ライオンズファンを二分する「1番・金子侑司を我慢できるか問題」について

ライオンズファンを二分する「1番・金子侑司を我慢できるか問題」について

2017年に撮影した室内練習場の壊れた網戸(※ウチの敷地でウチのゴミを野ざらしにしたら何か問題でも?) ©フモフモ編集長

 我が埼玉西武ライオンズは働き方に関して大変に先進的な球団です。一般のサラリーマンにおいては有給休暇という当然の権利を行使することさえ遠慮してしまうブラック日本社会にあって、我が球団の選手たちはもらった権利は確実かつ迅速に行使します。そこには「俺がいなくなるとみんなが困ると思うし……」みたいな湿っぽさは一切ありません。むしろ、「みんな」のほうが「FA権獲得おめでとう」「俺もすぐ行くよ」「他球団で会おうぜ!」と背中を押してくれるムードさえあります。

 毎年のように働き方(※年俸、気が滅入る職場周辺環境、会社からの不本意な評価、社宅がホーンテッドマンション、室内練習場の壊れた網戸が何年も放置されている、職場の近くには休憩できるカフェもない、ネンイチくらいで謎の群馬出張に行かされる、投手陣炎上による恒常的残業、野手陣の逆転しない程度の反撃による恒常的残業、職場が暑い、職場が寒い)を改革していく選手が現れるなか、今季終了後には秋山翔吾さんが働き方を改革する見込みです。

■来年の今頃、秋山翔吾さんはメジャーの空の下

 秋山さんは来年はもう西武にはいないでしょう。複数年契約の打診を断って迎えたとされる3年契約の最終年。秋山さんは待ちに待った海外FA権をあと100日ほどで取得の見込みです。昨年末の契約更改で掲げた今季のテーマは意味深な「挑戦」。渡辺久信シニアディレクターの「今のところ、どこに行きたいとかはなかった」という説明は、「移籍の希望は今のところナイ」という意味ではなく「とにかくココから出たいというのが本心であって、どこに行きたいとか選り好みするつもりはナイ」という意味で受け止めるべきもの。

 若いファンはそれでも薄ーい希望(※オリックスファンが一応優勝を期待するような気持ち)を抱いて、各選手のオフシーズンの動向を見守ります。しかし、ベテランファンほど知っている。過去の先輩たちは引き留めようが引き留めまいが結局出て行ったことを。「出る」は決定事項で、「どこへ」は二の次。直接の理由は「交渉中に球団職員の着メロが鳴った」とか何でもいいのです。心はとうに決まっているのですから。

 FAまでの残日数をにらみながら選手はじょじょに笑顔をにじませ(※埼玉西武を出る喜び)、ファンはその選手のグッズを権利取得の2年前くらいから買わなくなる(※すぐに使えなくなるから)。球団もそんなファンのために、ユニフォームに入れる名前と番号はアイロンで圧着するタイプを用意してくれています(※あとで剥がせるように)。それは西武おなじみの光景。何年も前から約束されていた別れなのです。

 ただ、それは決して悪いことばかりではありません。必ず出て行くとわかっていればあらかじめ準備もできます。埼玉西武ライオンズは「森友哉はあと4年で嶋の後釜として楽天に国内FAか……」「そろそろウチも後釜を決めないとな……」「よし、新しいキャッチャーを補充しよう(※コーチ契約の元捕手を育成契約で再雇用)」とかを先んじて検討できるのです。「残留する?」「残留しない?」の不透明さが一切ないからこそ、的確に次の手が打てるし、余計に金を払いすぎることもないし、新しく獲った選手が飼い殺しにもならない(※育成失敗で見殺しになるパターンはよくあるが……)。「雇用の流動性」が担保されているのです。言うなれば流しそうめんの「とい」みたいなもので、通過するだけで決して留まる場所ではない球団。そうめん並みの流動性!

■秋山の穴を秋山で埋められるのは今年まで

 2019年、その「あらかじめ準備」に相当するのが「1番・金子」です。

 開幕から「あらかじめ秋山の穴埋め」として1番に起用された金子侑司さんは、その起用の是非をめぐって、ファンを賛成と反対で50対950に二分しながら奮闘をつづけています。もちろん、昨季までは球界を代表する1番バッターとして秋山翔吾さんがつとめていた打順ですから、物足りなさは否めません。「秋山を1番に戻してくれ……」「金子は厄介な9番でいいんだよ……」「たとえば二死走者ナシで9番・金子の打席とするやん? 次は1番・秋山やん? 金子でアウトになってイニングが終わっても次の回秋山からで好打順やん? 金子が間違って出塁したらすぐ盗塁して二死二塁で秋山やん? 盗塁失敗しても次の回秋山からで好打順やん? どう転んでもイヤやん? そういうことやぞ」という手厳しい意見は、心ないインターネットでも散見されます(※詳しくは「金子 1番」で検索!/検索ワードにわざわざ「限界」「無理」「反対」などを入れなくても検索結果には勝手に反対意見が並ぶので大丈夫です)。

 しかし、課題とされる打撃面は決して『不調』というわけではありません。オープン戦は『確変』レベルでいいデキでしたが、4月までの打撃も『絶好調』を維持し、5月に入っても『標準』レベルで推移しています。「ゴールデンウィークはしっかり休む」というホワイト信念のもと、5月に入ってからは30打数3安打(※5月8日時点)と多少数字を下げたものの、それでも.284という3割に迫る数字を記録しています(※出塁率だけど)。これは昨年111試合での通算である.303とほぼ同等の数字(※もちろん出塁率)。「3割打者」として自分のチカラはしっかりと発揮しています。

 そして、自慢の足は光り輝いています。2016年に残り4試合時点で戦線離脱となるも、同数で並んでいた糸井嘉男さん(当時オリックス)がその後1個も盗塁成功しやがらないという僥倖に恵まれて獲得した盗塁王のタイトルは伊達ではありません。ミタパンのお父さんはそれでは納得しなかったのかもしれませんが(※ミタパンのお父さん野球に詳しい説)、まぎれもないプロ野球のタイトルホルダー。今季もすでに盗塁15個(※DeNA球団全体での数の倍!)と断トツの成績を残しています。5月にいたっては7試合消化時点で3安打2四球ながら盗塁4つという異次元の「足」を見せつけ、盗塁王へとひた走っています。さすが応援歌でも「走れー金子ー」と歌われ、「打て」の歌詞は一切含まれないだけのことはある! 200安打できたら250盗塁くらい決めそう!

 確かに我慢の時間ではあります。

 しかし、今はまだ「1番・金子」の物足りなさを「我慢」するだけで済んでいる。「ほっといたら来年は秋山の穴でこうなるんだなぁ」と思いながら、じっくりと穴埋め策を模索することができる。来年、手当て不能な絶望に急落するのではなく、「秋山を戻そうと思えば戻せる」という保険をもった状態で模索をつづけることができる。戻すのは簡単ですが、「秋山の穴を秋山で埋める」ことは来年はできないのです。「秋山が残留するかも」は期待度ゼロですが、「金子が覚醒するかも」はゼロではないでしょう。ゼロじゃないからファンも二分されているのです。埼玉西武ライオンズは未来への一歩を踏み出さなくてはならない。誰よりも早く。秋山さんがいない2020年へのリードオフを。

■我慢はトコトンまでしてこそ意味がある

 我慢はトコトンまでしてこそ意味があります。「可能性」を残したままだと、迷いが生じますよね。自分が今ガッチリつかんでいるものは「藁」なんだと納得しなければ、一度手放しても再度つかんでしまうでしょう。「これは藁!」と納得するまで信じつづけなければ、ここまでの我慢も無に帰すというもの。トコトンまでやりきってこそ、新しく次に握ったモノ(※山野辺翔、愛斗ほか)を信じてみる気にもなりますし、ダメだったときに我慢もできるのです。だって、先に投げ捨てたほうは確実に藁だったのだから。

 薄ーい光(※オリックスがCSに出るかもしれないという数字上の可能性のようなもの)も見えています。

 開幕戦で金子さんが見せた、ソフトバンク・今田美桜の初球を微動だにせず見送るバツグンの選球眼は、キャリアハイのペースで四球を生み出しています。とにかく1球でも多く相手投手に投げさせるのだという意識は、早打ちが性分のバッターに粘りを与え、「初球ポップフライ」から「三振」へとデフォルトの結果を塗り替えてきています。1番らしい仕事をしようと進化をつづけているのです。「1番は出塁するのが仕事であって球数とか盗塁はサブ的要素……」などという正論は、球場本体にはロクすっぽ手を加えず周辺の売店等を建て直すことをして「メットライフドームエリアの改修計画」であるとのたまっている球団には許されません。できることを身の丈でやるしかないのは、改修計画も、金子さんも同じでしょう。メインはそう簡単には直らないのだから、サブで頑張るしかないじゃないですか。

 思うような打撃が見せられない日にも(※客としては思ってたとおりだが)、バットを地面に叩きつけたくなる衝動を必死でこらえる金子さんの姿。5月3日の日本ハム戦、一度は振り上げたバットを背中で止め、両手で握ってゆっくりと下ろし、静かにベンチに帰ったあの背中。道具への八つ当たりで気持ちよくなるのではなく、金子さんは我慢をつづけています。その背中を見て、辻監督も心で振り上げたバットを止め、ファンもまた心で振り上げたバットを止めるのです。これは生みの苦しみであり、誰を1番に入れたとしても経ることになる時間です。みんなの我慢です。それを、2019年から始められたのは埼玉西武だからこそ。

ソフトバンク・今田美桜の外角へのボール球をしっかりとノースイングで見逃した金子さん

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「バットのせいじゃなくて自分のせい」とこらえた翌日、5月3本目のヒットはサヨナラタイムリー! よく走った中村、役目に徹した外崎、打った金子! みんながヒーローだ!

■「我慢できる? できない?」ではなく、我慢するのだ!

 ファンを賛成と反対で50対9950に二分する「1番・金子を我慢できる? できない? 問題」は、埼玉西武ライオンズが持つ強みの証です。他球団ならこの「我慢」にトライすることもできなかったでしょう。「柳田はいないものとして来季の戦力を整える」なんて周到な準備は、いかなソフバンでさえしていないはずです。育成から周東佑京(※金子の上位互換)とかが出てくるので準備を考える必要もないっちゃないのでしょうが、我々埼玉西武とは穴埋めへの覚悟が違う。ウチは「来年開く穴」が事前にわかっている未来予知球団ですから!

 どうぞ他球団のみなさん、「1番・金子」の今後にご期待ください。そして、埼玉西武ライオンズ一同が心で振り上げているバットの我慢強さにご注目ください。我々がそれをズドンと振り下ろすのは、「完全に諦めた」その1回だけです。「2割7分くらい打って、3割3分くらい出塁して、長打はないけれど足でそれを補い、最終的に女子アナと結婚するイケメンの盗塁王、1番・金子」のロマンはまだ諦める段階ではありません。つかめば溺れる藁だと納得できるまで我慢しなければ、気持ちよく投げ捨てられない希望です。

 完全に諦めるまでやり切ってこそ来年、「提携するニューヨークメッツに秋山翔吾が移籍し、十亀剣もFAでどこかに行っちゃったことで戦力ダウンが懸念される西武ですが……」という野球ニュースの分析を鼻で笑いながら、「我々はこうなることを3年前から知っていた……」「十亀の件は戦力ダウンというほどでもない……」「秋山が同一リーグ他球団に行かなかっただけ例年に比べれば相対的にプラスと言える……クックックッ……」と振る舞えるのです。穴が埋まらないまでも、埋めようとはしてきたという納得感で。

 我慢できる? できない? ではなく、我慢するのだという覚悟。

 完全に「藁」だと納得できるまで徹底的に我慢する覚悟。

 獅子が千尋の谷に我が子を落とすのは、その結末を最後まで見届ける覚悟があればこそ。

 僕と辻監督(※「つじ」は一点しんにょう)は最後まで1番・金子を我慢する覚悟です!

 辻監督(※「つじ」は一点しんにょう/面倒なので「辻」に改名希望)の我慢に僕は最後までついていきますよ!

 我慢イズ辻(※しんにょう)! 辛抱イズ辻(※しんにょう)!

 どれだけこの我慢をつづけられるかで2020年の埼玉西武ライオンズの浮沈が決まるのです! 我慢できなければ、「浅村の穴」も埋まらないなかで「秋山の穴」がそのまま残るのですから!

 どうしてもバットで何かを叩きたい衝動にかられたら、この下のほうにある野球ボールの画像でも叩いて我慢してください!

※編集部注:この原稿が入稿されたあと、5月9日の試合において金子侑司選手は今季初めてスターティングメンバーから外れ、途中出場で2打数無安打2三振に終わりました。

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(フモフモ編集長)

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