【日本ハム】「4割打者・近藤健介」について考えているうちに台湾に飛んでいた

【日本ハム】「4割打者・近藤健介」について考えているうちに台湾に飛んでいた

©文藝春秋

■近藤健介と「4割打者」をどう結びつけるか

 スポーツメディアが「4割打者・近藤健介」をあい次いで取り上げ始めた。5月も終わりになるのにコンスケの打率が落ちないのだ。5月23日現在、4割2分を依然キープしている。もちろんパの打率部門1位だ。いや、2位ソフトバンク・内川聖一(.350)、3位西武・浅村栄斗(.339)だってめちゃくちゃ打ってるというのにその上を行っている。ファイターズは開幕以来、チームが低迷してるから、スポーツ紙の「打撃30傑」のいちばん上にコンスケが載っているのが心の支えだ。

 が、「4割達成可能か?」を論じられるのも大変だろうなぁと思う。5月21日のオリックス戦ではついに4打席連続四球(しかもノースイング!)という事態に至った。ちなみに打率4割維持の球団記録は1973年の張本勲、46試合だそうだ。これは更新がかなり現実味を帯びてきた(本稿執筆現在、42試合維持)。

 NPB記録は1989年のクロマティ(巨人)の96試合である。クロマティは遠くかすんで見えないなぁ。その89年クロマティですら3割7分8厘でシーズンを終えているのだ。「4割打者」のハードルがいかに高いか。NPBシーズン最高打率は、もちろん1986年バース(阪神)の3割8分9厘だ。コンスケはイチローすら到達し得なかった高みを目指す「挑戦者」として持ち上げられている。

 ファンとして正直な気持ちを申せば、無茶言うなよ、である。大変誇らしく光栄なことではあるけれど、そうやって重圧かけられてもロクなことにならない。そっとしといてやってほしい。そっとしといてくれたら案外、誰にも気づかれず4割残すかも。まぁ、それは無理な相談かなぁ。ヒザが悪くて苦しんだ去年を見ている立場からすると、万全の体調で野球やってくれてるだけで嬉しいのだ。第一、本人の口から「シーズン4割を目指します」なんて一度も聞いてない。

 僕は「4割打者」と「近藤健介」を自分のなかでどう落とし込んだらいいか考え込んだ。本音はあくまで「無茶言うなよ」だが、それはそれでコンスケの可能性にフタをすることになる気もする。そんなこと言ったらファイターズ自体が「無茶言うなよ」の連続だ。「北海道移転」だって「これからはパ・リーグです!」だって、もちろん「二刀流」だって無茶そのものだ。

 問題は「4割打者」像がうまく結べないのだった。見たことないしなぁ。イメージ上の「4割打者」はタイ・カッブだ。タイ・カッブは嫌われ者だったらしい。記録への執念が常軌を逸していた。勝つためには手段を選ばない。ダグアウトでわざと見えるようにスパイクの歯を研いで、殺人スライディングを印象づけたのは有名な逸話だ。眼が悪くなるとして、現役の間、一本も映画を見なかった。近藤健介はそんな極端な人間じゃないもんなぁと思うのだ。愛称も「コンスケ」とか「コンちゃん」だ。親しみやすい。ちょっと対極ではないか。

 と、そこまで考えてタイガーエアに乗って台湾へ飛んだ。それなら実際の「4割打者」をこの目で見て来ればいい。Lamigoモンキーズの背番号9、王柏融がいるじゃないか。

■CPBL新時代に君臨する「大王」

 王柏融は23歳、大卒3年目の外野手。181センチ90キロと体格にも恵まれ、2年目の昨シーズンは打率.414、200本安打のCPBL新記録を達成。MVP、新人王、首位打者等のタイトルを総ナメにした。今年のWBC壮行試合には台湾代表として出場、則本昂大(楽天)からバックスクリーン直撃の2ランを放っている(本大会には不出場)。今シーズンも4割を打ち、首位のLamigoモンキーズをけん引している。これまで複数のNPB球団がスカウトを派遣していると聞く。

 Lamigoの本拠地、桃園市は台北市の西隣りに位置する。スタジアム、桃園国際棒球場は今年、完成されたばかりの桃園メトロで「桃園体育園区」駅下車すぐ。礒江厚綺さんという日本人の広報担当が日本語公式ツイッターやフェイスブックを充実させてくださってるので、旅行者も情報入手が容易だ。また桃園メトロは現在、Lamigoモンキーズ観戦帰りの乗車無料サービス(チケット半券と乗車証を見せる)を実施していて、非常におトク感がある。

 CPBL(中華職棒=台湾のプロ野球団体)は初めて見に行った。Lamigoモンキーズの前身は2006年、ファイターズがアジアシリーズで戦った「La Newベアーズ」だ。あのときも「球迷」(中国語で野球ファンの意)と呼ばれる熱心なファンが東京ドームに押しかけた。ごきげんな奴らだった。僕らハムファンは水道橋の居酒屋で大いに歓待したものだ。その後、台湾球界は八百長騒動に揺れ、低迷期に入る。そして、ようやくその低迷を突破する勢いを見せているのがLamigoの人気爆発だ。

 王柏融のバッティングはWBC壮行試合でも見て、今はネットに映像も上がってるからイメージがあった。台湾球界らしいハードヒッターだ。打席の印象は岩村明憲っぽい。まぁ、方向性としては柳田悠岐(ソフトバンク)か。面白いことにLamigoはユニホームに名前と背番号だけじゃなく「愛称」がついている。王柏融は「柏融大王」(ボーロンダーワン。名前の「王」から転じた)。CPBL新時代に君臨する「大王」というわけだ。

 試合は21日の富邦戦だった。前日、「大王」は300本目となるヒットを放ち、CPBL史上最速300本安打記録を塗り替えている。開幕以来、4割2分台をキープしているのは我が近藤健介と同じだが、この日はあいにく当たりがなかった。コンスケもそうだけど、4割打ってると3打数1安打でも打率が下がってしまうのだ。とんでもない話だ。

 まぁ、「大王」のクリーンヒットが見たかったが、バッティングの感じはよくわかった。第1打席、センターフェンス際まで運んだ大飛球もバットが押し込めていた。スケールの大きなバッターだ。センター中心に弾き返す印象だが、押し込む技術が身につけばもっとホームランが増えるだろう。

■2人の4割打者を比較してみると……

 2人の4割打者を比較すると、近藤はポイントを呼び込んでいて、インサイドアウトのスイングだ。基本は左中間の長打だろう。いちばんの長所は軸がぶれないこと。王柏融はポイントが前にある。アメリカや日本でやれば変化球に手こずると思う。が、センスは感じる。西武やロッテ、阪神が関心を持ってるようだが、21世紀の「王選手」としてスターになり得る存在だ。

 が、そんなことより僕は桃園国際棒球場でカルチャーショックを感じていた。ひとつには有名な「ラミガールズ」(CDデビューも果たした人気チアガール)の先導で球場全体が踊る応援風景(しかも、ロッテやハムのチャンステーマをブラッシュアップした選曲あり)だが、もうひとつは4割打ってる王柏融にどんどん勝負に行く台湾の野球スタイルだ。

 だって去年、4割打って今も4割超えてるバッターですよ。日本の感覚なら「4打席連続四球」でおかしくない。四球が多い(選球眼がいい)ことは率を残すことにつながるが、一方でなかなか打たせてもらえないなか調子を維持する苦労がある。去年は柳田悠岐がそれで苦しんだ。台湾にはそれがないようだ。

 僕はまさにこれが見たかった。「4割打者」が野球文化のなかでどう位置づけられているか。避けるべき存在か嫌悪すべき存在か。突然変異なのか技術的必然なのか。CPBLは打撃主体のリーグなのだ。元々、大らかな国民性を背景に1990年のプロリーグ発足からその傾向があったが、低迷期脱出をはかる今はもっとだ。勝負を避けない。力と力。真っ向対決なのだ。

 「4割打者」は単純な打撃論では語れないと思う。王柏融と近藤健介、2人の左打者の技術自体を比較してもあまり意味がない。(大げさな物言いだが)それをどう許容し、あるいは忌避する社会かを考える必要がある。王柏融は打って打って、記録を勝ち取る世界にいた。我がコンスケはしのいでしのいで、どうにか崩されず記録を残す世界にいる。それはどっちが上でどっちが下という話ではない。

 (やはり大げさな物言いだが)近藤健介は社会を変え得るだろうかと思う。ファイターズの歴史のなかで「これからはパ・リーグです!」の新庄剛志、「二刀流」の大谷翔平がそうであったように、野球の力で人々の意識が変えられるだろうか。帰国便のなかでそれを思った。野球はやっぱり素晴らしい。

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(えのきど いちろう)

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