人がニャンニャン言葉で話すようなもので、脳人たちはある意味、どんどん人間臭くなってきているんです。
■「敵が味方に」関係が変わるプロセスを描きたい
──『仮面ライダー』シリーズでは、敵と味方が明確に分かれていない作品も多いと思います。でも、スーパー戦隊シリーズはこれまで、「正義が巨悪を打つ」のがお約束でした。
ここまで関係性が複雑で、敵が味方になるような作品は珍しいのでは?
白倉P 「敵が味方になる」という展開は、脚本の井上さんの特徴だと思います。
くっきりはっきり分かれている関係って、ドラマ的にはあまり面白くないんですよ。我々が暮らしている日常生活でも、「敵/味方」や「上司/部下」など、全ての役割が明確に分かれているわけじゃないでしょう。グレーの部分も多々あると思うんですよ。
──今は多様化の時代で、男性が女性の役割を担ったり、その逆もありますよね。
白倉P 男女関係、恋愛関係は特に複雑ですよね。好きな者同士でも、すれ違いがあったり、くっついたり離れたり。
だから、普通の人たちの人間関係が変わったり、元に戻ったりするのと同じように、ドラマの中でもさまざまな人たちが絡み合い、ときどき敵になったり、味方にもなっていきます。
■敵も味方も一枚岩ではなく、個々で影響し合う
──ドンブラザーズと脳人の関係も、こっちの2人は仲がいいけど、こちらは険悪……という感じで、かなり複雑ですね。
白倉P あまりゴチャゴチャにすると、視聴者の皆さんがついてこれなくなるので、複雑さの加減には気を付けています。『ドンブラザーズ』は1~2週見逃すと、話がわからない……としたくなかったので、そこはゆるやかに「人間と脳人が仲良くなってきたね」という印象になるよう、調整してきました。
──それにしても、相関図を見るとどんどん込み入ってきた気がします。これは、ドラマのスタート時から予定していたことですか。
白倉P 当初からではないですが、第5~6話くらいの時点で、「どこまで風呂敷を広げて、どう畳もうか」を考えたうえで、ここまで進めています。
方針やキャラ設定は少しずつ変えていますが、ここまでは概ね、規定路線通りに進行しているんですよ。たくさんあった伏線もかなり回収していますし、最終回までには全てが納得できる形に収まる予定です。
「地球のために立ち上がれ、と言われてもねぇ…」人類の運命を背負う戦隊ヒーローに抱く“ウソ臭さ”の正体《ドンブラザーズは「戦いを強制しない」》 へ続く
(田幸 和歌子,前島 環夏/Webオリジナル(特集班))
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