尾崎世界観「悔しさを小説にぶつけるしかなかった」――阿川佐和子のこの人に会いたい 前編

尾崎世界観「悔しさを小説にぶつけるしかなかった」――阿川佐和子のこの人に会いたい 前編

©文藝春秋

ロックバンド・クリープハイプのフロントマンのみならず、作家として小説『祐介』をヒットさせた尾崎さん。新刊『苦汁100%』での絶妙な言葉選びの秘密、日本のバンドシーンを取り巻くいびつな状況もうかがいました。

◆ ◆ ◆

■いまのバンドはフェスで盛り上がってないと、売れていないと思われてしまう状況なんです。

阿川 今回、初めて尾崎さんがボーカル&ギターを務めているバンド・クリープハイプの曲を聴かせていただいたんですけど「すげえ」と思いました。

尾崎 ありがとうございます。

阿川 なんか聴いたことがある声だなと思ったら、映画『百円の恋』の主題歌だった「百八円の恋」もクリープハイプの曲だったんですね。いまさらで大変失礼いたしました(笑)。さらには文章のほうでも活躍されていて、昨年出版された処女小説『祐介』は5万部に迫ろうとしていると聞いてます。ちなみに音楽のほうはどのくらい定期的にライブを?

尾崎 ツアーがある時はまとめてライブがあるんですけど、ない時でもいまは1年中フェスがあるんですよ。

阿川 フェス?

尾崎 何組ものアーティストが集まるイベントですね。大きいフェスだと、ステージがいくつもあって同時に色んなバンドが演奏しているので、お客さんはその時間ごとに観たいバンドのところに行ったりするんです。

阿川 ひとつのフェスには同じような音楽ジャンルのアーティストが集まるんですか?

尾崎 僕たちの場合はロックフェスですけど、その中でも種類があって、騒ぎたい人が行くようなロックフェスもあれば、静かに聴きたい人が行くようなものもあるんです。

阿川 尾崎さんはどこら辺に?

尾崎 その中間あたりにいるような気がします。ワーッと騒ぐわけでもなければ、ゆっくり聴くジャンルでもなく。

阿川 そういうライブ活動、フェス活動はもう何年くらい?

尾崎 フェスに出られるようになったのはメジャーデビューをしてからなので、この5年くらいですね。お客としても昔から行ってみたかったんですけど、機会がなく、そうすると自分が出られないのに観るのは悔しいと思ってさらに足が遠のきまして(笑)。結局、初めて行ったのは自分たちが出演したときでした。

阿川 出てみていかがでした?

尾崎 1万人以上のお客さんの前で演奏することもあるので、現実感がなくなるような凄い感覚を得られるんですけど、一方で、ロックフェスってけっこう薄っぺらい感じもしてしまいますね。

阿川 薄っぺらいんですか?

尾崎 僕はそう思っています。バンドも人を集めるために有名な曲ばかりやるし、CMとか予告編みたいですね。ちゃんとしたワンマンライブとは違うかなと思います。

阿川 つまりそのバンドのダイジェストみたいな……?

尾崎 そんな感じです。ただ、いまのバンドはフェスで盛り上がってないと売れていないと思われてしまうんですよ。本来ならバンドの音楽の本質を見てもらうべきところなのに、人を集めて、みんなが手を挙げたり飛び跳ねたりしている空間を作らないといけない。自分でもその矛盾は分かっているんですけど、情けないことに、自力がないから出ないわけにはいかないんです。出ないと忘れられていくといいますか。

■多くのバンドがインパクトの強いことをするので。

阿川 でもクリープハイプはコマーシャルソングになったりしてるし、好調なんじゃないんですか?

尾崎 いいほうに変わっている実感もあるんですけど、だんだん古くなってしまうような感覚もあって……。

阿川 古くなる? メジャーデビューからたった5年で?

尾崎 バンドのシーンは早いんです。どんどん新しいバンドが出てきて、ファンも移っていく印象があります。バンドもいまは新しいこと、変わったことをしようとすることが多いですね。

阿川 たとえば?

尾崎 変なバンド名にしたり、変わった曲を歌ったり。みんながインパクトの強いことをするので、だんだんファンのほうもその刺激に慣れて、より強い刺激を求めるんです。僕は単純に音楽がやりたいだけなんですけど、そういった状況の中で音楽性だけで戦っていくのは難しくて、新しい武器を獲得したいと思って文章に手を出したところもあります。ちょうど一昨年くらいにいま話したような悩みが深くなって、歌をうまく歌えなくなってしまいまして。

阿川 体調が悪くなったんですか?

尾崎 いえ、病院に行っても、喉には異常はないと言われるんです。でも歌うと声が詰まってしまい……。

阿川 気持ちよく歌えない?

尾崎 はい。ちょうど夏フェスの時期だったんですが、歌えないからお客さんも盛り上がらないし、SNSにも「全然声が出ていない。あいつ、なんのためにやってるんだ」と書かれたりしていてどんどん落ち込んでいるとき、その少し前に「小説を書きませんか」と誘ってもらっていたことを思い出して、楽曲作りは少し置いて、家で小説を書いていました。

阿川 小説を書くのは初めてだったんですか?

尾崎 初めてです。音楽雑誌でちょっとした文章を書いたことはありましたが、音楽が上手くいかない分、なんとか別のところで表現したいというか、悔しさを小説にぶつけるしかなかったんです。当時は音楽に触れられないくらいきつかったですね。

阿川 音楽が怖くなっちゃったみたいな感じですか?

尾崎 怖いといいますか、音楽はすごく大事だし、好きな分うまくいかない時の落ち込みが大きかったんです。小説を書くことでなんとかしてバランスを取ろうとしていました。音楽だけじゃ立てないので小説を杖にするという感じです。

阿川 小説を書いてみて音楽のほうはどうなったんですか?

尾崎 ちょうど小説が出たあたりから状況が変わって、音楽のほうも良くなっていきました。書きあがって本になったことが自信になったんだと思います。でも、小説を出してから本屋に行くのがちょっと怖くなりまして。

阿川 怖い? どうして?

尾崎 『祐介』は装丁が目立つピンクなので、平台に置いていなかったりするとすぐに分かるんです。あと、小説コーナーに置いてもらえると嬉しいんですが、音楽コーナーにあることも多くて。

阿川 私もタレントコーナーに小説が置かれたときに、「なんか複雑」って思ったけど……(笑)。

尾崎 そうですよね(笑)。小さいころから本屋に行くのが好きだっただけに、ちょっといまは行きづらくなっているのが寂しいですね。

■周りと同じじゃ面白味がないので、アコースティックギターを買った

阿川 あ、本は昔から好きだったんですか?

尾崎 はい。国語以外の勉強はできませんでしたけど、幼いころから父親が難しい本を読ませて「ここ、どういう意味かわかるか」と聞いてくるんです。答えられないと、「どうしようもないな」と言われて、ここはこういう意味なんだ、主人公はこういう心情なんだぞと教えてくれました。

阿川 解説してくれたんだ。元々はお父さんが本好きだったんですか?

尾崎 ええ。本好きだし、話も上手でした。父は板前をやっていて、新橋の和食料理屋に電車で通っていたんですけど、帰ってくるとその日の出来事をよく話してくれるんです。憶えているのが、「帰りの電車で中年の夫婦がいて、奥さんが真っ青な顔をしてると思ったら、いきなり旦那に向かって吐いてしまった」と。大人の世界ではこんなことがあるんだと衝撃を受けました(笑)。

阿川 どうして子供に向かってそんな話を(笑)。

尾崎 父は母親に話しているつもりで、子供には内容までは分からないと思ってたんでしょうね。そんな話を聞いていると、電車に乗れるような年齢になれば世界が広がって色んなことが起こるんだと考えるわけです。小学生なんて駄菓子屋と学校と公園くらいしか行く場所がないから、早くこの時期が終わればいいのにと思っていました。小学生なんてつまらないなって。

阿川 あら、ませた小学生だったのね(笑)。音楽を始めたのはいつからなんですか?

尾崎 中学2年生のときに自分の貯金の中から1万円くらいの安いギターを買いました。周りがみんなエレキギターなので、じゃあ自分はアコースティックギターにしようと思って。

阿川 みんなと同じにするんじゃなくて?

尾崎 それだと面白味がないだろうなと。でも一向にみんなと同じように弾けなくて。おかしいと思っていたら、ギターのコードの押さえ方が載ってるタブ譜という楽譜があるんですが、僕は1弦から6弦まで逆に見ていたことに1カ月くらい気づかず(笑)。

阿川 アハハ、誰かに教えてもらおうとか考えなかったんですか?

尾崎 はい、全く。音楽の場合、完全な正解がないから自由なんだと最初から考えていました。押さえ方が間違っていても「いいな」と感じれば成立してしまいますから。いまだに僕は正しい押さえ方じゃないところがあると思います(笑)。

阿川 プロなのに(笑)。最初は誰かのカバーをやったりするんですか?

尾崎 アコースティックギターだったので始めは、ゆずのコピーをしていました。当時友達と2人で路上ライブを浅草でやったりしてたんですよ。

阿川 え、中学生が浅草で?

尾崎 はい。ちょっと怖い気持ちもありましたが、聴いてくれるお客さんの中には「ちょっと買い物してる間、この子見といて」と言われて1000円を入れてくれる人がいたり(笑)。

阿川 子守り代わりに(笑)。

尾崎 ええ。その子も退屈そうにしているから、「何が聴きたい?」と聞くと「エリック・クラプトンの『いとしのレイラ』です」と返されて、いや、歌えないわ、と(笑)。

阿川 ハハハ、粋な子供(笑)。

(後編に続く)

おざきせかいかん 1984年、東京都生まれ。4人組ロックバンド・クリープハイプのボーカル&ギターとして活動。2012年にメジャーデビューを果たし、14年には武道館2デイズ公演を成功させる。16年、半自伝的小説『祐介』で小説家デビュー。最新シングルの「イト」は公開中の映画『帝一の國』の主題歌となっている。新著『苦汁100%』(小社刊)が発売中。

(「週刊文春」編集部)

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