光石研『デザイナー 渋井直人の休日』の“おじさんドリーム”にゾワゾワする理由

光石研『デザイナー 渋井直人の休日』の“おじさんドリーム”にゾワゾワする理由

“1人頑張るおじさん”を演じる光石研 ©文藝春秋

 さて、ここで問題です。近くにいると鬱陶しいのに、テレビ画面で見るとつい癒されてしまうものってなんでしょう。

 キーボードに乗ってくる猫? 恋愛トークを繰り広げる女子高生? ベッドにもぐりこんだ大型犬?

 正解は「わちゃわちゃするおじさん」です。

■おじさんドラマのバブル到来か?

 昨年の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系列)大ヒットを受け、ドラマ内でおじさんの価値が急上昇した感がある2019年。冬ドラマでは退職刑事の西島秀俊、小日向文世、野口五郎、角野卓造、近藤正臣らがシェアハウスに住み、新人刑事とともに事件を解決する『メゾン・ド・ポリス』(TBS系列)や、閉ざされた空間に浜野謙太をはじめ、終始おじさんばっかり出てくる『面白南極料理人』(テレビ大阪制作)など、おじさんをフィーチャーした作品もスマッシュヒット。

 また、4月からは天海祐希兄さんがコワモテ刑事を率いる『緊急取調室』(テレビ朝日系列)の新シーズン、高橋一生、斎藤工、滝藤賢一が揃う『東京独身男子』(テレビ朝日系列)、さらに西島秀俊と内野聖陽が同居カップルを演じる『きのう何食べた?』(テレビ東京系列)もスタートし、まさにおじさんドラマのバブル到来といった感も。

■52歳独身、フリーランスデザイナーの日常

 そんなわちゃわちゃしたおじさんたちがドラマシーンを席巻する中、なんとも言えないおサレ感と気恥ずかしさとをミックスした世界観を背負い、1人頑張るおじさんが存在するのをご存知でしょうか。

 ドラマ『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京系列)で描かれるのは、52歳独身、フリーランスデザイナーの日常。渋井直人を演じる光石研は、これが連続ドラマ単独初主演。ストレートに切り揃えたまことちゃんばりの前髪とマーガレットハウエルっぽいダッフルコート、対照色のマフラー、足元はクラークス、手には白地のキャンバストートと、抜け感満載のファッションで抜け感満載の休日を過ごします。

■「恥ずかしい」「ゾワゾワする」とのご意見も

 このドラマ、視聴者の感想がばっさり分かれているのがおもしろい。渋井直人のライフスタイルや独特のモノローグを「可愛い」「親しみやすい」「ずっと眺めていたい」と肯定的に捉える層もいれば、「痛い」「恥ずかしい」「ゾワゾワする」とのご意見も。

 前者はそのまま素直に見ていただくとして、後者の「恥ずかしさ」「ゾワゾワ」の正体が気になるところです。

 ドラマの設定上、渋井直人の年齢は52歳。1966年生まれと考えれば、浪人せず4年制大学卒業で就職した時、世の中はまさにバブルの最終章。クリエイティブ職にとって、今の100万倍はイケイケだった時代。

 そこから約4年、ギロッポンでチャンネーとシースーという中山秀征的な、もしくは元麻布の隠れ家イタリアンで読モとティラミスといった石田純一的なバブルは崩壊し、その後社会に出た若者たちは「ロストジェネレーション」とも呼ばれて、時代はティラミスからもつ鍋へ。

 渋井直人はバブル最終章に若手として師匠や先輩たちから足蹴にされ、やっと独り立ちして自分の名前で仕事ができると思った矢先にバブルが崩壊しちゃったトホホな人じゃないかと思うのです。バブルからロスジェネへの切り替え時にイロイロこじらせてしまった世代のクリエイター。

■女性たちは、どこかみんな“記号”っぽい

 そのこじらせを振り切るかのように、現在の彼の日常は「こだわり」に満ちています。自宅も併設する事務所ではおもにミッドセンチュリーの家具を揃え、アナログレコードを駆使してのDJプレイ。行きつけのカフェにはハンドドリップが得意な店主がいて、店内には古書とアナログ盤がぎっしり。あ、当然アイドルも押さえてますよ。推しは欅坂46の渡辺梨加ちゃん、Tシャツだって持ってるし。日常の行動範囲は目黒区と世田谷区、たまに渋谷区。下北沢は雑多な街だけど、最近はオーガニックワインと季節のフルーツを使ったパフェを食べさせる店もできたみたい。

 ……うん、これはゾワゾワする。

 さらに、渋井直人が約1話ごとに恋をする女性たちは、どこかみんな“記号”っぽい。ムサビに通うひる美、アーティストの夢子、インスタで知り合ったmiyukibeef、昔の仕事仲間のチワワ、小料理屋で出会い、一夜を共にした(?)カモメ。彼女たちに共通するのは20歳以上年下でどこか不思議ちゃんモード&自分が優位に立てるという点。なんだ、この一昔前のおじさんドリームは。

■おじさんって「教えてあげる」の好きですよね

 おじさんドリームといえば、忘れられないのがあの“大炎上”です。2017年に雑誌『GG』が創刊される際、当時の編集長で『LEON』等、多くの雑誌を手掛けた名物編集者・岸田一郎氏が某所に発表したナンパ指南のコラム。いわく(&意訳)「美術館にはおじさん好きの不思議ちゃん女子がたくさんいるから、いろいろレクチャーしてあげよう」「一緒に焼肉を食べる時は牛肉の部位を女の子の体をツンツンして教えてあげよう」とバブルモード全開でぶち上げたところ、「気持ち悪い」「普通にセクハラ」「バカじゃないの」とSNSは大火事に。

 その火がくすぶったまま、2018年に『GG』版元は倒産し、当然雑誌も休刊という哀しい結末を迎えました。それにしても、ある年代以上のおじさんって「教えてあげる」の好きですよね……頼まれてもいないのに。

『デザイナー 渋井直人の休日』から醸し出される恥ずかしさやゾワゾワする感じって、このあたりにあるんじゃないかと思います。今どきのおサレ感を前面に出しながら、無意識にバブルを引きずっている渋井直人のメンタリティ。さらに自分が優位に立てる二けた年下の相手しか選ばない恋愛観。むしろ裸足に革靴、国分寺のパチンコ店の看板で笑っているバブルの化身・石田純一師匠の方がわかりやすくて清々しい。

■ビール片手に眺めながら、ほっと一息つきたい

 また、これまで決して「おしゃれ」キャラではなく、どちらかというと泥臭い方向で売ってきた光石研が渋井直人を演じることで、作品に必要な痛さや気まずさが自然に生まれている気もします。さらに、渋井を冷静な目で見つめるゆとり世代のアシスタント・杉浦ヒロシに、どこかイケてない風情の岡山天音をキャスティングしたことで、杉浦が視聴者の思いを代弁する構図もきっちり成立。

 確かに今のドラマ界のトレンドの1つは「おじさん」ですが、そこにおサレ感や恋愛モードを求めていない女性視聴者は多いはず。それより画面の中でわちゃわちゃするおじさんたちをビール片手に眺めながら、ほっと一息つきたいのです。だってほら、現実世界でつき合うおじさんたちは、ドラマの中よりずっとメンドクサイ存在だったりしますから。

INFORMATION

『デザイナー 渋井直人の休日』
テレビ東京 毎週木曜深夜1時〜
https://www.tv-tokyo.co.jp/shibuinaoto/

(上村 由紀子)

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