スワローズ公式ダンスチーム「Passion」の元リーダー・彩友さんが語る“背番号1”への思い

ヤクルトスワローズのダンスチームPassionの元リーダー彩友さん「背番号1」を語る

記事まとめ

  • 東京ヤクルトスワローズのダンスチームPassionに所属していた彩友さんが感謝を語った
  • 彩友さんは昨シーズン限りでPassionから去り、新たな道を歩み出している
  • 「チアは身体を使う仕事で、必ずいつかは終わりが来るもの」と辞めた決意を明かす

スワローズ公式ダンスチーム「Passion」の元リーダー・彩友さんが語る“背番号1”への思い

スワローズ公式ダンスチーム「Passion」の元リーダー・彩友さんが語る“背番号1”への思い

昨年まで、東京ヤクルトスワローズ公式ダンスチーム・Passionに所属していた彩友さん ©長谷川晶一

 昨年までの8年間、雨の日も風の日も、大勝の日もボロ負けの日も、いつも神宮のグラウンドで、常に笑顔とともに懸命にダンスを披露していた元Passionの彩友さん。今回は彼女に対する感謝とエールを綴りました!

■Passion元リーダー・彩友さんの言葉

 尋ねたのは、「8年間の活動期間において、楽しかったこと、辛かったことは?」という質問だった。その答えはとてもシンプルだった。

「8年間、本当に毎日が楽しかったです。……辛かったこと、うーん、辛かったこと……。……ゴメンなさい、辛かったことは本当に何もありませんでした(笑)」

 2011(平成23)年の結成当時から、昨年までの8シーズンにわたって、東京ヤクルトスワローズ公式ダンスチーム・Passionに所属した彩友さんは屈託なく笑った。チームが14年ぶりに優勝した15年シーズンからはリーダーとなり、以来4年間、神宮球場を彩る華となってチームを鼓舞し、ファンを盛り上げ続けた。その彩友さんが昨シーズン限りでPassionから去り、新たな道を歩み出すこととなった。

「特別な理由があって、Passionを辞めたわけではないんです。そもそも、18年シーズン公式戦が終了した時点では、“来年も続けよう”という気持ちでした。でも、クライマックスシリーズが始まるまでの数日間に考えが変わりました。さっきも言ったように、辛かったことは何もないし、毎日がとても楽しかったんですけど……」

 では、どうして彼女は新たな道を踏み出す決意をしたのか?

「チアというのは身体を使う仕事で、必ずいつかは終わりが来るものですよね。現に初年度から続けているのはもう私一人になっていましたから。もちろん、まだまだ身体は動くし、毎日が楽しいから、今年も続けたいと思っていました。でも、今の私がこのまま続けていても、これから技術的に大きく進歩することはないとわかっていました。そして、いつかは終わりがくるのなら、次のステージに向けて、今このタイミングで新しいことを始めてみてもいいのかな、そんな思いで決断したんです……」

 彩友さんの言葉を聞いて、僕は自分が誤解していたことに気がついた。今、僕の目の前にいる女性は「チアリーダー」であると同時に、「アスリート」であることに僕は気づいていなかったのだ。ずっとヤクルトファンだったけれど、正直なことを言えば、僕はチアの存在を強く意識したことはなかった。神宮球場に行くたびにPassionの華やかなダンスや、イニング間に行われる観客とのミニトークはいつも目にしていた。それでも、僕にとって、メインはあくまでも「選手」であり、「チア」ではなかった。彩友さんにインタビューを続けていて、僕はずっと居心地の悪さを覚えていた。

(ごめんなさい、8年間ずっと神宮で僕たちファンのために一生懸命踊り続けてくれていたのに、僕はそれを日常の光景の一つとして、そこにあるのが当たり前のものだと感じていました……)

 こんな心境のまま、インタビューは続いた。

■ダンス少女がPassionメンバーになるまで

「生まれも育ちも、石川県小松市です。ダンスを始めたのは小4の頃でした。近所のダンススタジオに入ったのがきっかけです。すぐに夢中になったので、その後もダンスを続けて、高校時代からは友だちとユニットを組んで大会で優勝も経験しました。大人になってもずっとダンスにかかわって生きていくこと。それが、当時の私の夢でした……」

 地元・金沢の大学に通うか、それとも実家を離れて関西、あるいは東京に行くか? 迷った結果、彩友さんは上京することを決めた。そして、大学生のときに東京のスタジオに通い始め、本格的にダンスと向き合い始めることになる。

「大学時代に通っていたスタジオの先生のつながりで、いろいろお仕事を紹介してもらったり、オーディションを受けたりすることが増えました。たとえば、横浜スタジアムで行われたTUBEさんのライブのバックダンサーを務めたこともあります」

 彩友さんの人生が大きく動き出すのは10年11月のことだった。このとき、彼女の下に「あるオーディション」の知らせが届いた。

「このとき、私の下に《関東某球団ダンサー募集》という知らせが飛び込みました。それまで私は野球のことは何も関心がなく、知識もありませんでした。せいぜい、小学校、中学校の頃に好きだった人が野球部でピッチャーだったことぐらい(笑)。ただ、10年シーズンから仲の良かった友だちが福岡ソフトバンクホークス・ハニーズのメンバーになっていたんです。そんなこともあって、この頃には野球に関心が出てきたし、野球のチアに対する興味も芽生えていました」

 オーディション会場に到着して初めて「関東某球団」が「スワローズ」のことだと知らされた。ヤクルトに関する知識はほとんどなかったけれど、書類選考も即興のダンステストも最終面接もクリアして見事に合格。彩友さんは晴れて初代Passionの一員となったのだった。

■「もう一人の」背番号《1》の存在にようやく気づく

 Passionの活動を続けていくうちにすぐに「スワローズ」というチームに魅了された。好きな選手もたくさんできた。現在はソフトバンクに在籍している川島慶三、同郷である大松尚逸や谷内亮太、「笑顔がステキな」雄平……。多くの選手の名前が挙がる中で、「あえて一人に絞るとすれば?」と問うと、彩友さんは笑顔で応える。

「やっぱり、青木(宣親)選手ですね」

「どうしてですか?」と、その理由を問う。

「Passionメンバーには、それぞれ背番号が与えられるんですけど、私は1年目からずっと背番号《1》でした。当時、青木選手も《1》だったので、勝手に親近感を抱いていたんです。Passionが結成されてすぐ、神宮球場のグラウンド内でメンバーやスタッフさんと写真撮影をしていたときに、青木選手が“背番号《1》は誰なの?”って声をかけてくださって、“頑張ってね!”って言ってもらったことがあるんです。そんなこともあって、青木選手はずっと応援していました。その青木選手がヤクルトに戻ってきた年が、私の最後の年だというのも、縁を感じています(笑)」

 この言葉を聞いて、僕がずっと抱いていた「違和感」は最高潮に達した。僕は決定的に勘違いをしていた。かつて、背番号《1》を背負っていた若松勉に憧れて以来、池山隆寛、岩村明憲、青木宣親、そして現在の山田哲人まで、僕は歴代の「ミスタースワローズ」と呼ばれた背番号《1》の男たちが大好きで、彼らを懸命に応援し続けてきた。だからこそ、青木がメジャーに行った12年から、山田がこの番号を背負う16年までの4年間のことを「背番号《1》の空白期間」だと、僕は考えていた。

 でも、この期間も、神宮球場には確かに背番号《1》が存在していたのだ。雨の日も風の日も、大勝の日もボロ負けの日も、いつも神宮のグラウンドで、常に笑顔とともに懸命にダンスを披露していた背番号《1》がいたことに、どうして僕は思いを馳せることがなかったのか? 僕は拙著、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)において、「背番号《1》の系譜」という物語を書いた。執筆当時はまったく頭になかったけれど、僕の目の前にいる彩友さんもまた、「背番号《1》の系譜」に連なる大切な存在だと、遅ればせながら気づかされた。改めて、彩友さんは言う。

「8年間ずっと背番号《1》だったので、この番号にはとても思い入れがあります」

 インタビューの最後は、みんなへの感謝の言葉が続いた。

「スワローズファンの方は、いつもとても温かく私たちを見守って、そして応援してくれました。歴代の監督、コーチ、選手のみなさんが、日々チームのために熱いプレーを見せてくれ、逆に私自身も大きなパワーをいただきました。そして、歴代のPassionメンバーたちにもとても感謝しています。つばみちゃんは私にとって、もはや『相棒』というべき存在です。関係者のみなさんにも、本当にお世話になりました。とても楽しかった8年間でした。本当にどうもありがとうございました!」

 彩友さんのいないPassionの19年シーズンが始まった。現在のメンバーにも、それぞれ背番号が与えられているが、背番号《1》は空白のままだ。それが、前任者である彩友さんに対する敬意の表れなのかどうかは、僕にはわからない。今後はMCなど、「しゃべる仕事を中心に活動していきたい。そしてまた野球やスワローズに別の形でかかわりたい」と、彩友さんは言う。もうひとりの背番号《1》である彩友さん、8年間どうもありがとうございました。彼女の第二の人生に多くの幸せが訪れますように。今度は、僕らファンが彼女にエールを送る番だ。

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(長谷川 晶一)

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