“妥協なき努力家”ホークス・東浜巨の理想と現実 故郷沖縄で何かをつかめるか

“妥協なき努力家”ホークス・東浜巨の理想と現実 故郷沖縄で何かをつかめるか

2017年に16勝を挙げて最多勝を獲得した東浜巨 ©文藝春秋

 スコアボードの一回裏に「6」が灯った。

 猛攻はなお続き、2回には松田宣浩とデスパイネに連続本塁打が飛び出した。ホークスは早くも9対1と大量リード。大型連休最終日だった5月6日のバファローズ戦だ。4万近い観衆を飲み込んだヤフオクドームは楽勝ムードに序盤は大いに盛り上がった。

 しかし、マウンドに立つ東浜巨は独り違っていた。

 そこに見たのは苦悩の表情だった。ボールが思うように操れない。調子が悪いなりに一生懸命投げているのは充分に伝わってくる。だけど、想いとボールのギャップが埋まることはなかった。

 エース級ならば楽々と長い回を投げてもらい、そのまま完投勝利をしてほしいくらいの試合展開だ。だが、4回、5回と失点してじわじわ点差が縮まっていく。結局、5回4失点で降板した。その後ブルペン陣の力投のおかげで東浜は勝利投手となった。前回から約1か月ぶりの今季2勝目だ。だが、喜びの感情が沸くはずもない。

 試合後、帰宅するところを待って取材した。マウンドで見たままの暗い表情だった。

「悔しいです。楽しみに試合を観に来てくれたファンに申し訳ない。悔しい思いしかないです」

 翌7日、出場選手登録を抹消された。

■ライバル関係の千賀とともに行った合宿

 2年前に16勝で最多勝を獲得。しかし、昨季は故障もあって7勝どまり。復活を期すシーズンへ相当な覚悟を持って、オフから入念な準備を行ってきた。今年1月、筆者はそれを間近で見て感じる機会を得た。

 かれこれ15年以上もずっと、年の初めは「鴻江スポーツアカデミー(KSA)」代表の鴻江寿治(こうのえ・ひさお)氏が主宰するトレーニング合宿の運営などのお手伝いをするのがライフワークとなっている。当初は参加選手2、3名だったのが年を重ねるごとに増えて、現在では10名近いプロ野球選手たちと約1週間にわたり朝から晩まで付きっきりの生活をする。こうなったのも、やはり千賀滉大の存在が大きい。まだ背番号128だったプロ1年目のオフから現在も毎年参加する。この合宿が<史上空前の大出世><世界のSENGA>の基盤となったことを球界では有名になっているからだ。

 今年、東浜も志願して初参加をした。正直、それは驚きだった。チームメイト同士が高め合うと言えば聞こえはいいが、プロ野球は強烈な個の集まりだ。現実はそんな美しいだけの関係性ではない。それは決して不仲という意味ではない。実際に彼らは良好な関係を築いている。それでも、年齢の近い二人は誰が見ても明らかなライバル関係であり、彼らの間には一定の緊張感が必ず存在するのだ。

 その違和感を1月の合宿の際に率直に問うてみた。東浜は笑い飛ばしながら答えた。

「僕は千賀と一緒にやるという認識ではなくて、鴻江先生に教わりたくて参加したんです。大学時代に先生が考案した『鴻江ベルト』を使用していたし、千賀がずっと通っていて良くなっていくのも当然見ていましたから」

 千賀の“庭”に飛び込んだわけじゃない――東浜の矜持が見え隠れした。一方で千賀も、東浜が参加すると知った当初はちょっと複雑だったようだ。その緊張感があってこそのプロ野球だ。心配など無用。二人のことがとても逞しく映った。

 このKSA合宿では自分の身体のタイプを理解し、それに沿った体の使い方、つまりフォームづくりを行う。東浜は確かな手応えを得ていた。

 これは楽しみなシーズンになる。期待という表現を超えて、確信に近いものを感じていた。

■良かれと思ったことがマイナスに働く“可能性”

 しかし、現実は違っている。

 ここまで6試合に先発して2勝1敗、防御率6.16。故障に泣いた昨シーズンでも103投球回で91被安打だったのが、今季はイニング数を上回る安打を打たれている。また、昨季32個だった与四球が今季は30.2回なのにもう17個に達している。

 オープン戦でも防御率6.75だった。宮崎キャンプの頃から、状態はあまり良くないように見えていた。

 その原因について、思い当たるフシはある。自主トレが終わってしばらくして、彼は「すごくいい勉強になった。ただ、全てを取り入れるのではなく、その中で東浜流のような形を作っていきたい」といった趣旨のことを話していた。

 東浜はとにかく妥協なき努力家だ。プロ1年目、真夏の雁の巣球場で毎日のように、そして他の誰より長い距離を走って汗だくな顔を見せていたのは忘れない。自分のレベルアップに繋がると思うことに対して、何を惜しむことなく実直に取り組む。だからKSA合宿だけでなく色んなことを見て、学んで、チャレンジしてきた。

 しかし、それが結果的にマイナスに働いたのではないかと想像する。

 例え話だが、料理をする時にあらゆる最高級食材を集めたとしよう。牛フィレ肉にフォアグラ、キャビア、大トロ、希少な有機野菜にマンゴー、ウニとイクラ……。では、最高の食材を全部混ぜて調理をしたら最高の料理が完成するのか? おそらく美味しくないと思う。

 結果的に現在の東浜は、以前の投げ方に戻しているように映る。ただ、一度壊した形は、なかなか元には戻らない。それが苦戦の原因になっていると考える。

 誤解をしてほしくないのは、東浜の取り組みを「失敗」と断じているわけではない。そもそも人生の挑戦に、最初から答えなんてない。何だってやってみなければ分からないのだから、チャレンジするこの志そのものを尊敬するべきだと思っている。

 だから、こんな指摘をすること自体が余計なお世話なのは筆者も分かっているつもりだ。しかし、良かれと思ったことがマイナスに働く“可能性”(あくまで可能性の一つ)があるとの事例を記録し、次世代に伝えることが今後の発展に繋がる。文春野球コラムはじつはプロ野球選手も目を通すと聞く。球界には「記録」として残されているものが意外と少ない。選手が進む方向を考える時の指標になれば……。だから東浜への非礼は承知のうえで、書かせて頂くことにした。

■故郷沖縄の舞台で再スタート

 21日、ホークスは沖縄セルラースタジアムで西武ライオンズと戦う。東浜は再び一軍に戻ってくる。そして先発のマウンドに上がる。工藤公康監督は故郷凱旋登板という特別な舞台を用意してくれた。芯が強く、実直な男がその心意気を感じないはずがない。

 沖縄の人は強い郷土愛を持つ。東浜もそうだ。ルーキーの頃には、西戸崎寮で新生活を始めるにあたり「そばにあるだけで心強いから」と大きなシーサーを持ち込んだ。現在は、練習で使用するグラブにシーサーをかたどったマークを刺繍している。

「沖縄の人たちはキャンプやオープン戦でプロ野球を見る機会はあるけど、公式戦はまた特別だと思う。スタンドでお酒を酌み交わしながら楽しむ野球って最高じゃないですか。楽しみにしていると思います」

 沖縄は16日にもう梅雨入りした。それでも平年よりも7日遅いという。

 2019年、梅雨、沖縄。

 とりあえず、苦しみの旅はもう終わった。一軍に帰ってくるのだから、そのはずだと信じている。

 愛する沖縄の人たちの前で、愛してくれる沖縄の人たちの為に必死に投げる。東浜巨はここからまた新たな野球人生の旅をスタートさせる。

 そして、沖縄開催でもう一つ言いたいことがある。工藤監督、今年こそは嘉弥真新也投手をマウンドに送り出してください。石垣島出身である彼の雄姿を楽しみにしている沖縄のファンがたくさんいるのだから。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/11688 でHITボタンを押してください。

(田尻 耕太郎)

関連記事(外部サイト)