南伸坊、関川夏央、みうらじゅんが語らう「昭和のエロ」

南伸坊、関川夏央、みうらじゅんが語らう「昭和のエロ」

左から、イラストレーターの南伸坊さん、作家の関川夏央さん、ラブドールの絵梨花さん、漫画家のみうらじゅんさん ©石川啓次/文藝春秋

「昭和のエロ」をテーマに、「エロ」に様々な角度から関わってきた団塊世代3人、イラストレーターの南伸坊さん、作家の関川夏央さん、漫画家のみうらじゅんさんが語り合う。昭和のエロ雑誌編集の裏話から“熟女”に至るまで、抱腹絶倒の座談会。
(出典:文藝春秋2016年5月号)

■人間並みに弾力がある「絵梨花さん」

関川 編集部から、団塊世代の「エロ」について語れとリクエストされて、みうらさんの事務所に集まったんだけど。僕自身は若い頃からそっち方面には熱心じゃなくて、60代後半になってますます関心が薄れてきたんだね。テレビでベッドシーンなんか流れると、あえてトイレに立ったりチャンネルを替えたりするぐらいで。インターネット世代との感覚がどう違うかと言われても、ちょっと困る。

南 団塊世代はセックスが強いと思われてるからなの? 「週刊ポスト」「週刊現代」のセックス特集はもう3年ぐらいつづいてるかな。あれで週刊誌の部数が伸びたのは、団塊オヤジが買ってるからだ、ということになってる。

みうら 「死ぬまでセックス」特集の後で、「死ぬほどセックス」が出て来たのは笑いましたけどね(笑)。

関川 週刊誌の読者がそれだけ高齢化したってことだけど、あんまり部数は伸びてないんじゃない? ……ええと、みうらさんの隣に座っておられるのが……紹介して。

みうら 絵梨花さんです(笑)。

関川 70万円したとかいうラブドール?

みうら はい。アンダーヘアのオプションつけましたから73万円だったと思います。元祖ポルノ女優の池玲子と同じところにホクロがどうしても欲しかったから、そこはサービスで左の頬に打ってもらいました(笑)。

南 ホクロはサービス(笑)。

関川 皮膚の感じはどんな具合?(絵梨花さんの太腿に触る)……ああ、これはすごいな。

みうら シリコン製ですから人間並みに弾力はあります。このメーカーはオリエント工業という最大手で、電機業界でいえばパナソニックみたいな安心感が売りなんです。

南 安心感(笑)。いいなぁ、みうらさんは。いちいち発言がすばらしい(笑)。メーカーごとにカラーがあるの?

みうら 革新的な技術を次々と生み出すメーカーもあって、そっちはかつてのソニーですね。いろいろな部分の取り換えが可能だったり。

 でも、これを買うには70万円じゃ済まないんですね。嫁子がある人は自宅に置けないでしょ。仕事場みたいな部屋がないと。それに、持ち主は自分が逝った後のことを考えちゃいますから。取扱説明書には「里帰り」という制度が記載されてて、メーカーに送り返せば供養してくれるらしいです(笑)。

■エロ・スクラップは450巻超え

関川 みうらさんは僕らより一世代下だけど、週刊誌の「死ぬまでセックス」特集は読んだりするの?

みうら 送られてくるのは読みますけど、中高年向けのせいか、その義務感ぽさがどうも勃(た)つことと違うような。

南 グラビアのヌード写真も、昔のアイドルとか女優とか、“懐エロ”だもんね。

みうら 若い人たちはもうエロは雑誌に頼ってませんからね。だって、インターネットでエロ画像やエロ動画がタダで見られるんですもん。自分が中学生、高校生だったら当然ネットを見ますね。わざわざお金を払ってヌード写真を見るなんて、お父さんに「贅沢だ!」って叱られますよ(笑)。僕の場合は、ヌード写真を切り抜いて「エロ・スクラップ」を作っているので紙媒体じゃなきゃ困るんですが。

関川 そのエロ・スクラップは何冊ぐらいになっているの?

みうら とうとう450巻を超えました。「ガロ」で漫画家デビューした1980年に始めたので35年貼り続けてます。

南 初めは漫画の資料として、真面目にスクラップしてたって。

みうら そうなんです。漫画家が自動車や飛行機の写真を集めるのと同じ感じで。でも、そのうちに、ただ貼っても面白くないから、水着のモデルがいる砂浜にバイブレーターの小さな広告写真を切り抜いて落としてみたんです。そうしたら突然ストーリー性が出てきてグッときました。

南 このスクラップ開くと、左ページに雑誌のグラビアが貼ってあって、右ページにはエロ本の写真という構成なのかな。

みうら そうです。雑誌のグラビアだけじゃ高尚すぎるし、エロ本の写真だけじゃ全下品になっちゃいますから。

南 あはは、全下品(笑)。みうらさんはエロ本の編集に不満があって「俺ならこうする」ってスクラップしてんのかと思ったけど、何でもスクラップするのが好きなんだよね。紙へのこだわり?

みうら 紙はダニくらい好物ですね(笑)。小学一年のときから貼ってた怪獣の写真がエロに代わっただけで、スクラップ帳もずっと同じコクヨのラ─40ですから(笑)。

■熟女のほうがいい

関川 エロ本屋ってまだあるの?

みうら かなりエロ本屋はヤバくなってますね。仕事場を引っ越してきたのも、近所にいいエロ本屋があったからなんですが、ここ数年でバタバタと潰れて。一生つづけられる趣味だと思ってましたけど、怪しくなってきましたね。

 いまは神田の古書街に2カ月に一度ぐらい行って、1万5000円ぐらい大量買いしてきます。よく知られる老舗の芳賀書店も、もうほとんどDVD屋ですから。エロ本コーナーは本当、小さくなりました。種類も減って、どこの店も同じエロ本しか置いてませんから。それに、販売部数が減ったから値段は上がっちゃって。本当、絶滅状況です。

関川 お客さんは中高年?

みうら そうですね。平日の昼に行くと、暇そうな中高年がメインです。エロ本は基本、ビニールに包まれてますので中身を見ることはできず、老眼鏡を上げ下げして表紙や裏表紙の小さな写真で判断するしかないんです。エロ透視術でね。そこまでやっても買わない人は、きっと家に持って帰れない事情があるんでしょう。ラブドールと同じで、自宅とは別に部屋がないと、男は本当の自由にはなれないなぁって(笑)。

関川 スクラップを見てると、熟女が多いよね。若い女の子にあまり関心がないのは年齢のせいかな。

みうら ここ数年でグッと熟女寄りになりました(笑)。

関川 僕も熟女のほうがいいね。自分も年を取れば、相手も年を取らないと。いまの女子高生なんかにはどうも不潔感がある。

みうら エロの対象も年齢が上がれば上がるほど平和です。年齢相応に上がらない人がロリコン趣味で捕まっちゃう時代ですから。

関川 渡辺淳一先生は最後まで抵抗しておられたのかな。

みうら やっぱ、「死ぬまでセックス」には、イカなきゃいけないつらさがありますからね。別に男はもうイカなくていいじゃん、って思いますよ。

■エロ雑誌編集者の能力はすごかった

関川 南さんがエロ本業界の名編集者たちを書いた『さる業界の人々』は1981年の刊行だから、これも35年前。

南 たまたま友だちがそういう業界にいて、僕もエロ雑誌で仕事してたから、いろいろ裏話を聞くと面白いんですよ。

 まだヘアも禁じられた時代で、いろいろ工夫しましたね。例えば、わき毛や胸毛がいいんならって、女の子の裸にあちこち毛を貼る。で、剃っている股間にも貼る。もし警察に呼ばれて「これは何だ」ってなったら、「いや、ここも貼ってあります。安心してください」って(笑)。警察の人も「いろ〜んなこと考えるな」って(笑)。

関川 工夫する人たちだね。僕も同じ頃にエロ漫画誌の編集をしたことがあるからわかるけど、みんな仕事熱心でしたよ。それもユーモアと余裕のある熱心さ。

南 80年代に「さぶ」っていう同性愛者向け雑誌で挿絵の仕事してたことがあるんですよ。小説の挿絵。ここで描くということは、そういう人たちが喜ぶような絵描かないといけないと思うじゃない。だから、それ用の写真集見ながら真面目に写実的な絵を描いてました。ところが、隣で描いているナベゾ(故・渡辺和博氏 イラストレーター、エッセイスト。著書に『金魂巻』など)の見たら、いつもの絵のまんまでね(笑)。すぐに描き終わっちゃうんだよ。

みうら ペンネームはあったんですか。

南 いや、あの業界は、編集者が勝手にペンネームつけるんですよ。最初に頼まれたとき、「別に、本名でいいすよ」って言ったら、叱られた。出版ってのはそんなもんじゃない!って。意味わかんない(笑)。

関川 雑談しながらもテキパキ仕事する感じで、彼らの能力はすごかった。一途でも投げやりでもなく、ただおもしろく。

 いま、熟女の方々に多少興奮するのは、自分たちの加齢と、それから古い手づくり文化への郷愁かな。

みうら いまは熟女ブームといっても全然自分より若いですから。真の熟女ではありません。

■新しい技術はエロから始まる

関川 若い男の子は草食系でセクシャルじゃないらしいけど、僕らの思春期には、小説でも何でも「肉体」とつけば惹かれたんだよね。ラディゲの『肉体の悪魔』なんか最初はエロ本かと思った。

みうら 当然思いました(笑)。

関川 そうしたら、たんによい文学じゃないの。『肉体の門』にも非常にがっかりしたけど。

南 まだ何も知らないことが面白かったんだよね。知らないときは世界は無限だから。

みうら 本当はわからないものを知った気になっちゃったときに老化は始まるんじゃないかと思います。

関川 70年代、80年代はふつうの雑誌が元気だったから、エロ本もいろいろ工夫して存在感があったといえそうだね。左翼が元気だったから、右翼の存在感があったのと同じで。90年頃まで雑誌業界は不滅だと思われてたから、編集者は態度が悪くて、金づかいも荒かった。

みうら タクシー券の束を持ってましたもんね。

関川 70年代はまだ紙のエロ本業界がどこか貧乏臭かった。華々しい表の雑誌と違って。それが80年代になると、貧乏臭さが抜けちゃった。そこが寂しさを逆に誘うんだろうね。

南 ああ、そうかも。「GORO」とかね。ああいう80年代に売れた雑誌は、当然って心底思ってハダカ出してたんでしょ。あの辺りで変質したかもしれないですね。

関川 本当はエロなんだけど「うちはちょっと違いますよ」と言いたげなところが、逆に貧乏臭かった。

みうら その頃まで、アイドルの水着姿が見られたのは「明星」や「平凡」の夏号ぐらいでしたからね。

南 「近代映画」水着特集とか。

みうら ありましたね。「別冊スクリーン」とかね(笑)。グラドルなんて言葉はその頃なかったですから。

南 80年代初めのアダルトビデオが出はじめた頃だ。「洗濯屋ケンちゃん」とか。

みうら ビデオ登場でエロがゴロッと変わりましたね。僕がビデオデッキを買ったのも80年代でしたから。初めはソニーのベータを買うつもりだったんですが、電化製品屋でオヤジが「VHSだとこれをつけますよ」って裏から持ってきたのが「愛染恭子の本番生撮り」というビデオでね。そりゃ、あれでベータは完璧に負けですよ(笑)。

南 新しい技術ってたいていエロから始まるからね。写真も映画も、インターネットも全部そうでしょ。

みうら でも、パソコンやDVDはデータが飛べば、おしまいですからね。その点、紙のほうが生き残れる可能性が高いと思うんですが。

■エロは個人に属する物語――大量消費には向かない

関川 『さる業界の人々』に出てきたホモ雑誌の、「風と光とデブいやつ」ってキャッチコピーがおかしかった。

南 そっちの世界では、デブは肯定的要素だからね。“デブ専”っていまはフツーの人も知ってるけど。

関川 当時一番の人気が漫画家の滝田ゆうだったって(笑)。でも、限られた空間ではウケるだろうと想像できるけど、普遍的にはならないよね。セックスやエロは個人に属する物語だから。その意味では、「週刊ポスト」や「週刊現代」は無理なことをやっているのかもしれない。

南 結局そうなっちゃうよね。グッとくるものは、1人ずつみんな違うって。エロはもともと大量生産・大量消費に向かないんですよ。だから、パソコンのほうが向いてるんじゃないかな。それぞれの幻想に見合うもんじゃないと意味ない。昔は「風俗奇譚」とか「奇譚クラブ」とかあって、ものすごい趣味的な。ふつうのエロ好きは買わなかったわけじゃないですか。もともとエロ本というものが、そういうものなんだよ。

みうら 僕のスクラップも初めは私家エロ本だからオーダーメイド品だったんですけどね。

■隠されるから見たくなる――“禁ヘア法”を提案

関川 自分向けのオーダーメイドでも、グッとくる対象は日々変化するでしょ。先月のスクラップはまだ有効でも、1年前はどうだろう。

みうら まさしく。実際、古いスクラップはほとんど見直すことはありません。エロって生モノなので、「ああ、この人はもうこのスタイルでいない」って諸行無常感が(笑)。もう、これは100年後に柳田國男みたいな人に、民俗学として僕のスクラップを研究してもらうしかありません。

関川 35年の変遷なら研究に値するかも。今後まだしばらくお続けになる?

みうら どうしたいという考えはないんですけど、ただ、素材になるエロ本がどんどん衰退して完全に失われることが怖いです。

 いっそ1冊1万円で売ってもらったほうが続くんじゃないでしょうか? 1万円のエロ本のほうが当然いやらしいと思うわけですから。その熱量をお金に換算しないと。

南 1万円で買えば、1万円分は楽しもうとするね。

関川 昔は貧乏な青年たちが相手だったから、値段の限界があったけど、裕福な高齢者が相手なら違ってくるでしょう。それに、今後もエロ本を守っていくなら、逆にタブーをつくることも必要かな。

みうら やっぱり、ヘア解禁がまずかったということですね。

南 隠されるから見たくなるんだよ。赤瀬川原平さんが提案してたのは「うるう年だけ解禁する」法律、“禁ヘア法”。うるう年の1年間はすべて解禁して見せちゃう。その1年が過ぎたら、翌年から3年間は全面禁止。元旦から一斉摘発する。見つかったら死刑だったりするとさらにいい(笑)。

みうら 隠してある毛だから陰毛なんですよね。それがいまは隠してないから陽毛と呼ぶほうが正しいんじゃないですか。

関川 そうなると、ちゃんと取り締まってもらったほうがいいね。全員とは言わないまでも、一罰百戒で摘発する。「文藝春秋がヘア出して捕まったらしいぜ」って騒がれれば、エロ本の編集技術もまだまだ命を永らえるんじゃないかな。

出典:文藝春秋2016年5月号

南伸坊(イラストレーター)/関川夏央(作家)/みうらじゅん(漫画家)

( 「文藝春秋」編集部)

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