「絶対面白いから読んで」……谷原章介がある時代小説にどっぷりはまった理由

「絶対面白いから読んで」……谷原章介がある時代小説にどっぷりはまった理由

映画で今津屋吉右衛門役を演じる谷原章介さん ©2019映画「居眠り磐音」製作委員会

 好評公開中の映画 『居眠り磐音』 。映画の公開と決定版の刊行記念に原作者・佐伯泰英さんと、映画に出演した谷原章介さんの対談が実現。原作の熱心な読者でもある谷原さんが、故人である児玉清さんの思い出と映画で演じた両替商・今津屋吉右衛門への想いを佐伯さんに打ち明けた。

※文春文庫 『居眠り磐音 寒雷ノ坂(二)決定版』 特別対談(上)より一部抜粋

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■原作ファンの人間としてのジレンマ

佐伯 先日、試写で映画を拝見しました。この作品はNHKでドラマにもなっていますが、映画は映画らしい、たいへん迫力のある仕上がりだと感じました。

谷原 作品の世界観は壊れていませんでしたか?

佐伯 壊れてません! むしろ、原作に忠実にすくい取ってもらった。僕は、映像は小説とは別のものだと思っているので、もっといじってもらってもよいと考えていますが、監督の本木(克英)さんや脚本の藤本(有紀)さんが驚くほど忠実に映像化してくださった。一方で映画でしか表現できない部分もたっぷりと味わえました。

谷原 それを聞いて、ほっとしました。やはり役者の視点で言いますと原作というのはある程度無視をして、飛躍しないといけないという思いはあるんですけれども、一原作ファンの人間としては、「いやいやこの大事な 『居眠り磐音』 の世界観を守ってくれ」という、ジレンマがけっこうあったんです。ここまで好きな作品の映像化に出させていただくということはなかったので。ただ、台本を読んで、原作をギュッと縮めただけでなく、違和感なくストーリーが繋がっていると思えたので、気持ちよく演じさせていただきました。

■蔵書で家の床が沈むほどの愛書家だった児玉清さん

佐伯 谷原さんは、僕の小説を読んでくださっているそうですね。

谷原 ええ。亡くなった児玉清さんに薦めていただいたのがきっかけで読み始めて、もうずっと、没頭して読んできました。

佐伯 僕は、児玉さんがお亡くなりになる晩年の5年ほど、深いつながりを持ったお付き合いをさせていただきました。2006年に、あるイベントからの帰りの電車で児玉さんと話したことがあるんです。その時、ちょうど『居眠り磐音』のドラマ化の話がきていて、どうしようかと思案していたら「ああ、それはよかったね。僕はあれが演りたいなあ、今津屋の由蔵(老分番頭)になりたいなあ」とおっしゃって。あれから13年ですか。ドラマを経て映画という形になった。児玉さんは2011年に亡くなられて、演じてもらうことはできなかったけれど、ご親交のあった谷原さんが今津屋吉右衛門を演じてくださった。感激しています。

谷原 児玉さんとは「トップキャスター」(2006年放送)というドラマで初めて共演させていただいたんです。児玉さんて休憩時間にちょっとふらっと出て行っては両手に紙袋を下げて帰ってくるんですよ。「何買っているんですか」と聞くと「本だよ」と。尋常じゃない量なんですね。フランス語の原書から時代小説、ちょっと硬めのノンフィクションも。「読めるんですか、これ全部?」と言ったら、「もうペラッと読んじゃう。僕1日に2、3冊くらい読んじゃうから」というようなことおっしゃって。

佐伯 蔵書で家の床が沈むほどの愛書家でしたからね。

■児玉さんが「絶対面白いから読んで」と

谷原 「どんなジャンルを読むんだい?」なんて言われて、「探偵小説も読みますし、時代小説も読みますし……」「お、時代物読むの?」「ある程度は……」と言ったら、「お薦めのがあるんだ。僕はね、今この時代小説にはまっているんだよ。佐伯泰英さんの『居眠り磐音?江戸双紙』、絶対面白いから読んで」と言われたのが、いまは無き渋谷ビデオスタジオなんですよ。それからどっぷりはまりました。

佐伯 そんな嬉しい言葉はないです。

谷原 児玉さんは由蔵とおっしゃってたようですが、僕は吉右衛門の方が絶対に似合うと思うんですよ、児玉さんは。

佐伯 そうなんですよ!

谷原 ええ。ですから僕、吉右衛門役のお話をいただいた時に、名代と言うとおこがましいんですけれども、児玉さんの代わりに演らせていただくような感覚がありました。

佐伯 あの頃、児玉さんからよく、谷原さんの話を聞きましたよ。「まだ独り者なんだ」なんて心配もしていて。

谷原 ハッハッハ! その後、僕も結婚しました(笑)。

佐伯 実の息子さんのようなお気持ちで接していらっしゃいましたね。

 今回「居眠り磐音」で谷原さんが今津屋吉右衛門を演じられる、いやあ、児玉さんが「良かったね」と言ってくれる気がするんですよね。なんだか親子ではないんだけれど、2代にわたってお付き合いいただいた感じが私はいたしましてね。ぜひ谷原さんとお話をしてみたいと思っていたんです。

谷原 感謝しかないです、本当に。(中略)

 小説『居眠り磐音』はこれから51巻、すべて〈決定版〉が出ていくわけですね。

■全て刊行したあかつきには……?

佐伯 はい。2021年の春先まで、2年以上かけて出ることになります。

谷原 51巻、全て刊行したあかつきには、新作もあるかもしれない……。

佐伯 どうでしょうか。新作書いて悪いわけじゃないだろうし、自分の頭の中でアイデアが形になった時には……。27歳の、あの関前での悲劇の日からずっと磐音を書いてきた。僕も80に手が届くような歳になってきて、そうした年齢を意識し始めた磐音を書くのもいいのかな、という気持ちもあります。藤沢周平さんの『三屋清左衛門残日録』みたいに。人間みんな歳を取っていくんです。

谷原 そうですね。老いていく……僕はいま46歳で。

佐伯 まだまだ。

谷原 まだまだ元気ではあるのですが、徐々に意識すると言いますか。81歳の父親と一緒に暮らしているんですね。父がだんだん弱っていくのを見ると、ああ、僕もやがてこうなっていくのかなと、日々自分の老いのことも考えていくようになっています。

佐伯 書かなきゃいけないのかな。

谷原 読者としては、読みたいです。すごく読みたいです。

 

(「文春オンライン」編集部)

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