「神武以来(このかた)の天才」加藤一二三の奇癖とは

「神武以来(このかた)の天才」加藤一二三の奇癖とは

ネクタイがトレードマークだった加藤一二三 ©文藝春秋

 好々爺の風貌とはミスマッチな挙動と高速の喋りでウケている加藤は、14歳7カ月でプロ棋士デビュー、17歳にして公式戦優勝。「神武以来の天才」と評された。20歳で大山名人に初挑戦。82年には中原誠名人と激突。引き分けとなる持将棋一回、試合が無効となる千日手2回。通常七番の勝負が十番までもつれた末、名人を奪取した。

 加藤は奇癖の持ち主として知られる。対局ではベルト下20センチまでネクタイを垂らす(一説では闘志の現れ)。駒を音高く打ち込み、空咳を繰り返す。やおら立ってズボンをグイグイずりあげる。とにかく長く考える。考える最中もじっとしていない。相手の背後へ回り込んで盤面を眺めたかと思えば、記録台や盤の位置をいちいち直す。2003年、対局室に入るや加藤は盤を好みの位置へ移動させようとした。対局者と押し問答となったが、相手が折れた。すると加藤は「妥協は勝負師にあるまじき振る舞い」と反駁(はんばく)。途方に暮れた相手へ、クリスチャンである加藤は「かかる時こそ神の御言葉に」と天井を仰ぎ、クジ引きで決めようと提案したという。

 数々の逸話での白眉は、78年、中原誠との棋聖戦だろう。庭が自慢の旅館天成園で対局中、流れる滝音が加藤の耳に障った。パッと顔を上げた彼は即座に滝を止めさせたのだ! 全ての奇癖は彼が求める最善手のためというが、凡人にとって天才は永遠の謎である。

かとうひふみ
1940年、福岡県生まれ。史上初の中学生棋士としてデビューし、2017年の引退まで棋界を席巻。現在テレビ等で活躍。

(岸川 真/週刊文春 2018年5月3・10日号)

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