こんな時だから……カープファンに捧げたい「ゆるいカープCM」の歴史

こんな時だから……カープファンに捧げたい「ゆるいカープCM」の歴史

カピバラ三兄弟の次男・大瀬良大地 ©文藝春秋

“初の文春野球コラム1行目”

 この12文字にこんなにも時間を費やすとは予想だにしなかった。1イニング12失点。今まさにテレビ画面には延長戦で12失点というNPB記録を更新したカープと、酸欠に喘ぐ鯉のように口をパクパクさせているファンの姿が映し出されている。

 ファンの怒号は分かる。しかし今は『耐えて勝つ』を座右の銘としたV1時代の名将・古葉竹識監督の言葉を胸にチームもファンもセ界王者らしく気分転換を図る、ゆとりと癒しが必要だろう。今回はそんな鯉党に向けた癒しのコラムテラピーを目指してみたい。

■全国区になった『ゆるい選手CM』の癒し

 劣勢続きの試合も多いが、今年のカープ観戦には癒しが生まれた。全国の視聴者が観るBS中継に広島ローカルのゆるいCM『カピバラ三兄弟(今村・大瀬良・一岡)』が流れることだ。

中国電力CM カープ「カピバラ三兄弟 草原の支配者編」15秒

 多チャンネル時代はついに広島特有の『カープ選手×ゆるい広告』という独自文化を全国に運び始めた。実は広島エリアではレギュラーに定着していない選手も売れっ子タレントばりにCM起用されており(※表参照)昼夜さまざまなメディアで露出。これが熱狂的なカープ愛と人気選手を生み出す一助となってきた。

 なにせ街ですれ違えば道をあけてしまう屈強な大男たちが、カピバラと呼ばれたり、ゆるい踊りを披露したり、ママチャリに乗って眼鏡を買いに行ったりする。この大いなるグラウンドとの“ギャップ萌え”は好感と親近感を呼び、その感情は球場での歓声となって選手らに降り注ぐという好ループを生んできたのだ。

 CMだけではない。カピバラ兄弟の次男・大瀬良大地の『県民税』のように、東京だとオスカープロモーションあたりの美少女が起用されるであろう公共広告もカープ選手が代々引き継いでいる特性がある。

 例えば、前田健太は『許すな!自転車盗難』という県警の広告、丸佳浩は『薬物は?(バツ)!! 僕は〇(マル)!!』というダジャレに二度見してしまう危険ドラッグ禁止の広告、最近だと下水流昂の『広島の外野は下水流が守る。広島の浸水は下水道が守る』という抜群にゆるい下水道局の広告がそれだ。

■若手のCM起用はカープのお家芸だった

 これは今に始まったことではない。山本浩二や衣笠祥雄らが牽引した黄金期、日清食品の「出前一丁」のCMは広島エリアだけカープ若手選手らが出演。しかも挿入歌を彼らが歌いレコードデビューをするという珍事を起こしているし、広島ぐるみで一軍半の選手らを様々なメディアに起用し、浩二や衣笠に次ぐ人気選手を郷土ぐるみで輩出していた。

 伝説の炎のストッパー津田恒美もその一人だった。入団前に勤めていた企業「協和発酵」が彼をテレビCMに抜擢し、まだ背番号15番時代に「シマヤだしの素」も広告に起用。「うまさの快速球」というコピーと共にカピバラ三兄弟ばりの小動物のような“ツネゴンスマイル”を振りまき、炎を纏うマウンド姿とは別人の素顔を県下に伝播させ人気選手となっていったのだ。

 そして、野球殿堂入りも果たした名左腕・大野豊も若手時代からCMに起用された。しかも当時なら誰もが知るメーカー「サンヨー」の新型ラジカセの広告塔という大抜擢だ。写真を見ればお分かりのように、当初、大野は満面の笑みでこの起用に応えた。

 この爽やかな笑顔が気に入られたのか、彼は次なる『JJ』という新型テープレコーダーの広告塔にも抜擢。もちろん彼は「僕はグラウンドでもJJを楽しんでますよ!」と言わんばかりの笑みで爽やかに広告におさまった。

 しかし、それから広島ローカルCM特有の『ゆるさ』が徐々に彼を襲い始める。その後、ユニフォーム姿でJJを楽しむ大野は、グラウンドを飛び出し、スタンドの客席、公園、街中と違和感あるシチュエーションに行かされ始め、明らかに彼の顔から笑みが消え始めたのである。

 そして気づけば、大野はユニフォームを脱がされ、事もあろうに『JJ』と印字されたTシャツを着せられ、仏頂面で街路樹の下を闊歩するという大よそ野球選手には見えない演出の餌食となるのである。

 さすがにこの『JJのTシャツ』には、当時、子供だったワタシも爆笑したが、こんな仕事も真面目に受けている大野豊を大好きになり、それまで以上に彼の登板が待ち遠しくなったのもこれまた事実なのである。

■ゆるい若手CMの先にある未来。悲観せず前へ。前へ。

 このようにカープは、広島という土壌の中で県政と企業が一枚岩となり若手選手を売り出してきた歴史がある。この文化はカープが日本球界初の『トランペット応援』『室内練習場』『外国人監督の登用』『遠征道具の車両運搬システム』『背番号0番』などを生み出してきたオリジナリティに匹敵する誇らしい文化だとワタシは思う。どうか全国のカープファンの皆さんは、メディアがどんなに『V率0%』などと書き立てようと、その言葉に踊らされず悲観せず、メディアの中に突如現れるゆるい選手CM≠ノ癒されつつ、、選手愛とチーム愛を持続・再燃させてほしいと願うのである。

 まだまだペナントレースは長い。『日本一“日本一”から遠ざかっているカープは“日本一”を日本一楽しめる』。その言葉を、ゆるく噛み締めて。

写真提供/桝本壮志

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(桝本 壮志)

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